1-11 僕、初登校(2)
少(?)女は満面の笑みを浮かべながら教室を見渡し、アシミリアン先生やグラウシュミの冷たい反応などまったく気にせず、しゃべり続けた。
「……それなら、散歩でも行ってきたら? ここでグズグズしてても意味ないでしょ?」
「意!味!いっ!ぱい!ある!って——! 余〜〜は、伝説の——天下無双、我こそ唯一無二の存在!! 世界を改変する者、リリラアンナ・エレナ・フレイ・ルイ・レンリー・アヴァル・イサベラ・グレミカイヴァキスだ! 約三か月早く生まれた早産児だけど、奇跡的に生還を果たした強運の持ち主だぞ! これから何かあったら、余の名前を呼んで祈るといい〜〜〜〜〜!」
その眩しいほどの自信満々な宣言に、教室の空気は一気に静まり返った。
「……」
「……」
「なるほど、君こそあの人だったのか。ずいぶん長い名前だな……『リリラアンナ』って呼んでも……いいか?」
「おお? なんと、余の名前を知っていたとは! そ〜れは……も〜ち〜ろん! いい! 良い! 大丈夫! 素晴らしい!」
リリラアンナは突然僕の目の前に飛び込んできて、手をつかみ、まるで一姉が初めて僕(私)に会ったかのように、満面の笑みを浮かべていた。
その目は、まるで無数の星が輝いているかのようだった。
それも当然だ。「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」大陸の人々はみんな、瞳孔が白い四芒星の形をしている。
「この余の自己紹介を聞いたあとで、まさか引かないなんて!余、君のことがとても気に入ったぞ!」
「えっと……リリラアンナ……さん?」
白目をむきたい衝動を抑えつつ、リリラアンナの額にできた二つのたんこぶを手当てしてあげた。
「ちょっと! 傷が治った! 君が治してくれたの? 素晴らしい! やっぱり余の見る目は間違ってなかった! そう! 間違いない! 余、あなたが超〜気に入ったんだよ! 余は君を見込んだ!」
「そういえば、僕たちってどこかで会ったことある?」
「え?本当?ないと思うけど?」
「……」
リリラアンナはそう言うと、教室中を飛び跳ねて走り回り、「よし! いいぞ! 最高だ!」と、感嘆符ごとに大げさなポーズを取りながら叫んでいた。
その隙に、僕とグラウシュミはこっそりと先生のところに忍び寄り、ひそひそと話し始めた。
「そういえば、リリラアンナって試験で筆記3位、実技8位だったんだよな。それで、ここに来られたわけか……」
「まさか、筆記が得意なのか!?」
グラウシュミは少し驚いた様子だった。
「そーうとも!」
「?!」
「第二位に32.189207点の差をつけられた者こそ、余! そ・こ・で! 余には秘策があるのだ! それはな! あのランキング上位二人を、ば〜んっと排除すれば〜よ! い! のだ〜!」
「そこまで話すなら、僕も簡単に自己紹介しておく。」
「あらあら、偶然この余にそんなに親切だなんて、珍しいわね〜。どうぞどうぞ〜」
「……セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリア。そして、こちらがグラウシュミ。」
「それはそれは〜! 君たちが! 初めまして、光栄の至りだ!」
リリラアンナは顔をさらに近づけてきた。
そして――
「おおっ、さっきの発言は深くお詫び申し上げます〜! 何も聞かなかったことにして、どうかこの通り、余を見逃していただけませんか?」
「……」
「……」
「ずいぶんと大ざっぱな性格。」
アシミリアン先生が、ようやく口を開いた。
「とにかく! これから全〜〜〜部よろしく頼むぞ〜〜〜! 何もかも君たちに頼っちゃうからな〜〜〜! 授業から宿題、遊びに行くことまで、全部だ! ね! トップのセリホく・んと……」
「静粛に。」
先生はリリラアンナを鋭く睨みつけた。
「おっっっっと! なんだよー先生、口止めはなしだってば!余のこの第六感と、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験から言わせてもらうと、これから余たちが挑む冒険って、普通の冒険じゃないんだよ!きっと国境を越えて、未踏の迷宮とか、誰も知らない神秘的な場所に足を踏み入れることになるって、余、めっちゃピンときてるんだよね!先生、分かるでしょ? これってただの勘じゃなくて、運命みたいなもんなんだよ〜!ああっ、先生! そんな鋭い目で睨まないでよ〜! 怖いってば〜! まるで余が変なこと言ったみたいじゃん〜!」
リリラアンナはふざけた笑みを浮かべながら続けた。
「ほら、余の家系ってさ、実は魔力を高めるためのありとあらゆるちょっと暴力的な手段に精通してるんだよ~!例えば、魔力を持つ存在を取り込んだり、魔力を操れる生き物を吸収して、自分の魔力を強化する秘密の方法があるんだ〜!そんな感じでさ、すごいね〜~凄いね〜~あっ、やっべ、つい口が滑っちゃった?まあまあ、気にしなくていいよ!どうせ余ってさ、ちっちゃい頃からず〜っと記憶力があんまり良くないし、こんな話も数日もすれば記憶からふわっと消えちゃうんだから〜!君たちもね、他の人には言わないでね〜?」
やれやれ、さすが名門のお嬢様だ。リリラアンナの言葉に耳を傾けながら、心の中でそう思った。
「それにさ、他の子たちがちゃんと来るかどうかも、まだはっきりしてないんだよな~!たとえばデルカガナちゃん、今日はちょっと体調が良くないみたいで、遅れてくるかもしれない~~それに、他にもいるだろ? ほら、名前だけ出席に入れるために顔だけ出すやつとか、文面上だけ参加して、実際は何もしない連中もさ――!」
「デルカガナ?」
僕は耳をピクっとさせた。
「ええ!!」
「それに、『他の子たち』……? もしかして、他の生徒の名前や顔まで知ってるの?」
「そ〜りゃ当然さ!クラスの12人、君とセリホ以外の全員の秘密まで知り尽くしてるんだから! パンツまでは集めてないけど〜、ああ、残念〜。君とセリホの情報だけは入手できなかったんだよ、残念!」
リリラアンナは胸を張って言った。
「もったいないなあ〜本当に! 余のいるクラスには、なんと12人もいるんだ〜!!!」
「なるほど。情報不足の原因は、僕たちにお金も権力もないから、君の把握できる範囲の外にあるってことか?」
僕はポツリと呟いた。
その瞬間、アシミリアン先生がわずかに目を細めたが、口を挟むことはなかった。
「いやいやいや〜、ちょっと違う〜攻略にも穴があるってことさ! そこはご容赦願いたい!」
リリラアンナは人差し指を振りながら言った。
何かがおかしい。違和感を覚えた僕は、脳内システムを起動した。
「システム、時間だ。」
「申し訳ありませんが、ただいま生物と地理のデータで苦戦しておりまして……」
「?」
意識の中で疑問符を浮かべた。
「とにかく、前のあの『リリラアンナ』と言う人を調べてくれ。」