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1-16 僕、無理やり女装させられる(4)

「分かってる。市場取引の視点で考えると、完全にぼったくられたが、それでも……これは『所有権』を買ったんじゃない。『価値のないもの』に、『価値あるもの』をぶつけたんだ。」

 魔法を解除しながら、僕は静かに言った。

「この勝負──僕の勝ちだ。」

 静まり返った空間に、ゴールドが積み重なる音が響き渡り、周囲の視線が一斉に僕に集まった。

「違う……」

 老人はかすかに呟いた。

「お若い、お前は……あの方のお子か……? だが、胎の中で命を落としたはず……?」

 やがて最後の鍵が外されると、その男が一枚一枚を確認するのを見守りながら、彼はようやく首の鍵を外し、少年を解放した。

「お前のものだ。」

「彼は誰の所有物でもない。」

 疲労で体が重くなっていたが、僕は前に出て、足を引きずる少年にそっと手を差し伸べた。

 この少年は、僕と年が近いように見えたが、その頭の角があるという理由だけで、自由と尊厳を奪われていたのだ。

「君は自由だ。」と僕は言った。「もう二度と捕まるんじゃない。さあ、早く行け。」

 少年はその言葉をしっかりと受け止め、力強くうなずいた。だが次の瞬間、何かを決意したように、自分の角に手を伸ばした。

「待って、何をするんだ?」

 少年は、自分の角を折り始めた。顔に汗を浮かべ、歯を食いしばりながらも、その手を止めることなく続けている。

 その姿に、僕は驚き、言葉を失った。

「ありがとうな、恩人。自由と尊厳をくれて。このツノは、きっとすぐにまた生えてくると思うわ。今の俺にできる、唯一のお礼として――俺の決意の証にするんや。」

 少年はようやく手を止め、痛みに耐えながらも、僕の目をまっすぐに見つめて言った。

 その言葉に、僕は何も返せず、ただ少年の顔を見守ることしかできなかった。

 彼の目には強い意志が宿っていて、その覚悟がはっきりと伝わってきた。

「まずはブレウッズに戻って、自分と同じように苦しんどる仲間らを探すつもりや。

 みんなに、平等に接してお互いを尊重することの大切さ、ちゃんと伝えたいんや。

 俺が知っとることを教えて、みんながふさわしい尊厳と幸せを取り戻せるようにしたいんや。

 せやから、恩人。いつかみんなが公平に向き合える場所で、また会えること――願ってますわ。」

「いい。それはそうと、君の最初の名前は何?」

へい十遊秤じゅうゆうへいや。」

「セリホと呼べばいい。」

「わかったで、恩人。ちゃんと覚えとくわ。」

 そう言い残し、彼は背筋をピンと伸ばし、重い決意と信念を抱いてブレウッズの奥深くへと向かい、夜の闇に溶け込むようにその姿を消していった。

 ……財布が空になっちまった。

 彼の去りゆく姿を見つめながら、僕は少しばかり感慨にふけった。

 確かに、後悔することはない。

 だが――さっきのやつ、いったいどういうこと……?

「まるで同じ型で作られたみたいだな〜。あ、今のはもう『アルサレグリア奥様』って呼ばなきゃダメだな。」

「それで、受け入れるのか?」

「余にそんな言い方をするのか〜?」

「今回は、雪系の首領として言ってるんだ。まあ、君にはかなわないってことは分かってるけどさ……」

「はいはい、そういう立場ね〜。そっか、仕方ないね〜。」

 遠くで一瞬止まった馬車が、何事もなかったかのように、また走り出していった。

 寮に戻ると、まだ鍵を変えていなかったせいで、部屋に入った途端、ベッドの上では3人の女の子たちが跳ね回っていた。

「君ら、部屋を間違えてるんじゃないの……?」

「いーえ、そんなことない! 余は道を知ってるんだから、部屋間違えるわけない!」

「それに……? またベッドを壊されたら、今度こそソファで寝るしかなくなるんだ!」

「また買えばいいじゃん。」、とグラウシュミが言った。

「今日は手持ちの金の一割も使っちゃった。半期ずっと霞を食って生きるのはごめんだな。」

「……はぁ?! セリホ、一日で1000ゴールドも使ったって?! 余たち三人は今日……」

「リリラアンナ、実、もう、使っちゃった。1000、ゴールド。」

 デルガカナが冷静に補足した。

「ちょっと待ってよ、何に使ったんだの?物全然増えてないし。もしかしてその『東南の風』でも買ってお祓いでもしてきたの?それとも賭け事で全部すっちゃったとか?……信じらんねーんだけど、なんでズボン無事なんだよ?」

「安心を買っただけだ。」僕は答えた。「説明するつもりはない。どうせ君には理解できない。」

「ふん、安心安心安心って……万の不安を全部金で解決する気?我慢できるものは我慢しなさい!

 てか、今のところ全部ギリ我慢できる範囲なんだけど?……お前、マジで頭おかしいんじゃない?

 ダメだこりゃ!なんでお前が一位なの!なんで余がお前なんかに負けなきゃいけないのよ――!!」

「好きに言えばいい。」

 リリラアンナのその言葉で、もう一度、心に火がついたんだ。差別を受けている獣人は、彼だけじゃないって気づかされた。

 だからこそ、もっと早くて、もっと広く役立つ解決策を考えなきゃって思ったんだ。

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