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2-0 約五年間(1)

「ねえ、もしあなたと余が一緒になったら、必ず最高品質の種子を手に入れられると思うんだよね~」

「すみません。わたくしたちの関係って、そういう話や子どものことを考えるものじゃないと思います。対等で、お互いを尊重し合う関係のままでいたいんです。」

「それはわかってるよ~。あなたは花系の首領だけど、花系魔法に関しては、まだ余ほどには精通していないんじゃない? それもちゃんとわかってるよ~」

「そう……ですね。君なら、どんな魔法でも極められるから……。自分の手で月を……」

「それは大したことじゃないよ~~だからこそ、次の世代に身を置くべきなんだ。余とあなたの種なら……」

「申し訳ありませんが、子どもに関することは、わたくし自身が決めることです。あなたにお考えいただく必要はありません。」

「ずっと、待ってるよ。」

「でも、わたくしの決断を尊重していただけると嬉しいです。きちんと考えるつもりですが、少しだけ時間をください。その間は、今の協力関係を大切にしていきたいと思っています。」

「もう十分待ったつもりだよ。余もそんなに時間があるわけじゃない。あなたのためだけに、時間を止めておくわけにはいかないから。」

「わかります。焦るお気持ちも理解していますが、わたくしにも慎重に考える時間が必要なんです。」

「いいよ、もう少しだけ時間をあげる。でも、余の我慢にも限界があるってことは、わかってるよね? もし、あなたがこれ以上引き延ばすようなら、別の手段を考えるかもしれないよ~」

「お互いに後悔することのないよう、お願い申し上げます。わたくしたちの間の協力関係は、これまでずっと良好でした。この決定によって、それをすべて台無しにしたくはありません。」

「協力関係?ずっと、それが『ただの協力』だと思っていたのか?余はいつでも、あなたが今持っているものを簡単に奪うことができるのだ!それなのに……なぜだ!」

「あなたの立場は理解しております。ですが、どうか、わたくしをこれ以上追い詰めないでください。」

「……正しい選択をしてくれると信じているよ〜。」

 ベッドの周りには鉄のかけらが散らばってて、縄が適当にぐちゃぐちゃになってる。鼻につくような生臭い血の匂いがして、どこを見ても乾いた血の跡が残ってる。その上、小さな肉片まで落ちてるし……

「しっ、静かに!少し痕跡は隠しておいたから、早く逃げ!」

 こんな非人道的な場所は、ここだけじゃない。

「ほんまに……おおきに、恩人さん……」

「あっ、せ……えっ、ちょっと待って!これって、一体……?」

「うわっ!やっぱり……来た、来た!やっぱり、やっぱり、やっぱり、やっぱり来た!!まるで……いや、あなた以上かもしれない!」

 ……

 時間が過ぎて、気がつけば、このクラスの全員の十歳誕生日もすっかり過去のものになっていた。

 リツイベットの誕生日パーティーでは、クラス全員が彼女の家に招待されていた。

「わあ!隠し部屋がいっぱい!避難通路まである!」

「道に迷った?」

「ない!」

 そして、最後のは僕のだった。

「女装って一度始めると、もう止まらなくなる。」

 どうやら僕は、その見本らしい。

「それにしても、なんでこんなにポニーテールを結ぶのがうまいの? 男なのに……」と、着替えを手伝ってくれているリリラアンナが不思議そうに聞いてくる。

「……服は清潔でシンプル、上品に。パーマや染髪はしない、化粧も控えめに。髪も乱さず、変な髪型は避けて、アクセサリーや高いヒールもNG。ナチュラルが一番。後ろ髪はスポーティなショートかポニーテール……」

 そう言いながら、つい前世の感覚で前髪を少し整えてみせた。

「なんか説教みたいなことばっかり言わないでよ! ここは異世界だし、監獄じゃないんだから!

 それに、その前髪、昔の知り合いに似てる。」

「その『昔の知り合い』って、自分のことじゃないの?」

「……まあ、そんなとこ。」

「だから、今の僕の前髪のスタイルは『前髪テール』ってわけ。」

「お~~、いいじゃん、いいじゃん。バカにはなってないけど、もしかしたらちょっとイカれたかも?」

「ちょ、勝手に変な呪いかけないで!」

「前に本当にイカれた天才を知ってた。マジで精神病んでるのに、自分で気づいてないタイプ。

 髪の色は全体的に黒いんだけど、よく見ると、だいたい3本に1本くらいは白髪になってるの。いつかストレスで完全に白くなっちゃうんじゃないかって心配してるんだね……」

「そんな人が『天才』だって?笑わせるな、リリラアンナ。」

「黙れ!彼女をけなす資格なんてお前に一ミリもない!」彼女は突然声を荒げた。

「……」

「だ、だってさ、『バカと天才は紙一重』って言うじゃない?天才なんて、多少はどこかおかしいもんでしょ?しょうがないね?」

「全然賛成できない。天才と狂人の間は確かに紙一重かもしれないけど、それって全ての天才が精神障害をもっているという意味ではない。君が挙げた例は、あくまで一部の特殊なケースだ。」

「特殊?だったら、歴史上の偉大なアーティストや科学者たちが精神疾患に苦しんだのはなぜだ?ゴッホの耳切りとかニュートンの精神障害とか、これが全部たまたまだって?」

「むしろそれは、どれほど優れた人間でも困難に直面するという事実を示してるだけだ。けれど、その苦しみこそが天才の証だと言うのは違う。天才である本質は、彼らの独創性や革新的な視点にあって、決して病にあるわけじゃない。君は、天才にレッテルをつけている。」

「レッテル?むしろ理想化してるのは君でしょ?現実の天才は、普通の人よりもずっと大きなプレッシャーを受けていて、そのせいで孤独や不安、そして時にはうつにまで追い込まれる。それは弱いからじゃなくて、自分に課せられた期待や他人からの圧力が大きすぎるからでしょ?」

「だからこそ、社会や自分自身が完璧さを求めることで、一部の人々が間違った道を選んでしまうことがある。しかし、それはすべての天才に当てはまるわけではない。

 我々が注目すべきなのは、彼らがストレスをよりうまく管理できるよう支援することであり、心理的な問題を成就の代償として美化すべきではない。君の言い方は、本当の天才たちの努力と達成を軽視しているように聞こえる。」

「軽視?私はただ事実を言っているだけだ。天才とは、恒星のように自ら燃え尽きることで光を放つように、彼らの作品が生まれた背景にはそんな葛藤や苦悩があったからこそ、っていうのは否定できないでしょ?『健康』を強調するのは少し浅はかすぎるんじゃない?」

「浅はか?それが天才をロマンチックにしている。確かに、彼らは普通の人には想像もできないような困難を経験したかもしれない。でも、それだけが彼らの成果の源だとは限らない。

 君の言い方は、苦しみを美化しているように聞こえる。まるで非人道的な苦しみを経験しなければ芸術や科学の頂点には立てないかのようだ。そうした見方は一面的だし、人々に『雨が降らなければ虹は出ない』という誤った考えを与えかねない。これは普通に努力してる人に対しても失礼だと思う。」

「私は『苦しみこそが成功の条件』なんて一言も言っていない。ただ、天才と精神障害が無関係だと否定するのは、人類の文明に大きな貢献をした人々が実際に払った代償を無視することになる。むしろ、この現実をしっかり見つめるべきなんじゃない?」

「現実をしっかり見つめるためには客観的な分析が必要だ。個別の事例を一般化してしまうのは違うと思う。

 天才一人ひとりには、それぞれの人生があり、成功も失敗も、多くの要因が絡み合っている。精神疾患だけで説明するのは、他の重要な要素を見逃すことになるんじゃない?時代背景、社会環境、個人の選択など……」

「リリラアンナ!セリホ!まだか!!」

 ドアの外で激しくノックする音がした。

「……てか、なんでディベート始まったの?」

「さあね。でも、天才でも普通の人でも、お互いを理解して尊重し合うことが大事ってことには同意できる。」

「意外とまともなこと言うじゃん。」リリラアンナはそう言ってから、ドアのほうに向かって声を張り上げた。

「今、コルセット締めてるから!ちょっと問題があって、もう少しだけ待って!こ・い・つ太りすぎで思ったより時間かかってる!」

「また勝手にレッテルを貼って……!」

 オレリアの成人式は西の国で盛大に行われた。

 でも、リリラアンナの話によると、元の世界では年齢認証の基準が20歳に引き上げられたそうだ。

「前世の記憶をシステムにロックせずにそのまま受け入れてるのか?そして必要ないものはシステムに預けてるって?」

「そりゃあ、覚えきれないこともあるし、どうせ使わないからシステムに保存してもらった。ポケットに何テラもデータが詰まった外付けHDDみたいなもんで本~当に便利だね。」

 正直言って、年齢認証の制限があっても、僕にはほとんど影響がなかった。趣味といえば、本を読んだり、将棋やシャンチーを指すくらいで、とくにシャンチーが好きだった。

 でも、元の世界ではスピード重視の生活だったから、どうしても早指しで済ませるしかなかったし、じっくり指す時間もなかった。

 今ならスローライフを満喫できるし、そういう機会もあるんじゃないかって思ってたんだけど……どうもシャンチーを指す相手が見つからない。

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