2-2 未来の時(3)
「子供にこの内容って、ちょっと……」
「いいじゃんいいじゃん!ちゃんと健全な内容だし!」
「健全って……血が飛び散るシーンとかあるんだけど?」
「見終わった後にこんなことするの? 顔に飛び散るくらいのインパクトがないと、警告って伝わらないでしょ?」
「デルガカナ、コスタリカ、死なない。デルガカナ、コスタリカ、好き。コスタリカ、緑色で、活発、好き。……あ、セリホ、セリホ、問題、一つ。」
「うん?」
「セリホ、風の魔法、箱たち、動かしているの? デルガカナ、質問。どんな呪文で、どうやって?」
「えーっと……それはね、すごく長い呪文だ。」
髪を少しかき上げようとした、その瞬間――物音がした。
月明かりすら差し込まない寮の中、真っ暗で何も見えない。
全員がすぐに静まり、警戒を始めた。
「ネズミ?」
「ペストを広めたやつ?」
直後、向こうから連発の風弾が飛んできた。
「黒死病って十四世紀の出来事だよ……リリラアンナ、どうやってそんな歴史を学んだの?」
肉体の反応が速く、その攻撃はすべて魔法で防ぎきれていた。
その後、手を上げて風刃を放ち、空から飛んできた同じ魔法を正確に打ち消す。さらに、相手の連続する風弾も魔法で次々と無効化した。
「……」
明らかに、これはただ一人の者の攻撃だ――そう戦いながら心の中でつぶやいた。
この程度の攻撃なら僕にとって余裕だ。
だが、もし相手が数時間も攻撃を続けてきたら……。ずっと警戒を続けるうちに、体力は徐々に削られていくだろう。
それに、何よりも不安なのは――敵が増援を呼ぶかもしれないことだ。
……この状況、かなり厄介だな。
「グラウシュミ、デルガカナ。約十秒、持ちこたえろ!」
すべての準備を整えたあと、ゆっくりと目を閉じる。
周囲の騒音を切り捨て、自分の内側だけに集中した。
深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻すと、体の感覚が次第にはっきりしてくる。
それから、訪ねてきた者の気配を探り始めた。
――仕方ない。魔法の扱いには、まだ慣れていないのだから。
「了解!」
「デルガカナ、わかった。」
「完全に余の存在を忘れていたな……」
「リリラアンナ!左だ!」
グラウシュミがリリラアンナの腕を引き、風刃をかわした。
「?!」
わずかに遅れて、風切り音が耳をかすめる。
「……リリラアンナ、油断しないで!防御力が高くても、無茶をして死んじゃ意味ないんだよ!」
「ありがと~!反応力さすがだね!」
「私のことは気にしなくていいから、みんなセリホを守る!」
二人が言葉を交わしている間にも、デルガカナの手は止まらない。
バリバリと呪文を唱えると、周囲の空気から水分が引き寄せられ、小さな氷の粒がきらきらと輝き始めた。
風刃が迫るたび、デルガカナは手を振るような仕草でそれを防ぎ返す。
瞬時に形成された氷の壁が、次々と迫りくる攻撃を弾き返していく。
一方、集中力を途切れさせることなく、グラウシュミはサポートに回った。
詠唱を続ける彼女の手のひらから淡い光があふれ出し、デルガカナと僕へと流れ込む。
それは魔力を補充する魔法。静かに、しかし確かに体内を満たしていき――その瞬間、枯渇しかけていた魔力が癒され、力強いエネルギーが全身を駆け巡った。
認めざるを得ない――デルガカナの魔法の威力もまた、驚異的なものだった。
入学式での剣術試合だけでは、まだ見せていない力がたくさんあったのだ。
しかも、魔法を使うときに体が光るなんて……以前はまったく気づかなかった。
「よし、これでいける!」
手元の魔法を少し改良して、パッと咲く炎花に変える。
半暗闇の中、僕は一気に影の部分を蹴り、その人物をバルコニーの外へと蹴り飛ばした。
すぐさま机の上にあった類唐大刀を手に取り、飛び出す。
部屋の外は思ったよりも暗くなく、朔月の夜にもかかわらず星々がきらきらと輝いていた。
それは、現代では決して見られない自然の光景だった。
「――そうだ!手回し懐中電灯で光を出せるじゃないか!」
リリラアンナの影響で浮かんだ不思議な考えが、一瞬だけ脳裏をよぎる。
だが、本当の敵はもう目の前にいた。
相手は黒いフード付きの服をまとった影。どうやら数々の戦いをくぐり抜けてきたベテランらしい。
僕が蹴りを放った瞬間、あいつは冷静に体勢を立て直してきたのだ。
刀と魔法が入り混じる激しい攻防が続く。
だが少しずつ、僕の風の魔法が優勢になっていった。
相手の息が乱れた、その瞬間。
「決めるなら今しかない!」
僕はそう心に決め、踏み込んだ――。
が、そのとき――背後から不意に殺気が走った。
遠距離からの攻撃。それも、まさかの風・花・雪、さらに月系魔法まで混ざっている……?!
「これ以上、引き延ばすな」
僕は心の中でつぶやく。背後には守らなければならない三人がいる。
最初は可能な限り状況を制御し、相手を気絶させるだけで済ませるつもりだった。
だが、この現状を見るかぎり、事態は予想以上に厳しい……。
「カシャン!」
金属が交差する鋭い音が響き渡り、耳を震わせた。
「集中しろ!」
叫び声とともに、グラウシュミとリリラアンナがバルコニーに姿を現す。
伸びる蔓が空を切り裂き、背後からの急な魔法攻撃を見事に防いだ。
「全力で攻めろ!余たちのことは心配するな!」
「でも――!」
「三歳の子供じゃないんだ!自分を犠牲にしてまでやる価値があるのか!?守ってもらう必要なんてない!」
「私たちのことは気にしないで!私が全力であなたを守る!だから――行こう!」
「……分かった、ありがとう!」
彼女たちの声に背中を押され、僕は全力で攻めに転じた。
刀をしっかりと握りしめ、攻撃の速度を上げていく。
すると相手も本気を出し、お互い一進一退の激しい攻防が続いた。
鉄と鉄がぶつかり合う音が響き、目の前で火花が散る。
相手の詠唱は切迫感を増し、連続して近接魔法を放ってきた。
しかし僕は素早く体勢を低くし、一歩、横へと滑るように動いてその攻撃をかわす。
次の瞬間、敵の隙を逃さず、刀を握る手に力を込めて反撃の一撃を放った。
空気を切り裂く音が静寂を破り、刀は直線的に敵へと伸びる。
だが相手もすばやく身を翻し、魔力を徐々に蓄え――そしてついに、その全威力を解放した。
「デルガカナ、準備、できた。」