ラルシェニ-リツイベットとの初めての出会い(2)
ラルシェニはその言葉を聞いて、顔がぷくっと膨らんだ。「風なんか、何にもできないよ!少なくとも雪は、何でも冷凍できるもん!風はただ吹いてるだけで、何も残さない!」
女の子はくすっと笑って、楽しげに言った。「あー、そうだね。でも、あなたの雪、何も凍らせてないじゃん。ほんと、バカみたい!」
ラルシェニはその言葉に腹が立って、でもその女の子の挑戦的な態度を見て、また何だか無性に悔しくなった。小さくガッと拳を握りしめて立ち上がり、「俺の雪、もっと強くする!風なんて簡単に壊してやる!」と宣言した。
「どうやって?壊すって?」女の子は面白がって言った。「もしかして、頭壊しちゃうつもり?」
その一言で、ラルシェニの顔は瞬く間に真っ赤になった。怒りと悔しさで息が荒くなり、細い腕に力を込めて、小さな木の枝を手のひらに食い込ませるように握りしめる。
目を大きく見開き、女の子を睨みつけながら、心の中で必死に呪文を繰り返した。
「絶対に……雪を強くする。君の風も、凍らせてやる!」
女の子はちらりとラルシェニを一瞥し、口元に冷ややかな笑みを浮かべる。
「ふん……風のことなら、蝶だって思いのままよ。あなたには、何ひとつできないでしょう?」
その言葉に、ラルシェニの瞳がさらに見開かれる。深く息を吸い込み、心を一点に集中させると、目を閉じて呪文を口に乗せた。
今回は、いつもよりはるかに強い魔力を込める。指先が淡く光を帯び、地面の草が次々と凍り始め、空気までも冷たく研ぎ澄まされていく。
そして――ついに空から、大きな雪片がふわりと舞い降りた。
前に浮かんでいた小さな氷の花とは比べものにならないほどの大きさで、真白な雪の花は太陽の光を受けてきらきらと輝き、まるで小さなダイヤモンドのように、ゆっくりと落ちていった。
「どうだ?」ラルシェニは得意げに女の子を見つめ、少し焦ったような口調で言った。「今度は、俺の雪の花、もっと強くなったんだ!」
女の子の顔には驚きの色は全く見えなかった。むしろ、彼女は眉を一つ上げて、にっこりと笑った。
「おお、ちょっと面白いかも。でも、私の風を凍らせるって?風は目に見えないんだよ。雪じゃ、風なんてつかまえられないよ。」
彼女はそう言うと、軽く手をひらっと振った。すると、空中の風が渦を巻きながら、急に強くなり、ラルシェニの雪の花を吹き飛ばした。
そして、彼女は勝ち誇ったように笑った。
「ほら、風は何にも怖くないんだ!」
ラルシェニはその様子を見て、腹が立ってきた。拳を強く握りしめ、顔が真っ赤になった。
「風が怖くない?じゃあ、俺の雪で君を凍らせてやる!」
彼は目を閉じて、力を集中させた。今度はただ雪を舞わせるだけじゃない。雪を霜に変えて、周りのものを全部凍らせようとした。彼の魔法が強くなっていき、空気中の霜がどんどん濃くなり、まるで周りの空気が粘っこくなったみたいに感じる。
——気温が2度下がるだけでも、かなりすごいことなんだ!
それでも、女の子は平然と立っている。全く慌てる様子もなく、また手をひらっと振った。
風速が急激に増し、ラルシェニが作り出した霜を吹き飛ばし、空気はすぐに元通りの静けさを取り戻した。彼女は小さく笑いながら、得意気に言った。
「ほら、風がまた勝っちゃった。」
ラルシェニは目を見開いて、指が震える。彼女がまたあっさりと自分の雪を吹き飛ばしたのを見て、胸の中がモヤモヤした。うつむきながら、しょんぼりとつぶやいた。
「ほんと、あんたって……嫌なやつ……」
女の子は彼の気落ちした様子に満足そうな顔をして、挑戦的な口調で近づいてきた。
「ほら、見て。風こそが一番強い魔法でしょ?雪なんていつだって制限がある。だけど、風はずっと変化をもたらせるんだよ。」
ラルシェニはその言葉にじっと耳を傾け、目をきらりと輝かせた。彼の中に、負けてたまるかという気持ちがこみ上げてきた。
「ふん、風なんかに負けないもん!俺は……ただ、まだ準備ができてないだけだ!」
女の子は鼻で笑いながら、軽く口を尖らせた。
「あんた、ほんとに気が付かなかったの?雪が弱すぎて、私には勝てないんだよ。」
ラルシェニは彼女がどんどん遠ざかっていくのを見て、心の中でイライラしながら、もう帰ろうかと思ったその時、急に何かを思い出して足を止めた。
「ちょっと待って!」
ラルシェニは叫びながら、すぐに彼女を追いかけた。
女の子は足を止めて、振り返った。目には少し不満げな色が浮かんでいたが、口元には軽くからかうような笑みが浮かんでいた。
「なによ、やっと不服になったの?」
ラルシェニは少し顔を赤らめながら、でも真剣な表情で答えた。
「さっきからずっと遊んでたけど、君の名前、まだ聞いてなかったよ!」
彼女はすぐに答えなかった。代わりに、その場で立ち止まり、手でふわっと風に揺れるスカートを直し、まるでその瞬間の優雅さを楽しむように見えた。彼女は頭を少し上げて、目に高慢な光を宿し、軽く言った。
「あ、そうだ。だって、あんたがあまりにも鈍くて、教えるのを忘れちゃった。」
ラルシェニの口元がわずかに引きつり、心の中でムカッとしたけれど、必死にそれを押し込めた。そうだ、確かに彼女に負けたけど、それでも諦めるわけにはいかない。
彼は深く息を吸い込み、勇気を振り絞って言った。
「それで、君の名前は?俺の名前はラルシェニ!」
リツイベットは少し冷ややかな笑みを浮かべ、ラルシェニを一瞥した。まるで彼の名前なんて気にも留めてないかのように、軽く言った。
「リツイベット。」
その後、ちょっと自信満々に続けた。
「ちゃんと覚えておきなさいよ!」
ラルシェニは驚いて、少し固まった。彼女のその傲慢な態度に、なんだか胸がチクリと痛んだ。でも、どこかでその名前が心に深く刻まれていくのを感じた。リツイベット……その名前、絶対忘れない。
「リツイベット……」
リツイベットは唇の端をわずかに持ち上げ、挑戦と軽蔑が入り混じった光を目に宿す。まるでその挑戦を取るに足らないとでも言うように首を振って答えた。
「チッ、バカラルシェニ。それなら決まってるじゃない、私よ。」
そう言い残すと、彼女はひらりと踵を返す。風に揺れるスカートが、舞い、やがて花園の角の向こうへと消えていった。
ラルシェニはその場に立ち尽くし、彼女の背中を視線で追い続ける。胸の奥では、悔しさと決意が渦巻いていた。
拳をぎゅっと握りしめ、歯を食いしばる――だが、今の自分ではまだ勝てないことも分かっている。
力だけじゃ足りない。
あの自信、あの迷いのなさ……それこそが、自分にはないものだ。
彼女の言葉が正しいのかどうかなんて、この時の自分には分からない。ただ、そうやって迷いなく前を歩く者に、強く惹かれてしまう。
もし、そんなふうに前を歩く者に出会えたら――たとえ歳を重ねても、その背中を追い続けるだろう。
その時の自分は、まだそれがどんな道なのかも知らないままで。