1-11 僕、初登校(3)
「承知いたしました。スキャンおよび解析を開始いたします。」
慣れ親しんだ無機質な電子音が返ってきて、だんだんと安心してきた。
「リリラアンナ・エレナ・フレイ・ルイ・レンリー・アヴァル・イサベラ・グレミカイヴァキス。女性。東暦1001年10月20日生まれ、……」
年上か。まあ、しょうがないか。入学は9月だから、東暦1002年8月4日生まれの僕が一番年下なのは当たり前だ。
「システム、リリラアンナのステータス画面の詳細ページを、ちょっと見せて。」
「承知いたしました。こちらがリリラアンナのステータス画面の詳細ページでございます。特定の項目についてご説明が必要な場合は、どうぞ遠慮なくお申し付けください。」
「余は雪と花系!どう? でも全然強くない! グラウシュミは花系、デルガカナは風と雪、リツイベットは……」
と、リリラアンナは口を止めることなく、次々と言葉を紡いでいった。
「ありがとう。でもね……」
リリラアンナのステータス画面をじっと見つめながら、僕は考え込んだ。
「もし何かお困りのことがございましたら、どんなことでもお手伝いいたします。」
「いいえ、何でもない。ただ、そのデータ、信じられないなあ……システムの問題じゃないから、安心して。」
「分かりました。」
物理攻撃と魔法攻撃の数値が、信じられないくらい低いのに、物理防御と魔法防御は異常に高くて、しかも僕の数値を上回っている……?
目の前のステータスを見ながら、思わず眉をひそめてしまった。見間違えたかと思ったけど、何度見直してもこの数字は変わらない。
どうして攻撃力はこんなに低くて、耐性だけがこんなに高いの……?
普通、タンクキャラでも多少は攻撃力を確保しているはずなのに、リリラアンナは攻撃を犠牲にして、あらゆる耐性を限界まで高めたようだ。
それだけでなく、あの挑発的な態度を見れば、この耐性の高さにも納得がいく。
リリラアンナは間違いなく、数え切れないほどの攻撃を受けて、そのたびに成長してきたのだろう。
それが、この数値の異常ともいえるエラーを説明する唯一の根拠だと思う。
「しかも、SAN値、つまり理性値も驚くほど高いし。筆記試験の成績も上位らしいし……」
僕は前世の少しの知識を活かして学力を伸ばしてきたし、グラウシュミも巻き込んで、一緒に成績を上げてきた。
でも、それがなくても、リリラアンナはきっとクラスで目立つ存在として、自然に浮かび上がっていただろう。
その知識の高さが、彼女の独特な雰囲気をいっそう際立たせているんだ。
――でも、もしかしたら……
このデータを目にして、ある可能性が頭に浮かんだが、ひとまず観察を続けることにした。
他のクラスメイトたちも次々と教室に集まり、全員がほぼ揃ったところで、最初の自己紹介が始まった。
予想通りだ。
筆記試験で堂々とトップを取った僕が最初に登壇するのは、当たり前だろう。
自己紹介を終えて、少し「やれやれ、任務完了」といった感じで、一息ついた。
正直に言えば、他の生徒たちの自己紹介には、それほど興味もなかったし、集中もしていなかった。
今のところは名前さえ軽く覚えておけば十分だし、そもそも、こういう場で他人の性格や特質を知ろうとすること自体、無理があると思っている。
本当に相手のことを理解したいのなら、日常の何気ないやり取りや、ふとした会話の中で、ゆっくりと知っていくのが一番だ。
興味のない人に無理に注意を向けるよりも、自然に任せたほうが、僕らしくていいと思う。
だから、リリラアンナとは違って、現実的に考えれば彼らと深く関わることはないだろうし、それ以上の興味もない。
リリラアンナが言っていた通り、12人いるはずのクラスメイトのうち、実際に来たのは10人だけ。
初日から欠席者が出るとは、予想通りといえば予想通りの展開だ。
そして、次の授業が迷宮と辺境での実地研修だというのも、事前の情報通り。
これからどんな冒険が待っているのか、誰が最後まで生き残るのか。
ほんの少しだけ興味が湧いたけれど、結局これは、典型的な異世界転生ものにありがちな展開にすぎない。
トイレットペーパーみたいな話だから、展開がもう予想できてしまった。
「ここからが本当の冒険だ!」みたいな煽り文句とか、「美少女たちが自然に集まってハーレムができて、気づけば人生の頂点」とか、「チート級の能力を持って、その力で英雄扱いされる」とか――
使い古されたパターンには、正直もう見飽きた感が半端ないんだ。
でも、よく考えてみると、「異世界転生・主人公最強・世界1位」って、普通の高校生とか、過労死まで働き詰めだった人が、突然異世界で最強キャラになって、そのギャップが面白いんだ。
読者も、そういう展開に爽快感を覚え、納得するだろう。
やっぱり、こういう話って「落ちぶれたやつが上り詰める」過程が、いちばん大事なんだろうな。
でも、前世の私は、そもそもこの世界ですでにトップだったし、異世界に行っても、結局またトップになるのは変わらない。
転生しても、特に変わり映えせずに「一位」って……
そんな話のどこに面白みがある?
でも、リリラアンナがそう言っていたとしたら、何かがおかしい気がする。まるで――
……なるほど、そういうことか。ある可能性が、90%の確率で当たっているはずだ。
「ようこそ、皆さん。」
クラスの特優生たちを迎えるべく、オレリアが完璧な装いで現れた。
「初日の授業で案内役を務めさせていただくのは、私です。」
「……まさかの展開!」と、僕は思わず心の中で叫んだ。
しかし今は軍営の中だ。数多くのクラスメイトや兵士たちに囲まれている以上、彼女も自分の立場をわきまえているはず……と願いたいところだが、実際どうなるかは分からない。
まあ、成り行きを見守るしかないだろう。
「最近、辺境も比較的落ち着いてきたので、こうして皆さんを案内できるようになりました。」
と、オレリアはクラスメイトたちの歓声――「オレリア・イサドラ・ヴァレンティーナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様!」という声の中で、静かに話し続けた。
クラスメイトたちの病的な様子に、僕は眉をひそめた。そんな僕の反応に気づいたのか、オレリアがちらりと微笑みを向けて、
「そのため、迷宮は皆さんに一時的に開放されます。」