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2-3 暗流の夜(3)

「はい。」

 デルガカナは僕の言い分を全く無視して、「じゃ、グラウシュミ、そして、臆病者セリホ、おやすみ。」

「臆病者じゃない!違うから!全然誤解だって!」

 でも、デルガカナはまるで僕の話など聞いていないかのように、リリラアンナを背負ったまま歩き去ってしまった。

 部屋は再び静けさを取り戻す。ただ、冷たい光が時折、動く桶を照らしている。

 なんとなく不快な気分になり、自分のSAN値も下がっていることに気がついた……。

 ――こいつ、スティヴァリの森の怪物より不気味かもしれない。

「グラウシュミは先に夢の世界を楽しんで。僕は片目ずつ閉じながら眠るから。」

「は? 片目ずつ閉じてどうやって寝るの? セリホ、ちゃんと考えてから話してよ。」

 グラウシュミのSAN値を確認すると、さっきよりさらに下がっていて、思わず驚いた。

 こんな状況なのに、グラウシュミはベッドに横になって眠ってしまう。一方、僕はソファに腰を下ろした。

「心配しなくて大丈夫。夜更かしにはもう慣れてるから。それじゃあおやすみ。」

「……」

「……」

「何だこれ?」

 夜が明ける四時ごろ、オレリアがひっそりと僕の部屋に潜り込んできた。

 昨日から今日にかけての突然の出来事を踏まえ、万一に備えて魔法を解いておいた。

 僕は黙ったまま、ソファから部屋のほとんどを占める改造発電機とテレビに夢中になっている彼女を観察していた。ツタにしっかり巻きつけられたあの桶は、ちょうど彼女の視線が届かない隅に置いてある。

 その隅のことは、自分にははっきりと見えている。

「オレリア。」

 ソファに、眠気覚ましのために手早く描いた一山の莫辞遐をポイッと放り投げ、言った。

「知らない場所に入ったとき、全体を見渡すのを忘れたのか?」

「君、起きてたの?」

「当たり前だろ。」

 僕は何も言わずに、隅に置かれた「それ」をオレリアにちらっと見せた。

「あ? それ何?」

「昇進しても性格は変わらないな、中将オレリア。――開けてみるか? 人からのプレゼントだ。」

「人からのプレゼントが……」

 オレリアは言い終えるや否や、一瞬で風刃を放ち、鉄桶を真っ二つにした。

 次の瞬間、皮のない血まみれの人間と、溶けた氷の水が混ざり合って床に崩れ落ちた。

 オレリアのまぶたがぴくりと震えた。

「さっき……それを『プレゼント』って言ったの?」

「ほら、このツタ、リボンが付いてるでしょ。まるでプレゼントみたいじゃないか。これ以外に、何がプレゼントだって言うんだ?」

 鬢髪を少し巻き上げながら話した。

「こんなことやらかしたら……もし人が死んでたらどうするつもり?」

「法律に基づき、十二歳に達した者で十四歳未満の者が故意に他人を殺害し、または重大な傷害を与えて相手が死亡、あるいは深刻な後遺症を残した場合、刑事責任を負うことが定められている。」

「……確かに。」

 オレリアは何かを隠すように、この言葉にうなずいた。

「でも、僕はまだ十二歳未満だからね。記録される心配もないし、もちろん刑事責任を負うこともない。」

 鬢髪を指でくるりと巻き上げながら、あえて自分がその責任を背負うように言い放つ。

「だからさ、オレリア――ちょっと手伝ってくれない?」

「……何を?」

「この人、まだ生きてる。この人から情報を引き出してきてくれない?」

「まだ生きてんの?」

「まさか、死んでると思ってた?」

「ええ、オレリア様。こいつ、まだ生きてます。さっき魔法で確認したら、また彼に作用させることができるよ。」

 グラウシュミも目が覚めていた。

「ふーん、セリホと一緒にいる時間が減るのは少し残念だけど、セリホの頼みだしな……」

「彼の口が堅いと思うから、どんな手段を使ってでも尋問してほしい。」

 オレリアが風でその人を浮かせ、「分かった。」と答えた。

「私たちへの報告も頼むね。」とグラウシュミがさらに一言を付け加え、オレリアは風に乗って去っちゃった。

 しばらくして、オレリアはスティヴァリの森の中のあまり知られていない秘密の場所に降り立った。

 ボソッという音と共に、その人の内臓がすべてバラバラになった。

「おはよ、セリホ!」

「セリホ、おはよう。」

 リリラアンナとデルガカナがこの部屋に戻してきたとき、桶はもうすっかり切り刻まれてた。

「ああ……おはよう……」

 一夜中眠らなかった。この体はまだ徹夜に慣れていないみたいだ。

 コーヒー、必要……

「また楽しい週末の時間だね~コーヒーでも飲みながら本でも読みに行かない~?」

 リリラアンナがニヤニヤしながら誘ってきた。

「本、読めるかな……まだ、手紙……」

「セリホは眠そう。もしかして昨日、本当に片目ずつ閉じながら寝たんの?」

「何々、おや、これ大したことじゃないよ~全然!徹夜くらいでさ、むしろコーヒーの出番だろ、コーヒー!しゃっきりするから。」

 リリラアンナが肘で僕を軽く突きながら、無理やり引っ張る。

「はいはい……」

「そしてね、日差しが強い所でメラトニンをたくさん分泌しよう~ほら、元気出たじゃん~デルガカナ、案内。」

「ちょっと待って……」

 数日前、十遊秤から手紙が届いた。

 自分で「三日以内に返信する」というルールを決めていたのに、色々あって今日まで書けず、今になって追い込まれている。

 グラウシュミとリリラアンナには逆らえない。だから、いつも通りの朝のルーチンを終えてから、しぶしぶ外に出ることにした。

「旦那~、エスプレッソひとつ~。砂糖なし~、塩なし~、ガーリックなし~、ミルクなし~」

 朝の喫茶店の客はいつも少ないし、リリラアンナのように変な注文をする人なんても珍しい――いえ、そこまでには彼女しかいない。

「その注文のポイントは最初と最後のだけだよね。」と僕は苦笑いする。

「違うの~余はそう言いたかったの~」

「それに、お前さ……わざと僕を窓際の席に座らせたんだろ?太陽の光が眩しくて、全然読めないじゃない!」

「え~、別に本を読むためだけにここ来たわけじゃないよ~」

「じゃあ何しにここに来たんだ?ただ高いカフェを楽しむためだけか?彼女とそっくりだな……」

「お前の口にした『彼女』が誰かは知らないし知りたくもねぇが……」

 するとリリラアンナはふざけた表情を引っ込めて、少し真剣な顔で言った。

「君、デルガカナの過去、知りたくない?」

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