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1-7 僕、入学試験の予習をする(1)

 冬のある日。

「あと半年で、セリホも六歳の誕生日を迎えるわね。」

 晴れた日の午後、ティータイムの時間だった。

「半年? 今から話すにはちょっと早すぎま……るかも。それに、誕生日って、そんなに特別な日でもないよね?」

「半年なんて、あっという間よ。」

 母親はティーカップをそっと置き、優しく微笑んだ。

「だから、そろそろ学校の準備も考え始めましょう。」

「うっ!」

 思わず口に含んでいたお茶を噴き出しそうになった。

 その瞬間、まだ完全に封印されていない前世の記憶がよみがえり、脳裏に悪夢が一瞬で戻ってきたような感覚に襲われた。

「また、学校?」

 心の準備はしていたが、不意打ちの一言には、やはり少し驚いてしまった。

「また? まさかセリホ、こっそり学校に行ったことがあるの?」

 母は不思議そうに僕を見つめ、どうやら僕の反応を「勉強が好きなんだ」と受け取ったらしい。笑みを浮かべて、

「セリホったら、どうしてそんなに勉強が好きなのに、今まで隠していたのかしら?」

「そうよ、まさか勉強好きだったなんて!」と、横でグラウシュミも嬉しそうにうなずいた。

 この笑顔に思わずホッとしつつも、なんとか真面目な顔を保ち、鬢髪を少しかき上げながら言い返した。

「うん。ちょっと学校見学に行ったことがあって、正直よくわからなかったけど……。確か、ここって二学期制だよね? でも、入学って9月からだったっけ?」

 ここの二学期制は、1年を前期と後期に分ける教育制度で、前期は9月から1月初めまで、後期は2月中旬から6月下旬までだ。

「そう。まだ理解できなくても、心配しなくていいのよ。」

 母は安心したように言ったが、その視線には不安が混じっていた。

「ただ、学校はここから少し離れているの。あなたはちゃんと帰ってこられるでしょう? もし帰ってこなかったら……」

「帰るよ、絶対に! 心配しないで、必ず戻ってくるから!」

「それなら安心ね。彼女も一緒に行くのよね?」

「グラウシュミも?」

「うん! 楽しみだね! でも、学校に行く前にしっかり準備が必要だと思う!」

 母もうなずいた。

「そうね、たとえば……」

「いや、あんまり大げさな準備はいらないよ。」

 僕は慌てて手を振った。

「ノートとペンがあれば十分だし、あとは荷物とか、基本的なものは自分でなんとかするから。」

「ダメよ、セリホ。」

 母は真剣な顔で言った。

「入学試験があるんだから!」

 え、なに、え、ちょっと待て、え?

「入学試験?!!!!!!!!!!!」

 前世では、どんなことでも一度読めば覚えられたが、今の僕にはそこまでの自信はない。

「どんな試験? 過去のテストや、具体的な内容はあるの?」

「計算……とか?」

 グラウシュミが紅茶を置いて、考え込む。

「あとは魔法の言語を暗記して、書き出すとか……これが筆記試験の内容。」

「……実技試験はあるの?」

「当然あるわ。魔法対戦、剣術、馬術……とかね。」

「まあまあ大丈夫かな。」

「でもね、噂では、試験で人を殺すこともあるらしいの! だから、ちゃんと準備してね!」

「マジで? そんな危険なの? 想定外の緊急事態じゃん?」

 死ぬなんて、もう二度と……

 そもそも普通は、死を意識したら誰だって避けようとするだろ?

 生き延びようとする反応は、本能として体に染み付いているは・ず・だ。

 母は、少し申し訳なさそうな顔で僕を見つめた。

「セリホ、こういう訓練を少し怠っていたのは事実ね。これからはもっと厳しくするわ。」

「大げさ……」

「アルサレグリア奥様、ご安心ください。私、普通の人間ではありますが、全力でお手伝いします!」

 グラウシュミが元気よく応じた。

「それじゃ、頼むわね。セリホのこと、今後もお願いする。」

「はい、任せてください! じゃあセリホ、今からすぐに基本から教えてあげるわ!」

「いやいや、まだ療養中で……」と抵抗する僕に、グラウシュミは教師のように小さく咳払いをして、

「まずは計算から始めましょう!」と宣言した。

「計算が一番難しいだろ……」と、わざと困った顔をしてみせる僕は鬢髪を少しかき上げた。

 それを見た母はそっと部屋を出て行き、しばらくして戻ってくると、ペンと紙の束を手渡してきた。

「グラウシュミ。」

「あっ、奥様、ありがとうございます!」

「どういたしまして。」

 僕は目の前で問題をシャカシャカと書いているグラウシュミを見つめていた。そして――

「はい!」

 彼女が渡してきた紙には、なんともシンプルな計算問題が書かれていた。まばらに並んだ文字を見て、思わず眉をひそめる。

「これが計算のテストなの? たとえば 『1+1=?』 って……」

「これはね、かなり難しいのよ! バカにしないで!」

 グラウシュミが真剣な顔で返してくる。

「まずはここから始めるの! 初めてだから砂時計は使わないけど、正答率が60%に達すれば……」

「ちょっと見てくれる?」

 彼女が説明している間に、僕はすでに問題用紙に答えを書き込んでいた。

「えっ、問題が読めるの?」

「だって、ただの10以内の足し算と引き算だろ?」

 こんなの、ヴィーナやランシブにだって解けると思うけど。

「いや、いいわ! 信じられない。きっと絵の才能でなんとなく書いたんでしょ? 見せなさい!」

 彼女は僕の書いた紙をひったくり、「3+5=……8、9-3=……6」とひとつひとつ確認していく。

 そして、だんだんと目を見開き――

「う、嘘でしょ。ちゃんと計算の勉強していないのに、どうして……?」

「ま、まあね。普段からちょっと見てればわかる。」

「そんなの普通じゃない! ああもう、入学試験はそんなに甘くないんだから! 確かにセリホには才能があると思うけど、これはもっと難しいんだから!」

 そう言って、彼女は二枚目の試験用紙を僕の前にバンと置いた。

 今度は少し問題が多く、2桁の足し算と引き算が並んでいる。とはいえ三桁には及んでいない。

 ……うん、ちょっと手加減してくれたのかな。

「今度は、指で数えるなんてできないわよ! これなら時間かかるでしょ……」

「できた。」

 僕は試験用紙を彼女に差し出した。

「グラウシュミ先生、どうぞ採点をお願いします。」

 グラウシュミは呆然としつつ、問題をひとつずつ確認し始めた。

「えっと、90-13は……90から10を引いて、それから3を引いて……77……合ってる……」

 彼女が一生懸命に確認している間、僕はこっそりグラウシュミの様子を観察していた。

 青いコン満足中……

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