1-16 僕、無理やり女装させられる(4)
「まるで同じ型で作られたみたいだな〜。あ、今のはもう『アルサレグリア奥様』って呼ばなきゃダメだな。」
「それで、受け入れるのか?」
「余にそんな言い方をするのか〜?」
「今回は、雪系の首領として言ってるんだ。まあ、君にはかなわないってことは分かってるけどさ……」
「はいはい、そういう立場ね〜。そっか、仕方ないね〜。」
遠くで一瞬止まった馬車が、何事もなかったかのように、また走り出していった。
寮に戻ると、まだ鍵を変えていなかったせいで、部屋に入った途端、ベッドの上では3人の女の子たちが跳ね回っていた。
「君ら、部屋を間違えてるんじゃないの……?」
「いーえ、そんなことない! 余は道を知ってるんだから、部屋間違えるわけない!」
「それに……? またベッドを壊されたら、今度こそソファで寝るしかなくなるんだ!」
「また買えばいいじゃん。」、とグラウシュミが言った。
「今日は手持ちの金の一割も使っちゃった。半期ずっと霞を食って生きるのはごめんだな。」
「……はぁ?! セリホ、一日で1000ゴールドも使ったって?! 余たち三人は今日……」
「リリラアンナ、実、もう、使っちゃった。1000、ゴールド。」
デルガカナが冷静に補足した。
「ちょっと待ってよ、何に使ったんだの?物全然増えてないし。もしかしてその『東南の風』でも買ってお祓いでもしてきたの?それとも賭け事で全部すっちゃったとか?……信じらんねーんだけど、なんでズボン無事なんだよ?」
「安心を買っただけだ。」僕は答えた。「説明するつもりはない。どうせ君には理解できない。」
「ふん、安心安心安心って……万の不安を全部金で解決する気?我慢できるものは我慢しなさい!
てか、今のところ全部ギリ我慢できる範囲なんだけど?……お前、マジで頭おかしいんじゃない?
ダメだこりゃ!なんでお前が一位なの!なんで余がお前なんかに負けなきゃいけないのよ――!!」
「好きに言えばいい。」
リリラアンナのその言葉で、もう一度、心に火がついたんだ。差別を受けている獣人は、彼だけじゃないって気づかされた。
だからこそ、もっと早くて、もっと広く役立つ解決策を考えなきゃって思ったんだ。
「はあ……お前があまりにも……あ、違う違う、やり直し。はあ~、父親としての余が息子のこの惨状を見過ごすわけにはいかんなあ~。じゃこうしよう。お前にとっては大したことでもなく、むしろ朝飯前のような仕事を一つこなしてくれれば、3000ゴールドやろう。
どうだい?この値段、悪くないだろ?それは『信義則』ってやつ〜!」
「何をやらされるのかもわからないのに、どうしてその値段が妥当かどうかわかる?」
「ふっふっふ~、さてさて、内容はね……!」
リリラアンナはニヤリと笑い、間を作った。
「さあ、皆さん、3・2・1――」
「女装!」
三人が声を揃えて叫んだ。
「な、なに言ってんだ!?なんてこったぁあああああああ!やめろ!近づくんじゃねぇええええ!」
「アハハハハハ、『近づくんじゃねぇ』って? 行くぞ!だって、女の子だって言ってたじゃないか~。その顔!あのきめ細かい肌!化粧してドレスを着れば、絶対に似合うって!なぁ、グラウシュミ?」
「そうだよ!こんなに美しい金髪美少女が見られるなんて、絶対にドレスを着せないと!」
「お前ら……!おい、勝手にカツラ被せるな!!」
「さあ、デルガカナ、『セリナ』って呼んでごらん。」
「かしこまりました、セリナ様。」
「ちょっ……やめろ!もう人まで巻き込まないでよ!……わかったよ、好きに楽しめばいいけどさ、『セリナ』って呼ぶのはやめてくれ。せめて『世柳ちゃん』とかにしてくれ……」
「柳柳ちゃん? それは余が特定の相手にだけ使ってる呼び方なんだ!」
と、リリラアンナが突然反論してきた。
……けど、どうやら反射的に言っちゃったみたいで、「……まぁいいや!それなら仕方ないから、世柳……いや、世柳柳って呼んであげようかな? そうだ、決まり!デルガカナ、これからこいつを『世柳柳お姉様』って呼びなさい!」
「なんだそれ! 恥ずかしい!!」
「ドレスを着ているだけで、何が恥ずかしいの?どうせ着られないわけじゃないし。」と、グラウシュミがタイミングよく一言投げかけてきた。
グラウシュミの前でドレスなんて着たこともないし、前世のことも話したことがない。だから、リリラアンナがグラウシュミに何か秘密の情報を漏らしたんじゃないかと疑っている。
「リ、リ、ラ、アン、ナ……」
「何考えてるの?」
リリラアンナがじーっと僕のことを見てきて、何も知らない子どもみたいにぱちぱちと目を瞬かせてんだ。
その目がさ、めっちゃ大きくて、ぶどうみたいに鮮やかなんだ。しかも、白い四芒星の瞳孔が入ってて、余計に無垢に見えるんだ。
「朝さ、グラウシュミがまだ寝てるときに、『ドレス着てみたいけど、グラウシュミが許してくれないから試せないんだ』って、お前が余に話してたことあったよな? 」
「?」
「でさ、それを聞いたグラウシュミ、どう反応したと思う? あっさり『いいよ、やってみな』って言ってくれたんだよ!
……って、あれ? いや、この髪飾りはちょっと地味すぎるかもな。もっと華やかなやつがいいよな……デルガカナ?」
「は? いつそんなこと言ったっけ?」
「デルガカナ、いる。デルガカナ、今すぐ、華やかで、綺麗な髪飾り、持って、きて。」
「そうなると、身に付けるアクセサリーも変えないとな。耳飾りかピアスを付けるのはどうだ? 思いっきり長いやつとか……?」
「アシミリアン先生、助けてー! 先生、迷宮に行く前に、誰であっても名簿に登録された学生が卒業する前に本当の意味で危険に遭ったら必ずすぐ助けに来てくれるって約束したじゃないか——! お願いです、今すぐ助けに来てくださいー!」
「助けるって?甘いよ、甘すぎ!授業外の時間には、アシミリアン先生はよっぽどのことでもしない限り、生徒のことには基本的に口出ししないんだぞ!オレリアが飛び級でアシミリアン先生の特優クラスに入った年、覚えてる?
週末に、数人の男子が無謀にもスティヴァリの森に冒険に行って、あの恐ろしい目に遭って帰ってこなかった事件……。あ、いや、もういい!どうせ聞いたって何も知らないくせに!お前って世の中のことに気にしないタイプだから!」
「そんなことあったの?……お前、都合よく切り取ってない?」
「ほら、やっぱり何にも知らない!」
「オレリアが本当にこう言ってたんだよ。あれはね、迷宮から戻ってきたときの話。知ってる?君って、考え事し始めると周りが全然見えなくなるじゃない?私たちが目の前で手を振ったり大声で話しても全然気づかないくらい。
それでね、リリラアンナが言ってたことも本当なの。ただちょっとだけ抜けてて、その年度の生徒たちは実はもう卒業してたの。卒業式の翌日に起きたことだったんだよね。」
「ほら見なよ!これはオレリア本人が言ったんだから!それに、アシミリアン先生は一撃で相手を倒せる力があるのに、その時はあえて手を出さずに、現場にいたオレリアと一緒に立ち去ったのよ?なぜかって?それは授業が終わった後の出来事だったから──って、もういい加減にして!脱いでんの!?お金欲しいんでしょ!?だったらさっさと残りも着替えなって!!」