1-10 僕、良質な睡眠がとれなくなる(2)
「あっ」
オレリアはこの言葉に驚き、瞳孔がはっきりと縮んだ。
「どうしてそれを知っているの?どうやって?うまく隠せていたと思っていたのに……」
「君が風刃を使って攻撃してきた瞬間、すぐにその感触を読み取った。それも当然だ。普通の人なら、あの速さの攻撃を受けても反応が遅れて、詠唱か無詠唱かなんて、気づけないだろう。」
「君の攻撃はまるで稲妻のように速くて、相手はまだ君が見える前にやられてしまう。それに、君はいつも戦場の最前線にいて、真っ先に突撃するけど、大規模な魔法を使う姿はほとんど見せない。だからこそ、僕の推測は確信に変わった。」
「それで?」
「戦場の最前線にいるからこそ、特に混乱の中では、敵は目の前の戦闘や抵抗に集中していて、君の具体的な行動に注意を向ける余裕がない。だからこそ、大剣を振り回しながら無詠唱で風刃を使っても、気づかれないんだろう?そんな混沌とした環境では、敵には詠唱の準備をしているかどうかなんて判断できないからね。」
「もういい!」オレリアは剣で僕を指しつけて叫んだ。「それなら、どうしてわざと負けたの?それが一番知りたいことよ!正直に答えて、理由なんていらないから!」
「何度も言ってるだろう?目立つのが嫌なんだ。オレリアさんの場合は、何らかの理由で魔法の使用を制限されているみたいだけど、僕も同じように目立たないようにしてる。」
「それだけじゃない!魔法を使わないことで、わざとミスをして、あんなやつに刀を打ち落とさせるなんて、おかしいよ!」
オレリアも気付いた!!まあ、当然だけど……このままではまずい。何がなんでも納得できる理由を見つけて、追い払うしかない。
……感情だけさ。ごめんね、グラウシュミ。でも、こうでもしなきゃ、今の僕の本音、彼女に伝えられないんだ。
「……彼女が好きだ。」」僕は鬢髪を少し巻き上げた。
オレリアはもともと怒り心頭だったが、この言葉を聞くと、驚いたような表情を見せた。
「貴族は、一人のぼう……平民を?」
「だからこそだよ。平民のおかげで、彼女はこの広い社会の中で、没落貴族と接点を持つ機会があった。」
「『おかげで』?」
「僕たちは、かつての名声を失った今、生活様式や挑戦、困難といった面では、平民とほとんど差がないことを知っている。むしろ、他の貴族からいじめを受けることすらあるんだ。」
名門の一員であるオレリアにとって、こうした現実はまったく未知のものだった。僕の話を聞いた彼女の表情には驚きと新鮮さが浮かび、まるで華やかな表の世界の裏にある現実に、初めて触れたかのようだった。
「人間社会には古くから不平等が存在するが、誰もが基本的な権利と平等な扱いを受けるべきだ。」
僕は自分の意見を続けた。
「ただ平民の出身だからといって、彼らから尊厳や機会を奪ってはいけない。グラウシュミが魔法に触れられるのは偶然じゃない。彼女の家族が、多くのコストを払って魔法の啓蒙に投資してきた結果なんだ。」
「……確かに。」
「僕のような社会の底辺にとって、魔法を理解し、大切にするという感覚は、君たちの想像を超えている。君たちにとって魔法は、権力を強化し、他人を操るための道具かもしれない。でも僕たちにとっては、それは極めて貴重な恩恵だ。」
「……あ?」
オレリアは困惑し、これまでこの視点から考えたことがなかったことを示していた。
それも納得できる。やはり、身分や背景の違いが物事の見方や価値観を決定づけるのだ。
「それに、魔法に適応できる人々の選抜過程や、その背後にある複雑さについて……まあ、いいや。」
オレリアはしばらく沈黙した後、僕に言った。
「それが、あなたが彼女を好きな理由なの? 他にもあるんでしょう?」
どうやら、表面的で浅はかな理由でも言わない限り、彼女は僕を許してくれそうにないな……はあ、こういうところが一番嫌いなんだ。
「彼女の小さくて可愛らしい外見と青い髪、特にあの青さ!『莫辞遐』の青とはまた違うけど、ただの青でも十分素敵だ!」
僕は鬢髪を少し巻き上げながら言った。
「そして彼女の性格、なんか一姉の影が見える……まあ、詳しいことはこれまで君がこの人を知らなかったから、仕方ないけど!」
「それが一番の理由なのね! じゃあ私は……」
「オレリアさん、まず君は高貴な貴族の出身で、しかも無詠唱の魔法使いだ。無詠唱の理由はわからないけど、戦績も素晴らしい。そして……うん、他の人にはない特別な魅力がある。豊満で、独特な魅力を持っているって言うべきかな?」
「私に何か不満でもある?」
「いえ、そうじゃなくて、言いたいのは『地位と現実のギャップ』について。そして、僕たちの理解の差。広い意味で言えば、生まれつきの隔たりについて。まあ、十七歳にもなれば、感情について自分なりの見解を持っていて然るべきだと思う。」
僕は深呼吸して、話を元に戻そうとした。
「わかった。」
オレリアは突然武器をしまい、目をきりっと据えて言った。
「セリホがあいつを好きになるように、私を、愛、する、ように、させてみせる。」
……?