ラルシェニ-過去の日常(2)
リツイベットは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにまた余裕の笑みを浮かべた。彼女は軽く手を振り、風を再び呼び寄せた。
「じゃあ見せてもらおうかな、あなたの氷雪がどれくらいすごいのか!」
風が勢いを増し、ラルシェニの氷の城に向かって渦を巻きながら突っ込んでいく。ガタガタと音を立てて城は揺れ、まるで大きな獣に襲われたように不安定になる。風が激しく吹き荒れる中、小さな氷の城は果たしてどうなってしまうのか……!
——まぁ、この風は風力1に過ぎない。
ラルシェニは急いで魔法を安定させようとしたけど、その風が強すぎて、氷の城の塔の先っちょがあっという間に崩れ落ちて、キラキラした氷のかけらがバラバラに飛び散った。
「おい!」
ラルシェニの顔色が変わった。明らかにリツイベットの風がこんなに強いとは思っていなかったからだ。
リツイベットはその様子を見て、にやりと得意げに笑った。
「風って、目に見えない力なんだよ。何でも壊せるし、でもその力で新しいものも生まれる。」
彼女は吹き飛ばした氷の城を見ながら、にっこりと微笑んだ。
「氷雪なんて、どんなにきれいでも結局冷たいだけ。」
ラルシェニはちょっとムッとしていたけど、それでも完全に諦めるわけにはいかない。木の剣を握りしめ、リツイベットを睨みつけて言った。
「風なんて、どうでもいい!氷雪には氷雪の力があるんだ!風みたいに暴れなくても、すべてを冷やしてやる!」
「ふーん?それ、ほんとか?」
ラルシェニはその言葉を聞くと、まるで負けじと、数日前に覚えた呪文を一気に唱えて、最後に——。
「氷雪よ、再生せよ!」
その瞬間、冷たい空気がふわりと広がり、周囲の氷雪が一気に集まり始めた。氷の城は徐々に元の形を取り戻し、以前より少し小さくなっていたが、それでも独特の美しさを放っていた。
——高さは、だいたい医・学・書・1・冊分くらいだ。
リツイベットはしばらくその場に立ち尽くしていたが、すぐにくすっと笑って言った。
「ほんと、負けず嫌いなんだから。」
「当たり前だろ!」
ラルシェニは石から飛び降り、木の剣を振り回しながら言った。
「これが俺の最強の氷雪だ!もしこれを倒せるなら、俺は素直に負けを認める!」
リツイベットは軽くまばたきしてから、突然ぴょんと跳び上がった。風は彼女に反応して、彼女と一緒に動き出す。
今度の風はただの微風じゃない、強・烈な至・軽・風になって空気を引き裂きながら、氷の城に向かって猛烈に突っ込んでいった。
ラルシェニはその風を必死で見つめていた。リツイベットがただ風の力を見せているだけじゃないってこと、彼はすぐに気づいた。彼女は自分の魔法を完全に打ち砕こうとしてるんだ、と。
風が氷の城にぶつかる瞬間、ラルシェニの目がきらりと光った。彼は急に木の剣を高く掲げ、低い声で呟いて——。
「氷よ、封じろ!」
その瞬間、氷の壁が城を取り囲むように広がり、風の衝撃を完全に遮った。
リツイベットの旋風は強かったけど、目の前に立ちふさがった氷壁に、しばらく力を失ったように感じた。リツイベットの顔色がちょっと変わったけど、それでもすぐに冷静さを取り戻して、にやりと笑った。
「ふーん、結構やるじゃん。でも、そんなことで私の風を止められると思ってるの?甘いわね!」
リツイベットはそう言いながら、少しだけ悪巧みしたような笑みを浮かべた。その目には、ほんの少しの悪戯っぽさが見える。しかし、彼女の顔は魔法を使って赤くなり、手はほんの少し震えている。
どうやら、彼女ももう限界に近いのだ。結局、二人ともまだ三歳だから、こんな魔法を使い続けるのはかなりの体力を使うはず。
ラルシェニはその様子を見て、額に汗がじわりと滲んできた。小さな手は木の剣をしっかり握りしめ、力を入れすぎて指の関節が白くなっていた。それはまるで、この木の剣が魔法の杖のように感じられる瞬間だった。
「負けるもんか!」
ラルシェニは心の中で叫び、深く息を吸い込んだ。全身を集中させて、残り少ない魔力を一気に氷壁に注ぎ込む。その魔力は、まるで海綿から水を絞るように、彼の手から氷壁に注がれていった。
「氷壁、もっと強く!」
ラルシェニはまだ、幼い声でその呪文を何度も繰り返した。彼の言葉が響くたび、氷壁が少しずつ固くなっていく。
しかし、時間が経つにつれて、強風のせいで氷壁に小さな亀裂が入ってきた。氷の破片がパラパラと落ち、ラルシェニの顔色もだんだん青白くなっていく。でも、彼の目は最後まで諦めないように、真剣そのものだった。
「ぜったい負けない……!」
その目は大きく見開かれ、全身からは不屈の気持ちが溢れていた。
リツイベットは氷壁にきれつが入ったのを見て、ちょっと興奮したけど、声をあげようとしたその瞬間、突然咳き込んだ。どうしても疲れが溜まってきて、うまく声が出ない。
けれど、そんなことはお構いなしで、彼女は唇を噛んで、風のスピードと力は一気に倍増した。まるで、庭全体が風に飲み込まれそうな勢いだ。風の音はガーガーと響き、まるで大嵐のよう。でもその風の中には、彼女の呼吸が少し荒くなってる音も混じっていた。
「ぜんぜん、終わらせない……!」
ラルシェニはその音を聞きながら、氷壁がもうすぐ耐えきれなくなることを感じ取った。ふと、何かよいアイデアがひらめいた。彼は急いで木の剣を振りかざし、氷壁の内側に新しい氷の棘を作り始めた。
それはまるで小さな盾のように、風の力を分散させようとするものだった。棘は歪んでおり、所々が厚くゴツゴツしている一方、薄いところは透き通って見えた。まさに急ごしらえの「防御」だった。
リツイベットはその歪な氷の盾を見て、しばらく動きが止まった。ちょっと間をおいて、魔法の手が少し緩んだ。
「ゴホンッ……」
そのとき、遠くのベンチに座っていた家族の召使いたちが、やっとこの異常な騒ぎに気づいた。年配のメイドが驚いた声を上げて、慌てて立ち上がった。他の召使いたちも急いで走り出して、二人の元へ向かって来た。
「まあ、少し……お二人、何をしてるの!」
メイドは焦った顔で叫んだ。目の中には心配と愛情が混ざっていて、まるでこの子たちが何か悪いことをして、怪我でもしないか心配しているかのようだった。
でも、ラルシェニとリツイベットはその声に全然反応しなかった。今、二人の小さな世界には、ただ「魔法バトル」があるだけで、周りのことなんて全然耳に入っていない。
ラルシェニはリツイベットがちょっと気を取られている隙に、すかさず氷壁の亀裂を修復した。小さな口を閉じて、力を込めながら、「見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、俺が終わるまで……」とつぶやいた。
ラルシェニがその言葉を続ける前に、突然、ふわっとした眩暈を感じた。
リツイベットもラルシェニのちょっとした動きに気づいて、プイッと横を向いた。
「ふん、ズルい!」と言って、また風魔法を使おうと手を上げたけど、手をあげた瞬間、リツイベットもフラッとしちゃって、思わず体が揺れた。
その瞬間、召使いたちがもう目の前に駆けつけてきた。目敏く若い召使いがリツイベットを支え、別の一人がラルシェニの手から木の剣を取ろうとした。
「坊ちゃん、もう遊びはやめなさいよ、もし怪我でもしたらどうするの!」
ラルシェニはすばやくそれを避け、小さな顔を膨らませて「まだ俺は負けてない!」と言いながら、必死に木剣を守った。
リツイベットをちらりと見ると、彼女もむすっとした顔でこちらを見返している。視線がぶつかった瞬間、二人は同時に大笑いを始めた。
その笑い声が花園に響き渡り、さっきまでの緊迫した魔法の戦いの余韻を吹き飛ばした。
春の午後、日差しは相変わらずあたたかく、二人に優しく降り注いでいて、このちょっと幼稚で、でもとても可愛らしい競争に温かい締めくくりをつけた。誰が勝ちで、誰が負けたか、それはもう二人の小さな幻想の世界の中だけにしかわからないんだろうな。
その頃、セリホは、スティヴァリの森の中でグラウシュミを救いに行っている。