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ラルシェニ-デヴィアンク(町長さん)との出会い (1)

 春って、いつもすっごく豪華な宴会とお祝いがついてくる季節だ。

 ラルシェニはまだ4歳だけど、こういう宴会が家族にとってどれだけ大事なものか、ちゃんと分かっている。家族の名誉とか、これから家をまとめるための練習みたいなものだし、何よりも、家族みんなの顔を立てるための大事な日。

 だから、ラルシェニはこういうイベントには慣れていて、自分が少し目立つくらいは当然だと思っている。小さな体でも、みんなの注目をちょっと引けるのが嬉しいのだ。

「まあ、うちの家は今回、たぶん一番格下だけどさ。だって……」

 会場を見回すと、風系の首領のガブリエラ家や雪系の首領のブレランカイスニ家、そして月の魔法を使う人たちも来ている。どの家も、キラキラとした服や装飾で、子供のラルシェニには眩しすぎるくらいだ。

 ただ、月系の魔法を使う人って、あまりいい人じゃないって聞いたことがある。だから、誰が来たのかはよく分からなかった。噂では、目が冷たくて、笑わない人ばかりだって。

 でも、今回は来たのは一番高そうで、少し知的な雰囲気のある男の人らしい。ラルシェニは「知的」って言葉がよく分からないけど、なんとなく雰囲気でわかる気がした。

「それって、やっぱり大悪党?」

 ラルシェニは小声で、自分に問いかけるみたいに言った。

 でも、月系の魔法使いたちって、なんか死んだみたいな顔してるイメージがある。だから、もしかして……うーん、そうかもしれない。背筋がちょっとゾクッとして、手に持っていた小さな人形をぎゅっと握りしめた。

 そんなことを考えながらも、ラルシェニは自分の立場を思い出す。家族の名誉を守るため、少しでも格好良く振る舞わなきゃ。まだ小さいけど、心の中ではしっかり戦闘準備をしているみたいに、胸がちょっと緊張していた。

「花系の首領、来なかったの?」

「うん、来なかった。」

 でも、そんなのは気にしない。

 今回の宴会だって、特に変わったところはない。

 場所はズィラン家の庭。

 長いテーブルには金糸のシルクのクロスが敷かれ、磨かれた陶器と、きらめくクリスタルのグラスが整然と並んでいる。

 その周りを、いかにも裕福そうな子供たちが取り囲んでいた。

 ラルシェニは紫の豪奢な衣をまとい、家の誇りである金のメダルを胸に輝かせていた。

 見た目だけなら、十分に大人びている。

 だが、この宴は、ラルシェニにとって自分の家がどれほど重んじられているかを示す場にすぎない。

 ――まあ、出席者の中では一番格下だけどな。

 そんなきらびやかなお金持ちたちよりも、ラルシェニの目を引いたのは、むしろ人目につかない小さな存在だった。

 宴の片隅に、ガブリエラ家の分家にあたるデヴィアンクが、静かに佇んでいる。

 彼女はまだ十歳ほどの幼い子供にすぎない。だが、周囲で談笑し合う同世代の貴族の子弟たちとは、まるで異なる境遇にあることが一目でわかった。

 デヴィアンクの衣装は、中央で踊り、笑い声を響かせている子供たちのものとはまったく異なる。

 宝石を散りばめた華美なドレスでもなく、豪奢な装飾を施されたスーツでもない。

 だが、デヴィアンクが怠けているわけではなかった。

 彼女は静かに立ち、頭を下げながら、絶えずお茶を運び、水を注ぐ役目を果たしていた。

 それぞれの貴族が好む温度を確かめ、一杯ごとに上品なカップへと注ぎ分ける。

 水を注ぐときでさえ、彼女は慎重にピッチャーを持ち、一滴もこぼさぬよう細心の注意を払っていた。

 そして、その小さな顔には、ほんのりと嬉しげな笑みが浮かんでいた。

 この宴が、自分にどれほどの格差を思い知らせる場であるか、彼女は知っていた。

 それでも――デヴィアンクは、この小さな務めの中から、何かを得ているように見える。

 それは、おそらく貴族たちから掛けられるわずかな礼の言葉や、ほんのひととき注がれる視線によって生まれる、小さな喜びなのかもしれない。

 宴は途切れることなく続き、デヴィアンクの前には、まだ数え切れぬほどのお茶や水を運ぶ役目が待ち受けている。

 彼女は下を向き、周囲を気にするそぶりも見せず、ただ黙々と仕事をこなしていた。

 時折、誰かの冷ややかな視線を浴びることもある。

 それでも彼女は、ただ頭を下げ、声ひとつ漏らさずに耐え続けていた。

 ガブリエラ家の分家である以上、こうした宴に顔を出しても、本当の貴族として認められることはないのだろう。

 誰ひとり「貴族としては生きられない」と言葉にしたわけではない。

 だが、その冷ややかな空気は、すでに彼女の内に深く根を下ろしていた。

 分家は、所詮分家にすぎない。

 彼女には、本家の子供たちのような地位も力もない。尊重さえ、ろくに与えられていないのがわかる。

 ――そういう姿を見ると、やはり少し哀れに思う。

 けれど同時に、それは仕方のないことなのかもしれない――そうも感じてしまうのだった。

「……ほら、あれ。」

 リツイベットが、低く押し殺した声でラルシェニに囁いた。

「あれ、ただの分家の子だよ。こんな場に顔を出すなんて、ほんっと身の程知らずって感じ。」

 ラルシェニは首をめぐらせ、デヴィアンクを見やった。

 小さな体が、宴の片隅で空気のように扱われている。

 彼女は忙しげに貴族たちへお茶を差し出し、席を回っている。

 笑顔を浮かべてはいるが――誰とも目を合わせようとはしなかった。

 ちょっとでも顔を上げれば――

 その瞳に宿る不安や、押し殺した感情が、誰かに気づかれてしまう。

 そんなふうに見えた。

 周りの貴族の子供たちは、時折小声で笑い、わざと冷たい視線を投げる。

 けれどデヴィアンクは、決して言い返さず、表情も崩さない。

 その顔には怒りなどなく、ただ、長い時間をかけて磨かれたかのような忍耐と、静かな微笑が浮かんでいた。

 ――それにしても、彼女はまだ十歳なのに。

「……そうね。」

 ラルシェニは口の端をわずかに吊り上げ、軽く嘲笑するふうを装って言った。

「なんで、庶流の人がこんな場に顔を出すのかしら。」

「ほんとほんと、常識ないよね。」

 リツイベットも鼻で笑い、わざとらしく上から目線で言い放った。

「こんな宴に顔を出すなんて、どれだけ自分を過信してるのかしら。ほんと、死にに来たんじゃない?」

 ラルシェニは、デヴィアンクをじっと見つめる。

 内心では――「所詮、ただの分家のくせに」と思っていた。

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