2-2 未来の時(1)
アシミリアン先生は授業中はすごく厳しいけど、授業が終わるとクラスのことなんて全然気にしない。
ドアを閉めると、リリラアンナはすぐに共通語に切り替えた。
「さっきアシミリアンに何か言われてた?」
僕は口元に指を当てた。
「シーッ。聞こえちゃうから。」
昼になると、教室にはほとんど誰もいなくなっちゃうので、僕たちは静かで見晴らしのいいベランダで自由に話すことが多い。
「彼は共通語を理解できる。」
「え?もしかして、彼も……?」
「いや、彼は違う。でも見識は相当広い。」
「どれくらい?見た目は30代前半くらいだけど、先生って意外と年上に見えるから、実は29歳とか?」
「アスレンのゲームにも興味あるんだなお前。」僕は笑いながら言った。「年齢の下一桁は合ってるけど、十の位は間違ってる。」
「ちょっと待って。『十の位は間違ってる』って……ええ?!まさか童顔のおじいさんだったってこと?!」
「そう、1019歳。信じられる?」
「魔法で若さを保ってるってこと?」
「その通り。彼の若さは、活性酸素説とテロメア理論に基づいた魔法で維持されているんだ。」
「もし本当ならまさに生きた歴史書だね。でも、人の記憶力や処理能力には限界があるでしょ?」
「事務室に入ったとき、机の上には歴史書が山のように積まれていて、彼が書いた日記もいくつか置いてあった。日記には確かに主観的な要素も多いけど、過去の出来事や対応の記録もぎっしり詰まっている。」
「ふーん……歴史を知っているって、確かに権力を持っている証明でもあるよな……」
グラウシュミは共通語で話している内容は理解できないが、一生懸命に理解しようとして、共通語の文字でメモを取っていた。
「まあ、そうとも言えるね……ちょっ、デルガカナ!何してる?」
デルガカナがすでにベランダの手すりに上がってしまったので、慌てて引き下ろした。
「デルガカナ、わからない。デルガカナ、ひとりぼっちに、されてる。」
「小さい子なんだから、わからなくても当然だよ。」と僕は言った。
「デルガカナ、小さい子、じゃない。デルガカナ、一人でも、できる。デルガカナ、足手まといには、ならない。」
「別に孤立させてるわけじゃないよ……大人の会話だから、子供にはわからないのは当然だろ。」
「おやおや~!大人だって?」
「まだ大人を名乗る顔か?」グラウシュミは僕の言葉を聞き逃さず、突っ込んできた。
「大人だって?私の前でそんなこと言うの?」
さらに、彼女は軽く僕の耳をつまんできた。
「勘弁してください、グラウシュミ——!今日だけは見逃してください!」
「ふんっ。私より一か月だけ年下のくせに。君が成人するのは私より後だもんね、ふんふん!」
「そうそう、デルガカナよりも年下なんだよね~」
「デルガカナ、賛成。セリホ、小さい、弟くん。へへっ。」
デルガカナはそう言って、唇をぺろりと舐めた。
「おいおい、最初はまだまだけど、その最後の動きは何だ!?
まあ、デルガカナはまだ分かってないとしても、お前らが僕と年齢を比べて『子供だ』なんて言うのはやめろよ!そんなふうに人をいじめるな。比較するならアシミリアン先生としろ!」
「あいつと余たちは世代がまったく違うし、そんな比較は無理無理。実験でコントロール変数を間違えた――まさに大失敗の例だね。バーカ、セリホ~」
「へえ、さすがだな。君こそ当代の準備不足の当代代表ってやつ?」
「は~い、ごめんね~。年上は何でも自由~。『ゲーム依存防止』の年齢制限だってスキップしちゃうんだから。」
「必要ないし。」
「一か月上でも、立派に年上よ~。」
「グラウシュミ、なんで君まで?!いい加減にして!」
その夜も、僕の部屋に三人で集まった――もはや日課になりつつある。
僕が彼女たちを部屋に招く理由はいたってシンプルで、きちんと敬意を持っているし、やましいつもりなんて一切ない。
しかも、寮の管理人さんもそこまで厳しく見回るわけじゃない。
二人、四人、八人でシェアする部屋もあるけれど、特優生だけは一人部屋を与えられている――この特別な取り決めは、特優生の多くが豊かな教育資源を持つ貴族家庭の出身だからだ。
だから、小さい頃から質の高い教育を受けている人が多い;一方で本当に実力のある人も少なくない。小さい頃から質の高い教育を受けてきたんだから、当然能力も高い。今回の特優生たちは、本当の力をしっかり見せてくれてるし。
普段よく寝るソファに、グラウシュミとデルガカナが座って、ちっちゃな白黒テレビを見ている。
花系魔法を極めると、無機物を作り出せる。
具体的には、物質の構造を精密に調整して、周りにある基本的な元素を新しい形に組み替えるんだ。そうやってバラバラな要素を一つの実体にまとめ上げて、見えないものを目に見える形に変えていく。
だから、特優生には小さい頃から質の高い教育を受けてきた者が多い。その一方で、本当に実力を持つ者も少なくない。幼い頃から蓄えた学びが土台となり、当然のように能力も高い。
今回集められた特優生たちは、その力を余すことなく見せつけている。
普段は僕がよく寝転がるソファに、グラウシュミとデルガカナが並んで座り、小さな白黒テレビを眺めていた。
常識的な理解では、花系魔法を極めると無機物すら生み出せる。
具体的には、物質の構造を精密に組み替え、周囲にある基本的な元素を新たな形へと再構築するのだ。そうしてバラバラな要素を一つの実体にまとめ上げ、目に見えないものを、目に見える形へと変えていく。
しかも、「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」大陸は魔法が普通に使える世界だから、前世の物理学なんて通用しないし、バグが出ても不思議じゃない。
「だから悩んでいるんだね。」
リリラアンナが元の世界の言葉で言い始めた。
「何?」
「シミュレーションの記憶によると、高校では物理・歴史・地理を選択し、大学では物理を専攻したんだけど、ここじゃ全然役に立たないんだよね。」
「笑えるな。物理学なんて魔法のおかげで台無しだし、前世の歴史もここじゃ意味がない。地理に至ってももうーー」
「役立たずばっかり! 大学の期末試験の苦しみが分かる? 延長卒業の辛さが分かる? お前もそろそろその大変さが分かるんじゃないの?」