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1-7 僕、入学試験の予習をする(3)

 入学試験でちょっとだけ過去(前世)の力を披露して、グラウシュミに見直してもらうのも悪くないかもしれない。

 普段は目立たないようにしてるけど、これくらいなら、少しくらい見せてもいい。

 まあ、そのときになったら考えよう。

「もし必要なら、また書いてあげる。試験のときは、そのまま書いてもいいよ。」

「なんだか……あなたの知恵を分けてもらってるみたいね。」

「たいしたことないから、気にしないで。それでさ、実技の授業って、馬術は必須なの?」

 前世の家は普通の家庭だったから、馬術なんて貴族の趣味とはまったく縁がなかった。

 そもそも、やってたのは剣術だし。

 それに風系魔法を鍛えれば、馬なんかより速く移動できる。だから、馬術は別に必要ないと思ってたんだ。

「馬術の代わりに、弓術でテストを受けることもできるんだよ。」

「弓術……なんか理由あるの?」

「弓術で鍛えた狙いの精度って、魔法にも活かせるって考えられてるんだよね。もし魔法を精密にコントロールできるなら、弓術のトレーニングは必須ってわけじゃないけど、基礎を身につければ、もっと正確に魔法を操れるようになるはずだよ。」

「じゃあ、グラウシュミ、理論だけでも教えてくれないか? 実践で使ったら、誰かをケガさせそうで怖いんだ。」

「そんなに強い魔力を持ってるわけじゃないでしょ? よし! まずは立ち方から始めましょう!」

「立ち方から?」

「そうよ。」グラウシュミは一歩前に出て、構えをとってみせた。「これは基本の立ち姿勢。試験が近いから、一番簡単なのから練習しておきましょう。そこから準備姿勢に切り替えて……弓の握り方と引き方も……」

「了解。」

「間違った持ち方だと、矢が狙いからずれちゃうのよ。だから、弓を持つときは手首をひねらないようにして、しっかり安定させることが大切なの。」

「なるほど。それじゃあ、あとでアルサレグリア奥様に頼んで、練習用の道具を用意してもらおう。ちなみに、弓道がそんなに上手いと……なんだか、グラウシュミも貴族なんじゃないかって思っちゃうよね?」

「私はもちろん貴族じゃないよ!」

 自分に合った構え方や、最近身につけた射撃のコツを習得するのは、それほど難しくない。あとは、コツコツと続けていくだけだ。

 そう考えれば、半年ってそんなに長い期間でもないな。

「また的中した。」

「セリホ、学ぶのが早いね。すごいわ。」

 グラウシュミは、僕が夜中に書き出した昔の算数ドリルを手にしながら言った。

「まあ、人それぞれペースが違うからね。ただ、時間があれば本を読むのが好きで、気づいたら覚えちゃうんだ。」

「でも、そんなに時間がないのよね。試験もすぐそこだし。」

「今からでも、時間をうまく使えば、まだまだ学べるよ。たとえば、学習計画を立てて効率的に勉強すればいい。グラウシュミは元々優秀だし、僕の臨時先生を引き受けてくれる時点で、その才能は十分だと思う。」

「そう? なんだか、気持ちが少し軽くなったわ。」

「無理しすぎないことだよ。まずは簡単な問題から少しずつやってみて、それから徐々に難易度を上げていけばいいんだから。」

「うん。ありがとう、セリホ!」

「大丈夫大丈夫。お互い様だから。」

「そういえばセリホ、必修科目の剣術って、まだ習ったことないわよね?」

「弓術?」

「違うわよ! 剣!」と、グラウシュミは紙に「剣」と大きく書き込んだ。「これ、必須の実技試験科目なんだからね!」

「ああ、そういえば、そうだった。」

 前世では、ただのひ弱な書生で、毎日「莫辞遐」の代わりに一姉に使われていた。莫辞遐という人こそも、一姉が青いコンになった原因だ。

 ……いや、むしろ、一姉のために青いコンになったと言った方がいい

 さらに、一姉からは何度も「瞳をつけてコスプレしろ」と命令された。あの時は全力で拒否したけれど、今なら、ついそのまま受け入れてしまいそうな自分がいる。

「セリホ、剣を持ち歩いたほうがいいかもしれないわね。」

 グラウシュミは真顔でそう提案してきた。

「グラウシュミが剣術を教えてくれる?」

「無理無理!!実際には剣術のテストで、そこまで厳しい基準があるわけじゃないのよ。ただ、1対1の戦いで相手を倒せればいいだけだから。」

「おや?」

「たとえば、魔法で身体を強化するのもありだし、武器に魔力を込めるのもアリ。」

「なるほど。」

「ただし、魔法で直接攻撃するのはダ!メ!よ!」

「なるほどなるほど、そういうことか。」

「だから、本当はあと数日後に言おうと思ってたんだけど……セリホなら、魔力を強化できる剣さえあれば十分だと思ってたの。」

 グラウシュミは拳をギュッと握りしめて、まるで僕にエールを送るような仕草を見せた。

「セリホって、頭もいいし魔力もあるから、そういうところで他の人を圧倒しちゃうんじゃないかな?」

「剣を作るなんて、手間がかかりそうだな……待ってる時間もないし、既製品じゃダメか?」

 武器は、ただの道具ではない。

 使い手の技術が優れていて、魔法やスキルが極まっていれば、紙だって強力な武器に変えられる。

 そう考えると、わざわざ専用の剣を作る意味ってあるのか?――そんな気がしてくる。

「うーん、確かに手に馴染むものが一番だけど、なかなかうまくはいかないよね。でも、剣を作るのにそんなに時間はかからないよ?」

「でもさ、既製品でちょうどいいのがあれば、それでいいと思うんだ。今から探しに行って、ついでに移動中に勉強もできるし!」

「え?そうね!」

 7月14日。晴れ。

 今日もまた、賑やかな王都の中心に足を踏み入れた。夏祭りほどの人混みではないけれど、それでも行き交う人々の活気は、まったく衰えていない。

 狭くて曲がりくねった路地を抜けると、ようやくたどり着いたのは、さまざまな武器を扱う長い商店街だった。

 だが、店先に並ぶ武器を一通り見渡してみると、どれも外見だけの飾り物ばかりで、平凡な人間なら満足するだろうが、僕にはどれもいささか物足りなく思えた。

 やっぱり、自分で鍛え上げた剣を手に入れるのが最良だと実感するな……ん?

「ちょっと待って。」

 不意に視線の片隅に捉えた、一見すると地味でひっそりとした隅の店。

 その奥には、どうやら宝物が隠されているような予感がした。

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