1-14 僕、みんなにチヤホヤされてる(3)
「なるほど、目標はオレリアか。……ちょっと待て、誰を目標にする?」
「オレリア。うん、オレリア。デルガカナ、強く、なりたい。デルガカナも、オレリアのように、一人で、立ち向かえる人に、なりたい……」
デルガカナの瞳は、ますます強い意志で輝き、まるで何か大きな決断をしたかのような様子で言い放った。
僕はすぐにシステムで、彼女のステータスをチェックした。
物理攻撃と魔法攻撃の数値は少し下がっていたが、SAN値はかなり上がっていた。
「うん……」
どうやらデルガカナの勘違いから生まれた目標が、逆に心の支えになっているみたいだね。
まるでバグみたいね!
「『バグがあっても実行できるから、触らない方がいい』って噂があるから、このバグだらけのプログラムには今は手を出さず、そのままにしておこう。だって、少し道がそれてても、結果オーライなら問題ないから。
「分かったよ。でも、昨日みたいに裏で小細工するのはやめてくれ。」
と、グラウシュミが微笑んでいる。
「デルガカナ、もう、しない。デルガカナの、心の不安、と、胸の鼓動が、ちょっとだけ……静かに、なった。」
「それならいいね。」
グラウシュミは、青と白の爽やかな配色のパジャマを身にまとい、裾には白いレースがさりげなくあしらわれている。髪は青い滝のように肩に流れ落ち、窓の隙間から差し込む陽光に照らされて、柔らかく美しい光沢を放っていた。
「ちょっと待って、グラウシュミ。まさかそのパジャマのままでここに来たんじゃないだろうね? 外に出るとき、人が多かったらどうするつもりだったんだ?」
「それなら全然問題ないわよ!」と、リリラアンナが得意げに言い、笑い声を響かせた。
「はあ?」
「朝4時34分、デルガカナが突然『付き合って、ほしい』って言ってきたんだけど、出かける服に着替えるのを忘れちゃった!」
「……」
「でも余はちゃんと考えた末に、準備してきたのよ!だから余にはそんな心配、一切ない!なぜなら――もう外出用の服を持ってきたね!全くもって、無駄な心配なんて、必要ない!」
と、胸を張って豪快に笑う。
「はいはい、この枕はもう汚れてた。」僕はリリラアンナがさっきまで寝転んでいた枕を持ち上げ、バスルームに放り込んだ。
「おい、それって明らかにわざとだろ! わざとでしょ!」
「そうだな、グラウシュミも、わざとそんな薄手のパジャマで来たんじゃないか?」と、僕はわざと話をそらしつつ言ってみた。
「ふふ、わざとって言えば、わざとね。」グラウシュミは小悪魔のように笑いながら、着替えを始めた。
「ちょっと待て! ストップ!」
僕は急いでトイレに飛び込んで、ドアを閉めた。
「僕はちょっとここでおとなしく待ってるから、君たちはその間に着替えてくれ!」
性別への配慮もあり、今の僕が男である以上、今の時は避けるべきだと判断した。
「おやおや、セリホってば照れちゃって~」
リリラアンナの声が、ドア越しにもはっきりと聞こえてくる。
「照れてるわけじゃないっての! こんなの私は初めてじゃないんだ!」と、僕はすぐに共通語で反論した。
「女の子だった時間のほうが、男より長いんだ! まあ、これからはそうじゃないけど、今はまだそうなんだから!」
「本当?」
リリラアンナも、阿吽の呼吸で共通語に切り替えた。
「だが! 今世では! 僕は男だ! 仕方ない!」
「あらら、性別なんて魂の外にあるもので、全然重要じゃないわよ。けど、そういうふうに言われると、余もますますお前に興味が湧いてきたわ〜〜」
「お前……!」
僕は言葉を飲み込み、代わりに尋ねた。
「グラウシュミ、デルガカナ、着替えは終わったか?」
「デルガカナの服、ちょっと着るのが難しかったけど、今ちょうど手伝ってるとこ!もう少しで終わるよ!」
と、グラウシュミが応えた。
「いつ終わる?」
「今――よし、終わった!」
僕がバスルームのドアを開けると、目の前に立っていたのはデルガカナだった。
彼女は深緑色のロリータ風のドレスを着ていて、体にぴったりフィットしたデザインが、その細くて美しい体のラインを引き立てていた。
ウエストにはふわっとしたリボンがついており、スカートの色とバッチリ合っている。
その裾には、段々になったレースが控えめながらも華やかに飾られていた。
「おい、変なこと考えるなよ!」
リリラアンナは、僕がデルガカナのドレスに見とれているのに気づき、得意げに言った。
「これ、余が自分でデザインして、仕立て屋に特注したんだよ。どう? このデザイン、素晴らしいでしょ?」
彼女は、まるで自分の娘を自慢する母親みたいに話しかけてくる。
「まあまあ。」
ちなみに、今日のリリラアンナは、派手な柄がプリントされたゆったりとしたノースリーブのトップスに、同じ素材のショートスカートを合わせていた。
スカートの丈はちょうど太ももの真ん中くらいで、程よく軽やかさを演出していた。
「はい?」
「このデザインは悪くないけど、まだ完全に決めつけるのは早いよ。グラウシュミの服も、まだ見てないから。」
そう言って、僕はリリラアンナが用意したグラウシュミの服をじっくり見始めた。
正直言って、リリラアンナが他人のために考えるセンスって、なんか独特で、いい感じだ。
グラウシュミが着ているのは、優雅な青い漢服で、長袖には華やかな黄色の花柄模様が入っている。
それはまるで、秋の黄金色の葉っぱが青空の中を舞っているかのようだ。
襟元と袖口には、鮮やかな黄色のシルクの縁取りがあり、裾には輝く黄色のサテンの縁が優雅にあしらわれている。
このデザインは、まるで陽光が湖面に反射して輝く波のように、全体に立体感を与え、青の落ち着いた色味をさらに引き立てている。
確かに素晴らしいが、リリラアンナが少し自分の好み(莫辞遐)を盛り込んだような気がしなくもない。
「さて、みんな~!こんなふうに何も心配しなくていい週末こそ、思いっきり楽しまなきゃね!もちろん、自分のパソコンやスマホで遊ぶのが一番楽しいっていうのは分かるけど、残念ながらここにはそれが全くない!じゃあ、どうやったらこの素晴らしい週末を、もっと充実させて意味のあるものにできるかな~?」
「まあ、そんなの決まってるじゃん、当然――」
「お買い物――!」
リリラアンナとデルガカナの声が見事に重なり、同じ答えが飛び出した。
「……はいはい。じゃあ、君たちがショッピングに行くなら、僕は先に運動してくる。荷物が増えすぎたら、呼んでくれればいいさ。」
「はいはい、筋肉バカのセリホく・ん。じゃあ、行ってきます~~デルガカナ、新しい服の着心地はどう?歩きやすい?」
「デルガカナ、着心地、いい。歩くのも、楽」と、ボソッと答えた。
「グラウシュミは?買い物って意外と体力使うんだよね!これも一種の運動!」
「えっ?そ、そうだよね!いい考え!でも……たぶん、お金が……」
――グラウシュミのここでの生活は、うちが支援してるから。
だから、こういう「必要ではないこと」に関しては、どれだけ期待や希望があっても、自分の経済状況を考えると、どうしてもその思いを飲み込まざるを得ないんだ。
「お金がない? ハッ!余はそのことを見越していたのよ!君たちの試合のときに合法的なスポーツ賭博市場を作った理由、分かる? こういう時のためだったのよ!!」
「お前か?!」
「ええ~、やっと気づいたの? まさかの! お前って、こういう時けっこう鈍いんだな~」