ラルシェニ-過去の訓練 (1)
訓練場には窓から日差しが差し込み、ほこりが舞い上がりながら広い空間を照らしていた。
まだ二歳のラルシェニは、豪華な絹の服を着て、腰には小さな特製の木剣を差し、訓練場の真ん中に立って、これから剣術の練習を始めようとしているところだった。
教官は真面目な顔をして、動きもきびきびした中年の騎士――オレリアの配下の一人である。目の前にいる小さな貴族の子にきちんと敬意を払ってはいるが、どこか心配そうな表情も浮かべていた。
「まずは剣の柄をちゃんと握ることからだ。」
教官はしゃがみ、ラルシェニの小さな手を取って、正しい握り方を教えた。
ラルシェニは目を丸くし、剣の柄の感触を確かめるように、必死に教官の真似をしようとした。小さな手に力を込めて柄を握りしめると、顔が少し赤くなったが、その表情は真剣だった。
「よし、次は立ち方だ。足を肩幅くらいに開いて、膝を少し曲げて、体のバランスを取るんだ」
と、教官は言った。
ラルシェニは体を揺らしながら、何度も足の位置を変えていた。片方の足が流れて姿勢が崩れ、すぐに持ち直そうと小さな足を踏み替える。呼吸が荒くなり始めたが、それでも踏ん張り続け、木剣を放そうとはしなかった。
「今度は剣を振る練習だ」
教官はラルシェニに、剣を少し高く掲げるよう指示した。
「まずは、剣を持った手を肩の高さに持ってきて、そこから真っすぐに振り下ろすんだ」
ラルシェニは言われたとおりに木剣を持ち上げ、肩の高さまで引き上げた。腕に負担がかかり、小さな手が少し震えたが、目を逸らさずに振り下ろした。
「その調子だ、ラルシェニ」
教官は微笑みながら言った。
「だが、腕だけで振ろうとすると力がうまく伝わらない。体全体を使うんだ。足を踏みしめ、腰をひねりながら、全身の力で振るんだよ」
ラルシェニは言葉を飲み込み、動作を繰り返した。腰をひねるたびに上半身が流れ、足元が不安定になってよろめく。何度も姿勢が崩れそうになったが、そのたびに教官がすぐに手を添え、肩や腰を正しい位置に戻してやった。
「おお、少しずつだがいい感じだ。」教官は感心した様子で言った。「今度は少し速く、そして正確に振ってみよう。」
ラルシェニは息を整えて木剣を構え直した。足を開き、膝を軽く曲げて踏ん張る。今度は腰の動きを意識しながら、振り下ろす速度を少し上げた。最初は力みがあり、剣先がぶれていたが、二度三度と繰り返すうちに動きが安定していった。
腕は赤くなり、息も荒くなっていた。それでも彼女は木剣を下ろさず、何度も動作をやり直した。教官が「そこで止めろ」と声をかけるまで、ラルシェニは木剣を握ったまま、立ち姿を崩さなかった。
「焦らなくていい、ゆっくりやれ」
教官は落ち着いた声で言った。
「ふん、できるに決まってる!」
ラルシェニは歯を食いしばり、目に強い決意を宿していた。彼女は再び木剣を構え、全身に力を込めて突き出すと、今度はさらに力強く振り下ろした。小さな体はまだ不安定で、動作はぎこちなかったが、繰り返すごとに剣先の軌道はぶれが少なくなり、重心も安定していった。
まだ二歳という年齢でありながら、ラルシェニは決して途中でやめようとせず、何度も構え直しては同じ動作を試みた。その真剣な態度と負けず嫌いな性格は、幼い体からはっきりと表れていた。
教官は一歩下がり、背筋をまっすぐに伸ばして立った。目を離さずラルシェニの動きを追い、時折小さく頷きながら、その努力を確かめるように見守っていた。
やがてラルシェニは大きく息を吸い込み、剣を振り下ろした瞬間、表情を輝かせて声を上げた。
「やった!できたよ!教官、見て!」
高い声は訓練場に響き渡り、誇らしさと喜びが混じって空気を満たした。
教官はその姿を見て、彼女の情熱に胸を打たれたように微笑んだ。そして力強く言葉を返した。
「素晴らしいぞ、その調子だ!お前の努力と根気があれば、きっと立派な後継者になれる!」
ラルシェニはその言葉を聞いて胸を張り、再び剣を握り直した。疲労で腕は重くなっていたが、表情からは練習を続けようとする意志が消えていなかった。
その時、一羽の小鳥が鳴き声を立てながら訓練場の窓際を横切った。羽ばたきと澄んだ声は静かな場に響き、ラルシェニの視線を引きつけた。
彼の目が輝き、手にしていた剣の動きが止まった。小鳥に気を取られ、訓練をしていることを忘れてしまったのである。
教官はそれを見て、ゆっくりとラルシェニのそばに歩み寄り、耳元で低く言った。
「注意を集中しなさい。剣の練習には集中力が必要だ。気を散らしていては、身につくものも身につかないぞ」
ラルシェニはハッとしたように瞬きをし、少し恥ずかしそうに頭を掻いた。白い頬には赤みが差し、小さな声で返事をした。
「うん、わかったよ、教官」
彼は木剣を握り直し、再び立ち姿を整えた。目を前に向け、呼吸を整えてから剣を振り下ろす。その動作には先ほどの迷いが消え、再び強い決意が表れていた。
訓練が進むにつれて、教官はラルシェニにさらに高度な動きや複雑な組み合わせを教え始めていた。
「次は、剣を振るときに体全体を使うんだ。腕だけではなく、腰や足の力を加えて、もっと力強く振り下ろせ」
教官はゆっくりとした動作で手本を示しながら、確実に技を教えていった。
ラルシェニはその言葉を真剣に受け止め、姿勢を正すと、剣を持つ手を肩の高さまで上げた。今度は足をしっかり踏みしめ、腰をひねることを意識して振り下ろす。最初はぎこちなかったが、繰り返すたびに動きは少しずつ安定し、剣の勢いに力が加わっていった。剣先は以前より速く、重みを帯びて振れるようになっていた。
「いいぞ、ラルシェニ。今度はその勢いを使って、攻撃と防御を組み合わせてみよう」
教官はさらに一歩進んだ指示を出した。
ラルシェニは真剣にうなずき、緊張を押し隠すように深く息を吸った。目を前に向け、剣を構え直して挑戦する。
しかし、まだ二歳の彼にとって動きの組み合わせは難しかった。足と腕の動きが合わず、剣を振り下ろすときに防御の姿勢が遅れて崩れ、また立て直そうとして慌てる。動きは硬く、呼吸も乱れていた。それでもラルシェニは繰り返し立ち直り、何度も同じ動作に挑み続けた。