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1-13 僕、前世の一部を明かす(1)

「デルガカナが、夢を見た。」

「悪夢だ。」

「夢の中で、デルガカナは、追われていた。」

「追われながら、穏やかな夜へと、駆け込んだ。」

「デルガカナは、逃げている。」

「デルガカナは、この暗闇から、抜け出そうとした。」

「デルガカナは、『貴族』の名を背負って、ここにたどり着いた。」

「だがデルガカナは、逃げ切れなかった。」

「デルガカナは、理不尽な扱いを、受けた。」

「デルガカナは、失意の光の中を、彷徨っている。」

「デルガカナは、忘れられた。」

「デルガカナは、自分が誰なのか、分からなくなった。」

「デルガカナ……」

「デルガカナ!」

 リリラアンナは一歩踏み出し、鎌を握りしめて構えを取る。

「まさか、あなたが――!システム!」

「システム、鑑定を開始。弱点だけでいい。」

「了解しました。システム起動中。」

「頭から腹の上まで?本当に蛇になったのか?!……クソっ!」

 グラウシュミは、リリラアンナの唐突な一言に再び混乱しているようだったが、僕にはその意味がすぐにわかった。

「そっか。素速いね。」

 素早く類唐大刀を構え、一気に力を込めて振り抜く。刃が空気を裂いた瞬間、まるで竜巻のように風が激しく渦巻き始めた。

 その瞬間、蛇が動きを止めたと思ったが、すぐに反撃に転じてきた。

 尾を槍のように鋭く突き出してきて、地面に触れた瞬間、強烈な衝撃波が爆発的に広がった。大地が揺れ、クリスタルの破片が四方八方に飛び散った。

 その破片が矢のように僕を襲い、思わず刀を構えて防御の体勢を取った。

「リリラアンナ!」

 叫ぶと、リリラアンナはすぐに反応し、空へ飛び上がって鎌を振りかざしながら詠唱を始めた。

 すると、氷の盾が空中に現れ、飛び散るクリスタルの破片をすべて防いでくれた。

「ナイス、リリラアンナ!」

 感謝を伝えた次の瞬間、グラウシュミが魔法で作り出した暖かなオーラが広がり、体力がどんどん回復していくのがわかった。

 花系魔法は癒しと保護に優れていて、まるで春の陽だまりに包まれているような安心感があった。

「デルガカナは、彼女に出会った。」

「デルガカナは、光を見た。」

 蛇は雪の中で動きが鈍くなったように見えたが、力はまだまったく衰えていなかった。

 身体を激しく揺らしながら凍った盾をバキバキと壊すと、巨大な刃のような尾を振りかざして、まっすぐグラウシュミに向かって突進してきた。

「グラウシュミ!」

 リリラアンナが鋭く叫び、すぐにグラウシュミの前へと飛び出した。

 手から放たれた盾が蛇の一撃を受け止めると同時に、キンッと鋭い音を立てて砕けた。

 そのチャンスを逃さず、風の魔法で身体を軽くして、蛇の背後へと回り込んだ。

 全身の力を込めて氷の刃をしっかりと握りしめ、一気に蛇の背中へ叩き込んだ。

 刃が蛇のうろこを突き破り、冷たい空気がその体を貫いていく感触が伝わってきた。

「今だ! グラウシュミ! リリラアンナ!」

「最後に、デルガカナは、みんなを見た。」

「デルガカナ!!」

 デルガカナを蛇から切り離すのは、思っていたよりもずっと難しかった。

 その現実を受け入れるしかなく、デルガカナがこの体にすでに深く根付いてしまっていることを痛感した。

 デルガカナをこの体から引きはがすのは、思ってたより難しかった——僕とリリラアンナは、同時にそれを思い知らされた。

「すっごく深く入り込んじゃってる。ただ入ってるだけじゃなくて……もう、完全に一つになっちゃってる。」

 三人で一緒に花系魔法を使って治りを遅らせてたけど、それでもその傷は、すごい速さでふさがっていってる。

「……引きはがすには、もう、すごくひどい方法しかないと思う。」

「……」

「手とか足を切って、無理やり離すしか……」

 僕とリリラアンナは、胸の中でそのつらい決断を考えてた。

 リリラアンナは鎌をギュッと握りしめてた。

「……余……デルガカナにだけは、そんなこと……」

「私も。」

「……えっ?」

「入学試験の時、デルガカナが唯一負けたのは、私との戦いだ。」

「……それ、知ってる。」

 僕は何も言えなかった。胸が、ギュウッて痛くなる。

 でも、現実は待ってくれない。このチャンスを逃したら、いままで全部が無駄になる。

 それだけじゃない。

 もっともっと、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 だから……だから、僕は決めた。

 背中の唐大刀を引き抜いた。

「グラウシュミ、目をつぶって。」

「だいじょうぶ。……こういうの、試合のときにだって、何回かあったし。ただ、彼女の顔を見ながらやるのだけは……やだな。」

「……分かった。こんなこと、お前一人に背負わせるわけにはいかない、セリホ。」

 リリラアンナも、鎌を振り上げた。

 せーの、なんて言葉もなかった。

 僕とリリラアンナは同時に、デルガカナと体をつないでいた腕と足を、切り落とした。

 周りに静けさが広がり、蛇の死んだ体が地面に落ちる音が聞こえた。

 ようやく、長い戦いの緊張が解けたような気がした。

 けれど、デルガカナの姿は本当にひどかった。

 腕や足は無理やり切り離され、体はバラバラになっていて、もとの優雅さなどまるでなかった。

 顔にはひどい火傷の跡が残り、肌は青白く変色していた。まるで、蛇の中に長い間閉じ込められ、毒と高熱に苦しめられていたかのようだった。

「……」

「ちょっと待って。」

 かすかに動く彼女の胸元に目をやると、彼女はまだ生きていた。微弱ながらも、そのかすかな息が、彼女の命の灯火がまだ消えていないことを物語っていた。

「まだ生きている……!」

 四人のうち三人は、法力をほとんど使い果たしていた。リリラアンナとグラウシュミは、疲れきってふらふらになりながら、お互いに支え合ってデルガカナの近くにいた。

 幸い、僕は他の二人よりも、まだ少し法力(体力)が残っていた。おそらく、戦闘中も冷静さを保てていたおかげだろう。

「まずはデルガカナを助けないと。」

 そう心の中で決めて、花系魔法の準備を始めた。彼女の傷は深くて痛々しかったが、僕には助ける力がある。

 魔法を使って、デルガカナの容体は少し落ち着いた。

 それから、倒れているリリラアンナとグラウシュミに目を向けた。法力はほとんど残っていなかったが、仲間を助けるために、最後の力を振り絞る決意をした。

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