1-3 僕、とここの幼馴染(1)
手を引いて魔法書から離れると、彼女も同じように本を差し出してくれた。
お互いに「いいよ、いいよ」なんて遠慮し合って、結局その本は彼女のものになった。
彼女のちょっと変わった目は、まるでペルシャ猫みたいで、すごく可愛くて、一度見つめたら忘れられないくらい印象的だった。
本を買い終えた彼女が、ふと僕に声をかけてきた。
「もしよかったら、一緒に読む? 君も見たそうにしてたから……」
「本当? ありがとう!」
まさか、自分から誘ってくれるなんて……。
家を出る前、僕は何度も考えを巡らせて、システムに前世の記憶をすべて適切に保管・整理するよう指示しておいた。
今、僕のシステムは前世の「劉柳留」という存在のイメージを持ち、必要なときには、直ちに関連するモジュールを呼び出し、前世の思考方法を使って問題を解決することができる。
簡単に言えば、今の僕の行動は、この体と心の自然な反応に任せているということだ。
あの青白い髪……まるで天使のような顔立ち……。
小柄だけど、左の青い瞳と右の明るい橙黄色の瞳が、それぞれ深い湖と眩しい太陽みたいに輝いていて、神秘的な美しさを放っている。
それに、白い四芒星の瞳孔が、その美しさをさらに引き立てている――
まあ、この大陸の人たち全員の瞳孔が白い四芒星だってことは、分かってるけど。
「欠点がない、完璧な容貌だね……。」
そう思ってから、一緒にその本の秘密を探り始めた。
彼女の読むスピードは、僕にとってはかなりゆっくりだ。前世で身につけた速読スキルを、この世界でも引き継いでいるから。
しかも、僕は無詠唱魔法の使い手。魔法は、仕組みさえ分かれば完全に理解できるし、頭の中だけで自在に操れる。
だから、彼女が次のページをめくるまでの間に、内容をじっくり理解する余裕は十分にあった。
気づけば日が沈み始めていた。彼女が本を閉じ、「ああ、もう夕方だね」とつぶやいた。
「そうだね。たくさん勉強になった!ありがとう!」
「いいの、気にしないで!あ、君の名前、教えてくれる?」
「僕の名前は……ちょっと長いから、君の名前を先に聞かせてくれる?」
「私はグラウシュミ、3歳の平民。そんな大した者じゃないわ。でも、君の名前、ぜひ聞きたいな!」
「そ、そうか……。僕の名前は――セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリア。長いから、『セリホ』って呼んでくれていい……いや、正直に言うと、『セリホ』だけの方が、ずっとありがたい……」
名前と住所を教えてもらい、「これからも遊びに誘えるかも」なんて期待しながら、グラウシュミに別れを告げた。
どうやら、グラウシュミは僕に対して、わりと好感を持っているようだ。
しかも私は、没落したとはいえ貴族の出身で、権限も威厳もまだある程度は残っている。
――ただ、本来は、そういう出身を利用するのって、あまり好きじゃないんだけど。
だから、正当な名目さえあれば、彼女を遊びに誘うこともできる。
数日後、指定した場所に行くと、グラウシュミはすでにそこにいて、少しワクワクした様子で僕を待っていた。
今はチャンスだ!
「グラウシュミ、最近覚えた花系魔法の一つを見せてあげようか?」
「え、見たい!」
花系魔法とは、その名の通り植物に関連する魔法で、多くは治癒系だが、一部には攻撃魔法もある。
目を閉じ、口では何かを唱えているふりをして、魔法を使っているように見せかけた。
実際には、ただ指先を器用に動かし、小さな花の球を作っただけだ。
理論上、「風花雪月」の四系統の魔法のうち、「風系」はすべて攻撃魔法。
「花系」は主に治癒系で、防御魔法にも分類されるが、一部は攻撃にも応用できる。
「雪系」には攻撃と防御、両方の魔法が存在する。
そして――「月系」。
これまでに見たことすらなく、まるで存在を抹消されたかのような系統で、口にすることすらはばかられる雰囲気がある。
……でも、それはあくまで理論の話だ。
「これ、本で見た魔法だよね?一度見ただけで覚えたなんて、すごい!」
グラウシュミは嬉しそうに花の玉を見つめ、少し感心したように言った。
「まあね。よかったら、本に載ってた他の魔法も試してみる?」
「うん! じゃあ……小さな花の妖精、出せる?」
「生命を創り出す魔法はないから、それは残念ながら無理かな。」
「えー、残念残念。じゃあ……ぬいぐるみは?それならできるでしょ!」
「任せて!」
僕はまた小さな呪文を唱えるふりをして、ポン、と大きなぬいぐるみを出現させた。
「じゃーん!」
「わぁ、かわいい!」
彼女はぬいぐるみを大事そうに抱きしめてから、ふと尋ねた。
「でも、これって君が出したんだから、君のじゃないの?」
「いいよ、プレゼント。」
「ありがとう!」
グラウシュミがぬいぐるみを抱えて嬉しそうに笑う姿に、僕もつい微笑んでしまった。
「今日はどんな遊びをしようかな?」
「うーん、かくれんぼしよう!君が隠れて、私が見つける役ね!」
グラウシュミは楽しそうに提案してきた。
「でも、エリアはこの場所だけ!見つけたら絶対に動いちゃダメだよ?」
「わかった。じゃあ、数を数えてくれ! せーのっ!」
「60!59!58!57!56!55!54!53!52!51!……」
グラウシュミが数え始めるのを待った。
彼女が背を向けた瞬間、そっと風を使い、軽やかに近くの木の上へ跳び上がる。
――期待してるね。
「50!39!38!37!26!25!24!13!12!11!……」
……え?えっと……?ちょっと待て?
その手、前にも見た気がするんだけどね?一姉?
「10!9!8!7!5!4!3!2!1!狩りの時間だよー!」
まあ、いいか。
木の上に腰を下ろし、のんびりと彼女の様子を見守った。
すぐ真下では、彼女が一生懸命に僕を探している。
こんなに近くにいるのに、まさか頭上にいるとは思わないだろう。
「灯台下暗し」から。
せっかくだから、青空を見上げてひと息ついた。
のんびりとした気持ちで景色を楽しんでいると、ふと彼女が木を見上げてきた。
「ねえ!もしかして君、そこにいるんじゃないの?」
おっと、まさか気づくなんて――鋭いな。でも、ちょっと意地悪がしたくなって、僕は笑いながら言った。
「はーい、正解!でも、触れたわけじゃないから、まだ負けじゃないよ?」
「ずるい!君絶対、魔法使ったでしょ!」
グラウシュミはぷりぷりと怒りながら叫んだ。
「う、バレた?次からは使わないって約束するよ!」
僕は素直に木から降り、足元にふわりと青い花を咲かせて、柔らかく着地した。
「もう!ズルしたらダメだってば!」
グラウシュミはふくれっ面で僕の腕を軽く叩いたけれど、すぐに笑顔に戻って、「でも楽しかったから許してあげる!」
その無邪気な笑顔に、なんだか僕も心が温かくなった。