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1-1 私、死んで、転生して、しかも性別まで変わっちゃった?!(2)

 し!

 か!

 し!

「トラックに轢かれて死ぬ」なんて展開、一度も書いたことない!そもそもひどい交通事故の現場を見たことだってない!

 トラックのタイヤに頭を潰されて死ぬなんて……

 そこには美しさなんて一片もない!

 こんな死に方じゃ、棺の中に入っても、誰も顔を見ようとすらしないだろう。

 ――仕方ない。

 こうなってしまった以上、

「劉柳留」という肉体の存在は、もう前世の両親に属するものだ。

 どれだけ後悔しても時間は戻らないし、今さら嘆いたところで、何の意味もない。

 唯一の心残りは、午後から開かれる雅語ディベート大会に、左一孑さいちひとさんが出場するかどうか、ということだった。

 カールした茶色の髪に、そばかすの浮かぶ顔――

 左一孑さんは、相手チームの常連であり、非常に優秀な弁士だ。

 私は密かに、彼女のことを「一姉いちねえ」と呼んでいた。

 もう半年近く会っていない。スマホや端末で連絡を取ろうとしても、何の反応もない。

 本当に心配だな、一姉のこと。

 最後に彼女と一緒に雅語ディベートの授業を受けたとき、彼女はいつものように嬉しそうに私に抱きついてきて――

 それから、どこか寂しげな表情を浮かべて、そっと去っていった。

 雅語ディベートの授業が好きだった理由は、実はとても簡単だ。授業中は一姉と遊べる時間だから。

 すごく心配だ。

 なぜなら、その後、一姉が北部の都市に住んでいるからという遠距離を理由に授業を辞めた……

 けれど、彼女がこの都市にも「仮住まい」を持っていることを考えると、そんな理由では到底納得できなかった。

 授業中はあまり集中していないように見えても、ディベートの試合になると、彼女はいつも鋭い論理と思考で私と真正面から論じ合った。

 左一孑さん――私は彼女を、敵として敬意を抱きつつ、友人としても深く尊敬していた。

 一姉の意見はいつも独特で、深く、挑戦的だった。

 彼女の発言を聞くたびに、自分の立場や論拠を根本から見直さざるを得なかった。

 まさに「競い合う友人」という言葉がぴったりの存在だった。

 放課後、一緒にゲームをして気分転換することも、たまにはあった。

 一姉は「成績を上げたいから、協力して!報酬も払うから!」なんて言って、わざわざ本屋の前まで呼び出し、そこから彼女の「仮住まい」に連れていかれて、ひたすらゲーム大会が始まる……そんな日もあった。

 本当は、今回の大会でまた彼女と対戦できるのを、心の底から楽しみにしていた。だってあのとき、高熱でうなされていた私を助けながら、一姉はこう言ってくれたのだ。

「絶対に、この試合だけは外せない!!」

 だからこそ、どうして突然、あんな説得力のない理由で授業を辞めたのか、私にはどうしても理解できなかった。

 ……でも……

 もしかして、一姉も私と同じ目に遭ったんじゃないか――

 そんな考えが、ふと頭をよぎることがある。

 ……まあ、こうして色々語っている自分を見ると、やっぱりまだ「自分が死んだ」ってことに納得できていないのが、にじみ出てるかもしれない。

 でも――

 本当にびっくりするのは、これからのだ……!

 ――「おめでとうございます、男の子です!」

 その声が、はっきりと耳に飛び込んできた。

 ……半分寝てるみたいな意識だったけど、その言葉だけは妙にクリアに聞こえた。

 え。

 え?

 え???

 男……の子!?

 その言葉が頭の中をぐるぐる回り、ショックでしばらく固まってしまった。

 ていうか、そもそもおかしくない!?

 完全にあの世に行ったはずなのに、なんで耳が聞こえてるの!?

 ……っていうか、「男の子」って何!?

 待って。私、絶対に「女の子」だったよね!?

 しかもこの人たちの言葉、なんで理解できるの!?

 というか――

 この体、赤ちゃんっぽくない!?

 ……ウソでしょ!?

「男の赤ちゃんが生まれました!おめでとうございます、アルサレグリア奥様!」

 ……はあ!?

 え、え、えっと、私、まさか性別まで変わっちゃったの!?

 しかもその声、なんだか妙に幼く聞こえる気がする……ってことは、本当に赤ちゃんになっちゃった!?

 つまり――

 あれだけ努力して鍛えた体も、積み上げた思考力も、ぜんぶリセット!?

 えっ、まじで!?

 いやだ!また一からやり直しとか勘弁してよ!!

 赤ちゃんになったら本も読めないじゃん!!

 ていうか……なんでこの人たちの言葉が分かるの?聞いたこともないような発音で、共通語でも雅語でもないはずなのに、なぜか理解できる……?

 まるで、勝手に翻訳されてるみたいに。

 まあ、どうでもいい。今さら赤ちゃんの私が話し出したら絶対おかしいから、まずは状況を把握するのが最優先だ。

 どうやら、この「アルサレグリア奥様」が、この体……つまりこの世界での「母親」ってことになるのかな?

 ……なんというか、ちょっと受け入れがたいけど。ここで下手に何か話したりしたら、間違いなく怪しまれる。

 しばらくは「赤ちゃんモード」で、慎重に行動したほうがいい。

 ……頭がだるい。

 先に寝よう。

 おやすみなさい。

 それから何年かが経ち、ようやく自分の置かれた状況がはっきりしてきた。

 今の僕――そう、「僕」はどうやら「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」という名前の人物として、異世界に転生してしまったらしい。

 ところで、「異世界転生」と「異世界転移」は、似ているようでまったく別物だ。

 簡単に説明すると――

 転生とは、明確な自我(たとえば魂や霊体、性格、記憶など)を保ったまま、新しい肉体に生まれ変わること。

 一方で、転移は、現在の身体と精神状態をそのまま持って、別の世界へ移動することを指す。

 前世の記憶を引きずりながらも、新しい体で生きるということは、新たな人生に意味を見出すということだ。どうやら昔の自分の感覚や思考も、少しずつ変わっていくらしい。

 というのも、人間の性格や行動は、脳内の化学物質によって大きく左右されるからだ。

 新しい肉体――つまり、新しい脳――に転生した以上、その化学的な構造や反応も当然変化している。

 脳内の化学物質の組成や分布が変わることで、感情や情緒、認知のパターンにも影響が現れる。

 結果として、転生後の自分は、前世とは微妙に違う性格や思考を持つようになる。

 だからこそ、僕は「私」でありながら、少しずつ「新しい僕」に生まれ変わっていくのかもしれない。

 それに、この新しい世界では、「私」が知っていた物理法則やエネルギーのルールが通用しない。

 だから、前世の知識がどこまで役に立つのかは正直、怪しい。そう考えると、少し不安にもなる……。

 でも、ラッキーだったのは、この転生に「システム」と呼ばれるお助け機能がついていたこと!

 ……やれやれ、ありがちだけど、異世界転生モノの定番だ。頭の中の「システム」。異世界アニメでもおなじみの重要アイテム。

 このシステムのおかげで、異世界の言語を理解できる。

 なぜなら、同時通訳機能が備わっているからだ。

 とはいえ、将来的にシステムが突然故障して、パネルが開かなくなる可能性もある。

 そう考えて、私はこの二年間、あえてシステムをオフにして、今の母親や周囲の人たちが使っている言語を自力で学ぶことにした。

 さあ、いよいよシステムを再起動する時が来た。

 僕は、まだ記憶に残っていた音声を翻訳して入力し、自分の推測と照らし合わせてみた。

 結果、正確さは83%。悪くはないけど、決して高くはない。

 このレベルでは、他人に聞かれたら「異邦人」だと見抜かれてしまうかもしれない。

 だから今は、まだ言葉が話せないふりをして、周囲の様子を慎重に観察するのが賢明だろう。

 自己と環境への理解――それが、実はとても重要なファクターだ。

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