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1-15 僕、暇つぶしにチェスをする(1)

「朝のトレーニング、やっと終わったけど……」

 少し息を整えながら時間を確認したんだけどさ——ここで正確な時間がぱっと表示される機械があるなんて、嬉しい反面、ちょっと不気味っていうか……

 なんか『ワルツィナイズ・ミロスラックフ』大陸らしからぬリアルさを感じるんだ。

 だって、普通に考えたらこの時代(中世)に、こんな精密な時間を測れる機械なんてあるはずがない。

「気になる。」

「……」

「でも、こうしてちゃんと時間がわかるのって、なんだかんだ言ってやっぱり助かる。」

 時計の針をじっと見つめながら、ゆっくりと動くその様子に、ほんの少し安心感を覚える。

「分とか秒単位で時間を把握できてるって感じがしてさ。不気味さも、実用性には勝てないってことかな。」

 僕は顔を上げて、時間をもう一度確認した。

 この時計はシステムが提供する時間と同じで、正確だ。

「7時35分39秒か……図書館に行くには、この『7』が『13』……つまり『1』になってからじゃないとダメなんだよね。今の時間だと、まだ図書館に行くにはちょっと早いんだ。」

「困ったなぁ。急に空き時間ができると、逆にどう過ごせばいいか迷っちゃうな!」

 ここ数ヶ月――いや、物心ついた頃からずっと慌ただしい日々が続いていたせいで、時間が空くこと自体が珍しく、こうして余裕があると少し戸惑ってしまう。

「あ、そうだ!」

 ふと思い出したように手を叩く。

「そういえば、半年前に唐大刀を買ったあの武器屋、また行ってみようかな。最近行ってないし、ちょうどいい時間つぶしになるかも。」

 思いついたら即行動。ふとした好奇心と少しの期待を胸に、久しぶりに武器屋へ足を向けることにした。

「もしかしたら、新しい刀とかも入ってるかもしれない!」なんて、少し胸が高鳴る自分に笑いながら、軽く歩調を早めていく。

「まあ、それはそのあと。今回は一人だから、自由に動ける。」

 ちょっとわくわくしながら、一人ならではの身軽さを楽しむことにした。

 まずは蔓をつかんで、スルスルっと屋上まで登っていく。

 登り切ると風を感じながら、風系魔法を使って身体のバランスをとりつつ移動する。風に乗ってスムーズに進んでいく感覚――これが何とも気持ちいい。

 そんなこんなで、気がつけばあの武器屋の前に立っていた。入り口で少し服の埃を払い、「店長、また来ましたよ!」と、ちょっと元気に声をかけながら店内に足を踏み入れた。

「おお、若者よ。」

 店長はゆっくりと顔を上げ、ニヤリと微笑んでくれた。手には大きなハンマーを握ったままで、前に来たときよりも少し動きが鈍くなっているのがわかる。

「まさか、あの唐大刀に何かあったのか?」

「いやいや、ご心配なく。問題なく使えています。手入れも欠かさず行っていて、この重さがちょうどいいんです。」

「それは良かった。」

「そういえば、前に来たとき、あそこの壁に飾ってあったシャンチーの盤がとても気になったんです。」

 僕は壁を指さしながら、そのシャンチーの盤について尋ねてみた。

「シャンチー? ああ、あれか。」

 店長は少し懐かしそうに目を細めながら、入口の方へ歩き、壁にかかっているシャンチー盤に手を伸ばした。指先で盤の上をそっとなぞりながら、

「これは我が家に代々伝わる装飾品だ。客人を迎えるために飾っているんだ。」と教えてくれた。

「迎客のために、ですか。このシャンチーの配置には、訪れる方々への深い歓迎の意と、智慧の伝承が込められているという言い伝えがあるんですね。」

「『歓迎の局』?」

 店長は僕の言葉に興味を示し、首を傾げた。

「その意味、もっと教えてくれないか?」

「僕……ですか?」

「どうぞ。」

 僕は少し気恥ずかしさを感じつつも、シャンチー盤の配置をじっと見ながら、解説を始めた。

「この配置には、象徴的な意味が込められているんです。たとえば、まず紅方の駒が整然と並んでいて、左右には士が配置されていますよね? 士が将の両脇にいて守っている構図は、守りの姿勢を表しているんです。」

 店長はじっとシャンチーの盤に視線を注いでいる。

 そして、僕は続けた。

「それから、見てください。紅の馬と砲は中央線の近くにありますよね。馬は紅方の川境に、砲は自陣の底線に配置されています。これは、訪問者に対して開かれた『迎客』の姿勢を象徴しているんです。守りながらも、どこかで客人を招き入れるような柔らかさが伝わってくる配置なんです。」

「なるほど……」と店長が呟いたのを聞いて、僕はさらに自信を持って話を続けた。

「『車』はシャンチー最強の駒です。紅の車は底線の中央に位置し、兵士たちは川の手前まで前進しています。この開放的で積極的な姿勢は、主人が心を開き、相手を迎え入れる準備ができている――そんなお気持ちの表れなんです。」

「つまり、積極的に歓迎してるってことか。」

 店長は感心したように頷いた。

「そして、その配置がただの迎え入れじゃなく、しっかり守りもしているところが……」

「そう、そこがポイントなんです。堅固な守備を保ちつつ、将や兵を前面に出すことで、主人自身が心を開いている雰囲気を作り出しているんです。まるで、対立する二つの勢力の境界線を越えてやって来るように、訪問者を招き入れているかのようで、お互いに友好的な交流を促す準備ができている――そんな印象を与えているんです。」

「馬と砲の位置も礼儀正しく、適度な距離を保ちながら……なるほどな、いつでも交流できるってことか。確かにこの盤面、ただの飾りじゃなくて、意図をもって配置されてる気がするな。」

 その言葉の端々には、少し感慨深げな様子が漂い、どこか懐かしさも混じっているようだった。

「こういう話を聞くと、ふと思い出すのう……わしより遥かに腕の立つ、じゃが疎遠になってしもうた実の弟のことを。同じ魂の卵から生まれた兄弟じゃが、鍛冶や武器作りにはまるで興味を示さんかった。いや、むしろ、まったくの無関心じゃった。奴は別の道に情熱を注いだ……それが、コーヒーの探求じゃった。」

「えっ、コーヒーにですか?それは意外ですね!」

 なんと、店長には一卵性双生児の弟がいたらしい。ただ、形成された時期で言えば、むしろ彼の方が「後に出てきた」方なんじゃないかと思う。

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