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2-1 朽ちぬ人(2)

「聞いてみなさい。」

「アシミリアン先生は、どこから来たのですか?」

「地元だ。ただ、かつて転生者や異世界からの来訪者に会ったことは何度もある。

 千年くらい前には、毎日たくさんの異世界人がここに連れてこられていた時代があったんだ。しかも、中にはその異世界の技術や自分の世界の珍しい物を持ち込んできた者もいた。」

 元の世界の時代に換算すれば、西暦から東暦に移り変わる頃の戦乱期だ。図書館で史料を調べて推測した基準とほぼ一致する。

「そうですか。核戦争、隕石の衝突、異能による感染症も……」

「ああ……わからない……」

 さっきから共通語で会話しているせいで、グラウシュミはノートを手にしていながら、一文字も書けていなかった。

「つまり、アシミリアン先生は千年も前からここにいたのですか?」

「そう。そして今から504年前には、大規模な転生者昏睡事件があった。その事件をきっかけに、転生者の数はぐんと減っていった。」

「東暦508年?」

「そう……」

 デルガカナが少しだけ動くと、リリラアンナは大きく体を伸ばし、まだ半分寝ぼけながら「ベッド最高! ずっと寝てたい! いっそのこと、自我を持ったベッドペット作ってくれないかなーー!」と、まるで日課のようにぶつぶつ呟いていた。

「昼休みに話そう。」

 リリラアンナの様子を見ると、アシミリアン先生はすぐに話を切り上げた。

「はーい……」

「え? は? マジで? おい、ちょっと待って! お前、自分の正体を暴露したって本当か?」

 廊下でこの話を耳にしたリリラアンナは、びっくりしてアホ毛がぴょんと逆立つと同時に、瞬時に共通語へ切り替えて叫んだ。

「何考えてんの? この前までのミステリアスな雰囲気はどこ行ったの? 頭打った? 体温測ってあげようか? 見た目は大丈夫そうだけどさ。まさか……! 毎日の勉強がきつすぎて、脳みそイカれちゃったんじゃないの? 学校って本当に大変だ——」

「待て。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って知ってる? それに、君本当にこの世界の歴史を理解しているのか?」

「何が珍しいの? 元の世界の中世ヨーロッパとほとんど変わらないじゃない。システムにもそう書いてあるけど、セリホ先生はどうお考えですか?」

「君のシステムは、君を裏切っている。」

「外付けハードディスクがこの私を裏切るって? ちょっと頭おかしくなってない?」

「お褒めいただきありがとうございます。」

「どういたしまして。」

 すぐに昼休みになった。

 僕はまっすぐアシミリアン先生のもとへ向かおうとしたが、デルガカナにベルトを引っ張られて足を止められた。

「デルガカナ、質問。セリホ、どこに行く?」

「アシミリアン先生に会いに行くだけだ。先生に伝えたいことでもあるのか?」

「デルガカナ、行く。デルガカナ、覚えてる。約束した、ずっと、一緒だって。」

「行っても、たぶん罰として書き取りだよ? 手が疲れるくらいの量になるかも。鉛筆を持つのも大変なくらいさ。」

「デルガカナ、我慢、できる。」

「四十四回かもしれないよ、リリラアンナが前にやらされたみたいに。あの『誤種』の文章を罰として書き写させられたの、覚えてる?」

「うわぁ、それは勘弁して! おかげで全文暗記するくらい書いたわよ〜」

「今ここで暗唱して?」

「いや、それはちょっと無理。」と、リリラアンナは言い返した。

「じゃあヒントね。『意図的に羅刹を作る、天生の悪種』……はい、続けて?」

「こんなの、将来役に立たないし、覚える必要もないじゃん!」

「これじゃ、あの『高等魔学』?」

「うーん、いえ、『高速退学』!」

「大丈夫。デルガカナ、八十回でも、平気。」

「それと、手のひらを叩かれる罰もあるかもね。すごく痛いよ。」

 実際のところ、アシミリアン先生が手を叩いたことは一度もない。けれど、前世のせいで、そういう記憶が今も残っている。

「デルガカナ、何度も、経験ある。手を、叩かれるの、そんなに、痛くない。」

「何度も経験ある?!でも先生が僕だけ呼んだから、デルガカナはここで待っててね。安心して。ちょっと行って、すぐ帰ってくるから。」

 この言葉が、デルガカナをなだめる最も適切な対応だった。

「……うん……デルガカナ、わかった。」デルガカナはしっかり頷いた。

 一方、リリラアンナはリンゴをポイポイ投げたり、クラスメイトのブレランクス家の子を脅かしたりして、相変わらずのんびりした態度だった。

「アシミリアン先生、いらっしゃいますか?」

「入っていい。」

 中から招き入れる声が聞こえた。

 アシミリアン先生の一人用事務室はきれいに整理されていて、机の上には歴史に関する本が山のように積まれている。

 入ったとき、先生は文字が一切書かれていない本を真剣な表情で見つめており、まるで何かを研究しているようだ。僕が来たことに気づくと、その本をさっと閉じ、歴史の本の山の中へ素早く差し込んだ。

「こんにちは。お昼、早かったね。」

「こんにちは。まあ、慣れてしまいましたから。」

「そう? 今は敬語を使わなくていい。気楽に話しなさい。」

「分かった。じゃあ単刀直入に質問してもいい?先生って、この時間軸の千年前から残っている人か?」

「その通り。今、何歳だと思う?」

「919歳……?」見た目や今までの話から、適当に当ててみた。

「後ろの二桁は合っている。今年で1019歳だ。」

 長寿だな……!

「じゃあ先生、その長寿って、魂を移し替えたり、肉体を変えたりする方法? それとも肉体の老化を遅らせるみたいな方法?」

「肉体の老化を遅らせる方法だ。」アシミリアン先生が答えた。「この方法は、今のところ君にしかできない。だから、君を呼んだんだ。」

「それって、僕が花系魔法をある程度使えるから?」

「それが大きな要因なのは確かだ。次に知りたいのは、どうやって老化を抑えて遅らせるのかってことだろう?」

「うん。」

「なるべく簡単に説明しよう。細胞の染色体の末端にあるテロメアを延ばしているんだ。」

「テロメアが短くなると分裂できなくなって、細胞が老化するって理論か。なるほど、まさかテロメア説を取り入れてるとはな。花系魔法でテロメラーゼを活性化させてテロメアを延ばせるなら、確かに寿命を伸ばせる。でもそれ、花系魔法の精度がかなり必要そうだよね?」

「もちろんだ。それに、肉体の老化を遅らせる方法はこれだけじゃない。」

「はい。」

「体内で発生する活性酸素みたいなフリーラジカルが組織にダメージを与えることも、老化の原因なんだ。」

「なるほど。フリーラジカルを取り除くことでも寿命を伸ばせるのか、分かった。でも、花系魔法でミトコンドリアに直接作用させることもできるのかな?」

「知識と精度があれば可能だ。この二つの手段を組み合わせることで、今の寿命を維持している。」

「なるほど。でも、それだけじゃなくて、ほかに決定的な要因が関係しているのか?」

「月系魔法が許可されて使えるって知ってたか?」

「知らなかったよ。先生も知ってのとおり、僕たちのところじゃ月系魔法は全部禁じられてるから、何も教えてもらえなかったんだ。」

「しかし、君が過ごしてきた日常には、そういった存在が身近にいたはずだ。いつも一緒にいた者。」

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