ラルシェニ-過去の訓練 (2)
教官は黙って見守り、時折腰や腕の角度を直してやりながら、ラルシェニの必死の努力を確認していた。
一度の試みで、ラルシェニはさらに力を込めようとした。しかし力が入りすぎ、体の重心を失い、そのまま前に倒れ込んだ。膝が硬い地面にぶつかり、鈍い音とともに皮膚が擦れて血がにじみ出た。
「いたっ!」
ラルシェニは声を上げ、痛みに耐えきれず目に涙を浮かべた。両手で膝を押さえ、必死に痛みをこらえようとする。
教官はすぐに駆け寄り、膝をついてラルシェニを見下ろしながら声をかけた。
「大丈夫か?」
そう言って手を伸ばし、立ち上がらせようとした。
だがラルシェニはその手を押し返した。目には涙が浮かんでいたが、その奥には強い決意が宿っていた。歯を食いしばり、震える声で言った。
「俺は大丈夫だ!訓練を続けるんだ!こんな小さな傷、なんでもない!こんなことで諦めるわけにはいかない!」
膝から血が流れ、痛みに顔をしかめながらも、ラルシェニは立ち上がろうと両足に力を込めた。
「……いいだろう。だが無理はするな。騎士の道は強靭な心だけでなく、体を守る知恵も必要だ。」
「はい!もう一度だ、教官!」
声を張り上げ、足を踏み込む。ぐらつく足取りを必死に支え、腰をひねって振り下ろす。動きはまだ粗く、完璧とは程遠かったが、剣先には確かに力がこもっていた。
教官は黙ってその様子を見つめ、やがてゆっくりと口を開いた。
「よし、その気迫を忘れるな。剣はただの鉄ではない。持つ者の本心が込められて、初めて真の刃となる。」
その言葉は、まだ幼いラルシェニにはすべてを理解できないものだったが、胸の奥に熱い火を灯すには十分だった。
「俺の剣は……負けない!」
休憩の時間になると、召使いたちが軽やかな足取りで城から訓練場へやって来た。彼らの手には銀の盆があり、その上にはさまざまな菓子がきれいに並べられていた。
柔らかい生地のケーキには新鮮な果物が添えられ、焼きたてのクッキーからは香ばしい匂いが立ちのぼっていた。さらに、搾りたての果汁で作られたジュースがガラスの器に注がれ、日差しを受けて澄んだ光を返していた。
ラルシェニは訓練場の端に置かれた椅子に腰を下ろした。頑丈なオーク材で作られた椅子の背に体を預けると、しばし体の力を抜いた。椅子の表面には細かな模様が彫り込まれており、足元には召使いが並べた小さな点心が用意されていた。
ラルシェニは菓子を一つ手に取り、口に運んだ。甘みが広がるのを味わいながらも、視線は教官から外れなかった。瞳には好奇心と学びたいという意欲が宿り、彼は食べる手を止めずに問いかけた。
「教官、俺はいつになったら本当の後継者になれるのか?」
ラルシェニは真剣な表情で問いかけた。その声には焦りと期待が入り混じっており、長い訓練の日々が彼の中で積み重なっていることが感じられた。
教官は優しく微笑みながらラルシェニの隣に腰を下ろした。
「ラルシェニ、もし君があきらめずに訓練を続け、剣術を磨き続ければ、必ずや本物の後継者になれるだろう。君は本家の子孫だ、家族の名誉を背負っている。それが君の使命であり、責任でもあるんだ。」
ラルシェニは真剣にその言葉を聞き取り、一瞬の沈黙のあとで力強くうなずいた。胸の奥で熱く燃えるものを感じながら、目を輝かせ、両手を固く握りしめた。そして強い声で叫ぶように答えた。
「うん、絶対に頑張る!俺は一番強い後継者になる!家族を導き、誰にも恥じない存在にな——」
時が経ち、ラルシェニは着実に剣術を上達させていった。家族の小さな集まりが開かれる日、花園は色とりどりの花々で満ち、あちこちに甘い香りが漂っていた。陽の光を受けた水しぶきは虹のように輝き、周りの貴族たちは華やかな衣装をまとい、きらびやかな宝石を身につけて、楽しげに談笑していた。
ラルシェニは自信に満ちた足取りで中央へ進み、ピカピカに磨かれた小さな木剣を腰に差し、精巧な小さな礼服に身を包んでいた。
「みんな、俺の剣術を見てて!」
彼は声を張り上げ、その言葉には興奮と自信があふれていた。
そして、木剣を振り回す彼の姿は力強さと決意に満ち、動きこそまだ少し幼いものの、すでに十分な力と精度を感じさせた。
家族たちはその姿を見て、笑顔を浮かべながら拍手を送った。
「ラルシェニ、よくやった!」
「小さなご主人様、すごいね!」
ラルシェニは皆の賛辞を耳にし、胸を高鳴らせ、達成感と誇りに満ちあふれていた。背筋を伸ばし、心の中で誓う。――これからも前進し続け、すべての困難を乗り越え、家族の誇りとなり、みんなの期待に応えてみせる、と。
しかし――
最後の一撃のあと、ラルシェニは力なく地面に倒れ込んだ。グラウシュミは彼の体にしっかりと足を乗せ、剣先を喉元に押し当てて、冷たく問い質した。
「今、誰が『一撃で倒れるだけのグズ』なんだ?」
「……えっ?でも、俺はそんなこと言ってないけど……?」
しかし、ラルシェニの独り言は誰にも聞こえていなかった。
ラルシェニは突然の非難に戸惑った。だが、敗者に言い訳は許されない。誰一人として、彼の弁解に耳を貸そうとはしなかった。
「平民ごときにすら勝てないとは、本当に愚かだな!
あんな奴にも勝てないなんて、恥ずかしくないのか?どうせもう、オレリア・イサドラ・ヴァレンティナ・イザベラ・アナスタシア・フランシスカ・ガブリエラ様から直々のご指導を受ける資格すらないのではないか?」
リツイベットは風の魔法を操る者であり、特にオレリアに強い憧れを抱いていた。
「それに……僕は君にすべてを賭けたのに」
ラルシェニは唇を震わせ、歯を食いしばりながら、ようやく言葉を絞り出した。
「そ、それは……ごめんなさい。グラウシュミさんは……本当に強すぎるんだ」
その声は蚊の鳴くようにか細く、無力さに満ちていた。
「言い訳するな。全部お前のせいだ! それから、彼女と一緒にいるのを邪魔するな。……反省しておけ」
「は、はい……分かりました、リツイベットさん。安心してください。……でも、彼女の魔法は雪で、俺と同じ系統なんです」
「だから何だ? お前は馬鹿すぎる。同じ魔法でも、実力の差は天と地ほどある。――当然、彼女と遊ぶのは俺だ」
……
もし、もっと自分にふさわしい、もっと強く、そして導いてくれる人に出会えたなら――。
その瞬間、ラルシェニの心に一筋の希望が差し込んだ。
彼は、きっとその人を永遠に追いかける。