1-13 僕、前世の一部を明かす(2)
花系の治癒魔法を使うと、柔らかな光が彼女たちを包み込み、まるで温かい日差しを浴びているような気持ちが広がっていった。
「元気になった!ありがとうセリホ!」
「少し安心した。リリラアンナも大丈夫?」
「さっきも大丈夫だったし、まあ、ありがと。」
「……少し休め。」
ちょうどその時、見張りをしていたオレリアが慌てて駆け込んできた。
「中で何かあったの!? えっ!? みんな、どうしたの!?」
オレリアの目は、驚きと不安でいっぱいだった。
少し疲れた笑顔を浮かべ、力なく肩をすくめながら答えた。
「大丈夫だ、オレリア。今なんとか落ち着いたところだ。デルガカナも、二人も……無事だよ。」
僕はそう言って、安心したように微笑んだ。
「本当に……無事……!」
「余たちの『無事』に文句ある?」
「いや、全然。」
オレリアはほっとした表情を浮かべ、ため息をつきながら僕の隣にゆっくりと腰を下ろした。
「……あっ、そう、60層では、隊員の意識を完全に奪い、理性を失わせ、ひどい混乱を引き起こしたうえに、四肢が腫れたり変形したりするような邪悪な力がある。」
僕は冷静にそう説明した。
本当は、もっといろいろと考えていることがあったけれど、そういったことは口に出さず、今の自分の体で見た事実だけを伝えることにした。
オレリアは目を見開き、すぐにその言葉の重みを理解したようだった。
「そ、そんなことが起きたなんて……!」
「でも、幸い、僕たちはその力に完全には屈しなかった。理性を保ったまま戦って、なんとか蛇を倒し、デルガカナを救えたんだ。」
僕は少し強気にそう言った。
「やっちゃった……」オレリアは悔しそうに言った。
「どうしたの?」
「外にもっと大きな脅威が来ると思ってたから、急にたくさん蛇が現れても、『ただの小さな蛇の群れだ』って侮っちゃって……」
オレリアは後悔の表情を浮かべながら言った。
その顔には疲れがにじみ出ていて、肩を落とし、どこか寂しげな様子だった。
「ちょっと行って見る。」
——そして、僕は後悔した。
地面に散らばった蛇の死骸を見て、思わずゾッとした。
蛇たちが絡み合っていて、まるでまだ生きているかのように見える。
死に際の苦しみがそのまま残っているような感じがして、もし集合体恐怖症の人がここにいたら、きっと吐き気を催して倒れてしまうだろう。
蛇たちの体があちこちでぐちゃぐちゃに重なり合っているのを見て、なんだか戦場にいるような気分になった。
「うわ、これちょっと気持ち悪いな……。ありがとう、オレリア。」
帰り道、グラウシュミがオレリアに起きたことを必死に報告していた。
事件が終わったばかりなのに、すぐに細かく記録している様子は、まるで歴史家みたいだ。
そのとき、リリラアンナが僕を引き寄せて、小さな声で共通語で言った。
「ってことは、お前も一度死んだことある?」
「だとしたら?さっきのが証拠だろ?『システム』。」
「こちらにおりますが、何かご用でしょうか?」
「君のことは呼んでない。」
「ちょっと聞きたい——お前どうやって死んだの?」
「毎回僕にばかり聞いてるのはよくないでしょ?逆に聞くけど、君、何歳?」
「余?もちろん六歳だよ!でも、もうすぐ七歳になると思う。」
「はあ?ふざけんな。その年齢は元の世界で死んだときの年齢。」
「私?十五歳。北部の普通の都市で中学三年生だった。高校も、高校受験も経験せず、あっさり終わっちゃった。」
「あの異能者がいっぱいいる都市?見渡す限り白髪だらけって感じ?」
「そこまで大げさじゃないけど、もしかしたらそうなるかもね。白髪コンだからさ……まあ、黒髪でも例外的に好きなケースはあるけどね。」
「はいはい、莫辞遐、分かる分かる。ってことは、君の前世も普通の人間だったってことか?」
「そうだ。異能者って、そんな簡単に死ぬもんじゃないだろ? マフラーを振っただけで車を止めたり、変形させたりとかさ……」
「その噂、本当だったのか?」
「それは事実だ。だから異能者全般が嫌いだよ。どうして異能力って、みんなに平等に与えられないんだろう?」
「じゃあ、ワルツィナイズ・ミロスラックフ』大陸の魔法は、全人類に平等に与えられてると思ってるのか?」
「違うの?」
「知っててわざとボケてるのかもしれないけど、家族の権限を使えば、ほとんどの平民には魔法がないって、知ってたんじゃないの?」
「全員、魔法適応を受けなきゃダメなんじゃないの?」
「ふざけてるだけだ。理論上はそうだけど、魔法適応にはめちゃくちゃ金がかかる。検査費、儀式費、場所代……全部お金で制限されてる。」
「それは確かに……でも、グラウシュミは……?」
「それは、グラウシュミの両親が先を見越して準備してたし、グラウシュミ本人も学びたがってたからだ。魔法適性検査って、人が三歳になった“その日”にしかできないんだ。その日を過ぎたら、もう無理なんだ。」
「……お前の意味って、彼女の家族は中流階級だってことか?」
「鍋を売って娘を育ててきたから。」
「おっ、なるほど。なんか、貴族っぽい寡頭制がすごく感じられる。」
「歴史の専門家か?」
「歴史だけちょっと得意なだけ。他の科目は普通だし。元の世界の歴史しか役に立たなかったよ。お前もその世界から来たんだから、分かるでしょ?」
「僕、死んだときはまだ十二歳だったんだ。」
「え????????中学にも行かずに死んじゃったの? でもなんで入学試験であんなに高い点数取れたの? 不公平だ!」
「トラックに轢かれて死んだんだ。ちょうどあの『世界で一番難しい数学オリンピック』の試験会場を終えた直後だった。」
「すごい!どうやって雅語覚えたの?」
「暗記。」
——究極の方法。
「暗記は無理! 異能があれば、知識を一気に頭に詰め込めるのに……!」
「それが異能者嫌いの理由ってわけじゃないだろ? それに、そんな異能、聞いたことないけど。」
「いや、違う。ただ、異能者って、普通の人にはできないことがいろいろできるんだ。それが不公平だと思う。」
実際のところ、異能者を憎んでるわけじゃない。ただの愚痴だ。」
「世の中に『公平』なんて存在しないよ。君は過去にその恩恵を受けられなかったから憎んでいた。でも今は、その恩恵を受けているから――」
「そうとは限らない。」
「で、結局君、どうやって死んだんだ?」
「どうやってって? 足を滑らせて落ちたんだよ。」
「足を滑らせて落ちた? そんな簡単に起きることじゃないだろ。どんな場所で滑ったのか教えてくれよ。」
「言うのは簡単だけど。たとえば、崖の上を歩いてて足元の石が動いたら、うっかり滑って落ちることもあるし、滑りやすい氷の上で転んだりもするだろ? で、その先に谷とか道路があったら……もう、結果は分かるよね?しかも、高いところで作業してて、うっかり足を滑らせたら、3・2・1でピューって飛んでいっちゃうんだよ。」
「だからさ、結局どうやって死んだの? 細かいことはいいから、要点だけ教えて。」
「それは君がじっくり考えることだよ〜。余は絶対に教えないからね〜。」