表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/116

1-5 僕、グラウシュミを救いに行く(2)

 仕方なく距離を取って、もっと複雑な戦術を試そうとした――けど、化け物はまるで僕の動きを読んだみたいに、一瞬で距離を詰めてきた。

 危機一髪で力を使って横に飛び退くと、足元の地面に巨大な裂け目が目に入った。

 すぐさまその裂け目の縁に、花とツタで作った偽装の罠を仕掛けて、化け物が突っ込んでくるのを待つ。

 やがて再び襲いかかってきた化け物が罠に飛び込んだ瞬間、僕は強風の魔法を発動した。

 恐ろしい叫び声を上げながら、化け物はツタの中へと巻き込まれていった。

 しかし、戦いはまだ終わっていなかった。突如としてさらに強力な気配が漂い、もう一つ圧倒的な存在感を放つ巨大な化け物が姿を現した。

「同じタイプ?冷静に考え。システム、そいつの心臓はどこだ?」

 その化け物は怒りに満ちた咆哮を上げ、雷のような拳を振り上げて迫ってきた。瞬間、体をひねってその攻撃をかわしながら、氷の刀を振る。空中に軌跡が残り、刃の残像が何重にも閃いた。

 厚い皮膚には普通の一撃では通じない。だが僕は、風の刃と氷の錐で削るように連撃を重ね、徐々に奴の防御を切り裂いていく。

 一瞬の隙を見逃さず、ツタの魔法でその巨体を絡め取り、動きを封じた。そして、渾身の力を込めた氷刀を、狙いすました心臓に突き刺す。

 刀身が凍てついた光を放ち、硬い皮膚を突き破った。粘つくような赤黒い血が噴き出し、戦場に赤い飛沫を描く。

 化け物は最後の咆哮をあげ、体を激しく痙攣させながら地面に崩れ落ちた。動かない。

 ……それでも、僕は慎重だった。

 再び氷の刀を形づくり、心臓に向けてもう一度、深く、深く突き刺す。

 ——これで、生命値は確実にゼロだ。

「ふっ……」小さく息を吐いた。

「ご主人様ッ!」

 ヴィーナが鋭く叫び、僕を突き飛ばした。

 衝撃と共に体が横へ流れた瞬間、地面を毒液が走る。ヴィーナが咄嗟に吐き出した毒の層が、僕たちの背後へ弧を描いて落ちた。

  次の瞬間、ある異形の化け物の爪が通り過ぎていった。あれほど傷を負っていたはずなのに、奴はさらに身体をねじ曲げ、歪んだ進化を遂げていた。

「まさか……二つの命……?」

  眼前にいるのは、さっき倒したはずの化け物。しかし、そこにあったのは「蘇り」ではない。ただの再起では説明できない。

 まるで、新しい個体に生まれ変わったような、そんな異様な姿だった。

 そして今度は、その動きが読めない。手足の軌道は蛇のように滑らかに、突如として角度を変え、視認すら困難だ。

 だが、一つだけ、変わらないものがある。

「頭は動かない!」

 身体がどれだけ変幻しても、奴の頭部だけは、まるで軸のように一点に固定されている。

 それが、今のこの魔物の唯一の弱点!

「なら、反撃の時間だ!」

 僕は腕を振り上げ、指先で空気の流れを操った。

 命じると同時に、冷気を纏った刃が次々と編み出され、その風が周囲を切り裂く。

 そして、氷の錐が空中で輝きながら形成され、風刃に続いて化け物の頭部めがけて飛翔した。

 凄まじい叫び声と共に、ついに化け物は地に伏した。

「ヴィーナ!」

 心の中で呼びかけると、ヴィーナが飛び出してきた。

「助かった!ありがとう!」

「たいしたことない、ご主人様!」

「めっちゃ助かった!残してくれたアイテムが山ほどある!」

「ご主人様の役に立つことは、この俺の生きる意味だ!」

「じゃ、これ全部食べくれてもいい?帰った後、毒を取り除いて市場にでも売りに行く。さ、行こう……」

「進めないことをお勧めいたします。」

 システムが突然忠告してきた。

「どうしたの?」

「識別をお忘れのようです。この『スパイダーサソリ』という名前の生物は集団で現れることが多いのです。したがって、注意が必要となります……」

「僕の魔力と防御力はどうだ?」

「残りは半分ですので……」

「十分だ。避けて通るまでのことだ。」

「ですが、他のルートにも……」

「分かってるさ。」

 僕は軽く手を振ると、風刃が空中に鋭い通り道を切り開き、植物たちの無駄な枝葉を巻き込まないよう配慮して、森を巧みに迂回していった。

「で、この森の木を全て取り除くとどうなるか、知ってるか?」

「根さえ残っていれば、それらはまだ生きております。」

「仕方ない。これはまあ、妥協策ってやつだ。ずっと化け物と戦い続けるよりは、まだマシだろ? 今ここで大きな魔法を使えば、半径150メートル以内の植物は、ほとんど一掃できる。」

「それは、何を意味しておられるのですか?」

「ただ、必要な光を確保するだけでいい。だから、陽光を遮ってる部分だけを取り除く。」

「まさか……そのようなことをお考えなのですか?」

「そう。これで、光が200メートルくらいまで届くようになるはずだ。もともと、この暗さがスティヴァリの森の魔物たちを育ててる原因だからな。光が差し込めば、奴らも逃げていくだろう。」

「確かに、その通りでございます。」

「それに、君が言ってた通り、スティヴァリの森には驚異的な回復力があるから、しばらくすれば元通りになるだろう。その間に、僕も体力と魔力を回復できる。」

「まさにその通りでございます。」

「そして、ここはどの国にも属してないし、誰にも管理されてない地域だ。光を入れるくらいなら、誰も文句は言わない。」

 足元から微かな振動が伝わってきて、ヴィーナが鋭く反応した。

 どうやら化け物たちが次々と集まってきてて、僕たちの位置を正確に把握してるらしい。

「本当はこんなことしたくないんだけど……はあ。ちょっと植物たちには我慢してもらうしかないね。」

 心の中で謝りながら、僕は花系魔法を炎に変換して、手のひらに炎を宿した。

 すぐに周囲の木々の梢が燃え始めたけど、幹と根は無事のままだ。

「僕たちが生き残るためだ。このスティヴァリの森に光を入れて、開けた場所を作れば、『スパイダーサソリ』たちも引き下がるだろう。」

 炎を慎重に操って明るい空間を作り出すと、太陽の光が森の中に降り注いだ。

「風よ、燃え広がれ!」

 風の魔法が火勢を煽り、炎は暗がりへと進んでいった。

 木々が低いうめき声を上げながら燃え、火が広がるにつれて、『スパイダーサソリ』たちはその場から離れていった。

 ヴィーナが「化け物はもう遠ざかりました」と告げると、僕はすぐに火を消し、空から雪を降らせて、残り火をすべて覆い尽くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ