1-9 僕、入学試験が終わった(1)
話を耳にしながら午後の陽光を浴びていると、突然、見知らぬ背の高い影が前に立ちはだかった。
「君がセリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリアか?」
「はい、そうですが……」
「特優クラスへようこそ。」
彼は僕の質問に直接答えず、じろじろと僕を見たあと、少し頷いてこう言った。
「はい?」
「試験で特別扱いはしない。さっさと試験会場に行け。」
見知らぬ背の高い先生は、その一言だけを残して僕を無視し、立ち去ってしまった。
なんだよ、それ! 別に特別扱いなんて頼んでないし!
でも、確かに、先生って優秀なほど変わり者が多い気がするけど。
まあ、考えても仕方ないので、僕は試験会場の中でひとまず落ち着いて席に着いた。どうせ今のところ試験の結果は出ていないし、評価もまだ出身によって左右されているという不条理にムカつきながら、暇つぶしに花系魔法で紙とペンを出して落書きを始めた。
ふと気づくと、描かれていたのは黒髪に青い瞳のツインテールの少女——そう、「莫辞遐」だ。
「また!!!」
推しキャラを描くのはもう筋肉記憶になってる。それも全部一姉のおかげ。一姉は僕より「推し」のことがもっと好きだから。
「誰だって黒髪・青い瞳・ツインテールの少女は好きだろう! 早く描け、もしくは書け!」
「書けられない!」
って、今さら青いコンになったの原因だ。
そんな思い出に浸っていたところで、ついに名前が呼ばれた。
「次の受験者、セリホ・サニアス・ブルジョシュ・トレミ・アルサレグリア。」
いよいよ僕の番だ。だが、呼んだ声に聞き覚えがある……
まさか? いや、こんな時に、さっきの先生にまた会うなんてこと、あるわけがない。
――まさにその「まさか」だった。
試験監督として現れたのは、まさしくさっきの先生だった。こうなったら、ますます気を抜くわけにはいかない。
「的に命中さえすれば、合格ですか?」
「理論的にはそうだ」と、先生は淡々と答えた。
僕はしっかりと立ち、矢をつがえ、弓を引いた。
条件は、的に六発で当てること。チャンスは十回ある。ただ、それさえ守れば満点だ。
かつての射撃訓練で鍛えられたおかげで、的を外す心配はまったくない。
もちろん、この魔法と力が支配する時代においては、現代の「フロントサイト、リアサイト、および照準目標を一直線上に揃える照準方式」のような正確さは、射撃技術には期待できない。
ましてや、弓を引くことで体力を消耗するのだから。
しかし、風系魔法を使ってフロントサイト、リアサイト、そして照準目標をシミュレートできるのであれば、それで十分だ。
「ふっ……」
矢を放つと、風と雪(氷)の魔法をまとった矢が一気に飛び、的の中心にズバリと突き刺さった。
嘲笑っていた連中も、これには黙るしかなかった。
一発目、満点。
その後も矢を射つたびに、矢は見事に的の中心を貫き続け、十発すべてが的の中心に命中した。
試験の満点条件は六発だったが、先生が止めなかったため、十発すべてを射ちきることにした。
まあ、当然の結果だ。
「基礎はしっかりしているし、魔法の応用も見事だ」と、先生は結果に目を通しながら満足そうに言い、成績表を手渡してきた。
「明日の実技試験も期待している。」
「期待に応えてみせます、先生!」
――「見て見て!あれ!オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様だ!」
翌日。
廊下が一瞬でざわつき、人々がわっと集まっていく。少し気になって、僕も近づいてみた。
オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ……
長い名前だな。
その名前にふさわしい、魅惑的な曲線美を持つ紅髪の女が、そこに立っていた。
赤い髪は濃密で美しく、一本の長いポニーテールに結ばれ、背中まで垂れている。
橙色の瞳は威厳に満ち、わずかに上がった口元と白く滑らかな肌からは、健康で活気あふれる生命感がにじみ出ている。
彼女は銀色のぴったりとした鎧をまとっており、精巧な宝石がちりばめられたその鎧は、淡い光の中で輝いている。
手足にも同じく銀色の防具を着け、腰には幅広の革製ベルトが巻かれ、そこには鋭い大剣と、いくつかの便利そうな道具がぶら下がっている。
……なるほど、こんなにも魅力的な人に心を奪われる人が多いのも無理はない。
僕は一目見て、さっと踵を返した。
そんな気質が好きじゃないからだ。
外見じゃなく、内面が強い女性が大好きなんだ。たとえばグラウシュミ――彼女にはまるで一姉の面影を見た気がした。
「ん?」
オレリアがこちらに視線を向けた。まるで「自分に興味のない人間もいる?」と驚いているような表情だ。
はぁ、本当に自分のことを展示台の上の観賞品だと思ってるのかしら。いいわ、好きに指摘させてもらう。
そんなに見られる覚悟があるなら、興味を持たれない覚悟だって持たなきゃいけないでしょ。
「オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様!今回の指揮、本当に素晴らしかったです……」
「お世辞は要りません。」
彼女は軽く手を振りながら言った。
「これは私の務めですから。」
「オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様、現在の国家情勢について、どうお考えですか?」
「私は戦士です。職務は、国家を守ることだけ。」
彼女は当たり障りのない言葉で人々を遠ざけながらも、ちらちらと周囲に目を向けていた。
まるで誰か特定の人物を探しているかのようだ。
その様子が、僕の目に留まった。
「オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様、少し失礼ですが、今回なぜわざわざ学生の入学試験にお越しになったのですか?」
「対戦します。」
彼女は目的に関係ありそうな言葉を耳にしたらしく、立ち止まってそう答えた。
でも——
「えええええええええええええええええ?!!!!!!!!!!!!!」
今日の試験が終わったばかりなので、僕は理論上、友達と校内をぶらぶらするつもりだった。
学校は広いので、散歩するだけでもちょうどいい気分転換になる。
ここにはたくさんの学生がいて、敷地が広くなければ収容しきれないのだから。




