1-9 僕、入学試験が終わった(3)
「……」
「……」
一瞬、会場全体が静寂に包まれた。
誰もが目を見開き、口をぽかんと開けて、この驚きの瞬間を目撃していた。
僕は表情を変えずに唐大刀を回転させ、見事に鞘へと納めた。
その音が静まり返った会場に響き渡り、すべてが終わったことを告げた。
周囲は、あまりの展開にまるで凍りついたかのように沈黙している。
「……まさか、こんなことが……」
「……誰が、勝ったのか……?」
観客たちもようやく声を発し始め、あちこちでざわめきが広がっていく。
「ふん。これは本当に一幕だったな、首領? まさに目を見開かされた。」
ローブの人物が、冷ややかに鼻を鳴らした。
そんな声に耳を貸す余裕はない。だって――
裁ー判ー! 早く結果を発表してくれないか?
もう疲れ果ててるんだよ! 視界がかすむほど消耗してるんだから、こっちは!
「……」
「……」
「勝者、セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリア!」
「やっとこれで退場できるのか……」
とはいえ、体力はすでに限界で、今すぐ歩くのも辛い。
唐大刀に体重を預け、どうにか後方へ向かおうとしたその時――
グラウシュミが飛びついてきた。
「やったね! やっぱり勝ったんだ!」
「アハハ、この名声がただの見せかけだと思ってたの? ……でも、今は汗でびっしょりだから、もし嫌じゃなければ――あれ、空が暗くなってきた?」
振り返ると、まるで壁のような先生が目の前に立っていた。
なんと、昨日会ったあの厳しい先生だ!
同じ険しい表情を浮かべながら、彼は言った。
「よくやった、セリホ。戦場の猛将を打ち負かした。筆記試験もこの調子であれば、特別に合格を認められるかもしれない。」
「いや、先生、筆記は得意じゃありません。二時間も座りっぱなしだと、感覚が麻痺するほど疲れるんです。」
先生は眉をひそめ、納得したようにうなずいた。
「確かに、座学はきついかもしれない。」
「ですよね、休憩も――」
「先生、セリホの話を真に受けないでください!」と、グラウシュミが横から口を挟んだ。
「この人、口では不安がってますけど、筆記の成績はいつも満点なんです!」
「なるほど、実力はすでに証明されているというわけか。」
なんとなくわかってきた。まさか、奥様が先生に、こっそり僕に便宜を図らせようとしていたんじゃないか?
でも、僕には自分の実力で証明する力があるし、先生もまた、自らの信念に反することは決してしない方だった。
「特優クラスの教師兼担任、アシミリアン・アレクサンダー・クリストファー・ナザニエル・イマヌエル・ジッド・ベネディクト。」
そう名乗ると、先生は僕たちに手を差し伸べて言った。
「君たち、グラウシュミとラウシュミとセリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリア。この国立総合大学校への入学を歓迎する。」
「…分かりました、アシミリアン・アレクサンダー・クリストファー・ナザニエル・イマヌエル・ジッド・ベネディクト先生。」
「長すぎる名前だな」と心の中でツッコミを入れつつ、そう答えた。
「アシミリアンでいい。長い名前は好きではない。」
え、先生もこの長い名前に辟易してるのか?
人への印象の変化は一瞬の出来事であり、アシミリアン先生に対する見方が、初めて真剣なものとなった。
その姿はまるでシングルプレイヤーゲームのキャラクターが現実に抜け出してきたかのようであり、存在そのものが力と美を体現しているかのようだ。
その身長は、群衆の中でもひときわ目立っていた。身長は190センチくらいだと思う。
幅広い肩は、年月が刻んだ屈強な背筋を支え、露出した筋肉の一つひとつは、まるで彫刻された芸術作品のように力強く、堂々としていた。
歳月が刻んだ独特の表情のラインは、その風格を損なうどころか、むしろ年輪のような深みを与えていた。
「今後、君のことをセリホと呼んでもいい?」とアシミリアン先生が問いかけた。
「はい。」
僕は静かにうなずいた。
「当初の予定では、試験において優れた成績を収めた二名の候補者に個別に通達し、全試験終了後に最終決戦を実施することで、優勝者および準優勝者を正式に決定するつもりだ。まさか、君たちががすでに顔見知りだったとは思はない。
「三歳の頃、夏祭りで初めて会った関係ですけど。」
「まったく、若いって素晴らしいな……」
アシミリアン先生はそう一言感嘆を漏らし、立ち去っていった。
「これで、特優クラスの一員ってことで間違いないね。」
「それは当然。」
「まさか……最終的に、君と対戦することになるなんてね。次は、誰が三位になるか見届けてから、そして全力で戦おう!」
「僕も全力で行くよ。」
新しい朝の光が、国立総合大学校の隅々にまで差し込んでいた。
由緒ある家柄が重んじられるこの環境で、特別裕福でもない僕の身分は、時に疎外感を覚えることもあり、情報を得るのにも苦労する。
最近、偶然耳にした話によると、国で最も影響力のあるグレミカイヴァキス家の重鎮が学校を訪れ、ほとんどすべての生徒に魔法の洗礼を施したらしい。
この重鎮は高い社会的地位を持つだけでなく、魔法の道を深く研究する系の首領でもあり、絶大な威望を誇っているという。
僕がその話を知ったときには、彼はすでに帰ってしまっていたらしい。
僕自身はその影響をあまり受けていないけれど、グラウシュミの状況はもっと厳しい。
彼女は卓越した実力を持っているのに、特別な家庭背景もなく、試験の結果もはっきりしないため、より大きな試練に直面しているのだ。
だから、こういうのが嫌いなんだよな。
観客はすでにいっぱいだ。先ほどの3位決定戦ではデルガカナが勝利し、その五分後には優勝決定戦が始まる。
僕たちは別々の控え室に入り、お互いを知らないふりをした。
座ったばかりのとき、デルガカナが傷だらけのまま台から降り、つまずいて倒れてしまった。
放っておくのは性に合わないので、軽く花系魔法で傷を癒してやった。
「時には、自分を武器のように扱いすぎないことも大事だ。」
試合の時間が来た。名前を呼ばれ、刀の柄を握って軽く抜き、「よろしくお願いします」と微笑んで挨拶する。
グラウシュミは、宝石が散りばめられた直剣を手にし、しなやかな構えで応じた。
試合が始まる。唐大刀を速やかに振り出し、瞬時に攻勢に出た。
グラウシュミもすぐに対応し、難なく僕の攻撃をいなして反撃してくる。
即座に反応しなければ、あっという間に主導権を握られてしまいかねない。
初めのうちは、グラウシュミの剣技と速さに翻弄されたものの、すぐにその動きに馴染み、対抗できるようになった。
それでも今回は、あえて自分に不利な状況を作って戦っている。
「ふむ、こんな簡単に降参するわけにはいかない。」
心の中でつぶやきながら、わざと刀を少し緩めた。
彼女の剣が当たる瞬間、刀身を滑らせてかわす。そのまま刀を背中に引き、彼女のバランスを崩すと、鞘を振り上げて直剣を空中に舞い上がらせた。
グラウシュミは完全に不意を突かれたようだったが、剣が手を離れた瞬間、すぐさま魔法を発動した。
腕から一本のツタがスルスルと伸びて、舞っていた剣を絡め取った。
まさに、これこそが勝敗を分ける絶妙な隙だった。
僕にとっても、彼女にとっても、これは勝負の分かれ道。
このチャンスを掴めば、戦局をひっくり返せるかもしれない。
もしかしたら、負け戦を勝利に――いや、逆に勝利を敗北に変えてしまうことすらできるかもしれない。
僕はすぐに攻撃を続けるふりをしながら、グラウシュミにわざと反撃の隙を与えた。
外から見ればただの全力攻撃に見えるだろうが、彼女には僕の微妙な力加減が伝わったのか、わずかに戸惑いの表情を浮かべた。
「やばっ。気づいたのか。」
それでも彼女は、ためらうことなくその隙を利用し、一気に剣を構え直して反撃してきた。
剣先が唐大刀を突き上げた。
その勢いに任せて刀を手放すと、刀は空中で数回回転し、やがて地面に突き刺さった。
「……負けたよ、僕。」
勝負がついた瞬間、観客から盛大な拍手が巻き起こり、「グラウシュミ、おめでとう!」という声援が響く。
しかしグラウシュミは納得がいかない様子で、怒った顔で僕の服をグイッと引っ張った。
「……君ってやつは! 本気出せば勝てたのに……!」
僕は唐大刀を拾い上げ、鞘に戻しながら気楽に言った。
「いやいや、僕、怠け者だからさ。早く終わらせるのも悪くないでしょ?」
「それって、手加減したってことじゃない! 本気を出せば絶対に私に勝てたのに……!」
「後ろで話そう。観客がたくさん見てる。」
「……そうね。じゃあ、後ろで話すわ!」
そして控え室に戻ると、彼女は待ちきれない様子で詰め寄ってきた。
「3、2、1、合理的な説明をしてちょうだい!君、わざと私に譲ったでしょう? 最初は君に攻めてきたのに、本当は勝てる実力があったんだから!」
「もう少し声を抑えて……他にも人がいるんだから。……ん?」
「話を逸らすな!」
「いない? まあ、いいけど。」
鬢髪を少し指に巻きつけながら、「いやね、実はそう考えたんだ。でもさ、もし筆記試験と実技試験で全部トップを独占しちゃったら、目立ちすぎるでしょ?」
「じゃあ、どうしてもっと1位を狙わないの?」
「人間ってね、欲張りすぎない方がいいって、今ならわかるんだ。全部で1位を取っちゃったら、他の人たちはどう思う? みんなが輝けるチャンスがあった方が、やる気も出るし、成長できるじゃん?」
「ほんとに、君はいつも手を抜いてばっかり! まさか筆記試験でも手を抜いたんじゃないでしょうね?!」
「これは絶対に手抜きしないって――いたっ!」