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1-9 僕、入学試験が終わった(2)

 翌日は体育館で過ごすことに。これも「団結を深めるための」特別イベントらしいが、実際のところはお決まりの、退屈な集団活動だった。

 もう慣れた。

 今日は試合のスケジュールが詰まっていたため、できるだけ多くの試合の合間に休憩を取りたくて、すぐに勝負を決める戦術を選ぶことにした。

 素早く相手の武器を奪い、攻撃力を削ぐことで、自分の勝利を確実にしつつ、双方が安全に試合を終えられるようにした。

 しかし、予想通りには展開せず、思いがけない出来事が起こった。

「オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様!あなた様が……!」

 長い赤髪をなびかせ、名前があまりにも長すぎて覚えられそうにない女性が試合会場に入ってきた。

 そして彼女は、剣の切っ先をまっすぐ僕に向けて突き立てた。力強く、決然とした声が空気を裂く。

「そう!私が対戦相手として指名するのは――お前だ!」

「……?」

 僕?

 その瞬間、会場全体が、まるで油の中に水が入ったかのようにざわめき、騒ぎが巻き起こった。

「あいつが相手だって!?」「なんだって!?相手はあいつなのか!」と、あちこちから驚きの声が上がる。

 どうやら校内中の誰もが、彼女が対戦相手を探していることは知っていたものの、その相手が僕だとは思っていなかったらしい。

 僕は眉をひそめた。

 おいおい、君、ただでさえ有名人なんだから、そんな公衆の面前で大声で他の人の名前を呼ぶのはやめてほしいの!

 こっちは社交不安症ってわけじゃないけど、そんなことされたら、さすがにこっちまで不安になっちゃうだろ!?

 それに、剣で人を指すなんて、失礼にもほどがあるんじゃないか? お育ちが悪いのか?

 心の中では文句があふれそうになったけれど、表情だけはなんとか平静を保ったまま、言葉を返した。

「えーっと、その……オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様?相手をお間違えではありませんか?」

「いいえ、間違っていない! あなただ!」

 彼女の剣先は、なおも僕を捉え続けている。

「私の挑戦、受ける勇気はある?」

 やけに子供っぽいじゃないか……。

「僕? ええ、せっかくだから、受けないわけにはいかないですね……」

 僕は少し引き気味に答えた。

「ただ、今日の試験の進行に影響が出ないように、昼休みに……」

 だが、僕が言い終えるか否かというタイミングで、昼休みのチャイムが鳴り響いた。

 オレリアは一歩前に踏み出し、声を張り上げる。

「今すぐ明確な答えを! 今のこの対戦を受けるのか、拒否するのか!」

「……いい。わかった。対戦、受ける。」

 観客席は再びざわめき、口々に囁きが広がった。

「おいおい、こいつ無謀にもほどがあるぞ。あんな強者に挑戦するなんて!」

「正気か? オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様に勝てるわけがないだろ?」

「賭けでもするか?」

 ローブの人物はそう尋ねた。

「賭け? 結果は見え見えじゃないか! 誰が彼に賭けるっていうんだ!」

「でも、オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様の戦う姿が見られるなんて、これは……!」

「戦う姿って? 三秒で決着がつきそうな気がするけどな!」

「オレリアのオッズは1.01倍、セリホは81倍だ」とローブの人物は言った。

「そんなの聞く必要ある?俺は全部オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様に賭ける!」

「俺も!!!」

「私も!!!」

「はーい、契約書。」

 今や食堂には誰もおらず、全員が試合場に集まっていた。

 観覧席からの視線は、どれも期待とともに僕の失敗を待ち構えているようだった。

 仕方なく、僕はリングに上がった。

「それでは、規則通りお名前を伺っても?」

 わざと質問して、少しでも時間を稼ごうとする。

「オレリアでいい。」

 彼女はあっさりと時間稼ぎを無視し、大剣を構えると続けた。

「それで、あなたはセリホよね?」

 僕は頷き、唐大刀の構えで応える。

「仕方ないから。」

 戦いが始まった。

 オレリアは大剣を舞わせる。その動きは、優雅でありながら鋭く、一直線に僕へと迫ってきた。

 僕は冷静に攻撃を分析し、かわしながら反撃の隙をうかがう。

 確かに、大剣の威力は絶大だ。だが、その重さのせいか動きにはどこか遅れがあり、攻撃の軌道にはあるリズムが生まれていた。

 僕は自分の小柄な体格と、日々のトレーニングで鍛えた素早さを駆使し、その剣閃の中で回避と防御を繰り返しながら、彼女のパターンを見極めようと努めた。

「完璧な守り。全方位をカバーする隙のない防御。唯一の方法は、体力を消耗させることだ……武器に重さがある以上、それにも限界があるはずだ。」

 どれほどの時間が過ぎたのかもわからない。オレリアの攻撃が徐々に弱まり、ついに攻守が逆転した。

 ——僕、速攻戦が得意だからって、長期戦が不得意なわけじゃない!

 やがて絶好のチャンスを捉え、唐大刀をひねって見事に大剣の隙間へと切り込んだ――狙いは最初から変わらず、彼女の武器を奪うことだけだ。

「ははっ! 面白いじゃないか!」

 しかし、隙を突かれたオレリアは、なんと爽やかに声高に笑い声をあげた。

 僕はすぐに異変に気づくと、唐大刀を振りかざして攻撃のポイントを切り替え、一歩下がった。

 案の定、オレリアの大剣は二つに分かれ、軽やかな両手剣へと変形し、さらに猛烈な攻撃を仕掛けてきた。

 頭の中に警鐘が鳴り響く。彼女の動きが、ますますしなやかで華やかになっていることに気づいた。

「チッ、この名声はただの噂じゃないか。」

 戦況は、オレリアが技を切り替えた瞬間に一気に白熱した。

 疾風のように空気を切り裂いて、オレリアの手に握られた軽い剣は、まるで生き物のように舞い踊る。

 左右に、上下に、時には横薙ぎ、時には突き刺し――目が眩むような動きだった。

 その鋭利な刃先をなんとかかわし続けていたが、一瞬たりとも気を抜くことはできなかった。

 毎秒が永遠に感じられ、全神経を集中させて、オレリアの攻撃を一つ一つ読み取ることに全力を注いでいた。

 幾度もの攻防の末、ついに彼女の小さな隙を見つけた。大剣から両手剣に持ち替えるその瞬間、ほんのわずかな遅れが生じたのだ。

 オレリアが両手剣を使う場面はあまり多くない。だからこそ、ずっと彼女がこの武器に不慣れな瞬間を待っていた。

 心の中で「見つけた!」と叫び、わずかな隙を狙って攻撃を仕掛けた。

 唐大刀が一閃し、光の残像を残しながら、その小さな破綻へと突き進む。

 鋭い金属音が響き、オレリアの手から両手剣が滑り落ち、地面に転がった。

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