2-20 不意の刑(8)
赤色の空。
日は雲に覆われている。
「まさか、これほどの騒ぎが起こっているとはね〜」
エフィラトスは唐大刀を投げ捨て、斧を手に握りながら言った。
「おお、見事な回復ぶりよ! 人間の姿を保てるところまで来たか。道理で連中がわざわざ騒ぎを起こしに来たわけだ。君目当てとはな……。陰でここまでの勢力を育てていたとは、余も知らなんだぞ? ここまでやれるとは驚いたわい、大したものだ。まさか、余に隠していたことがあるのか〜?」
「……」
「ふふっ……元々は、君のその哀れな武器で最後に遊んでやろうと思っていたのだがね〜。まぁ、今となってはやめておこう。おもちゃにも飽きたし、時間も来たことだ。——申し訳ないが、告げさせてもらおう……」
「時だ〜! アルサレグリア夫人のように、哀れな母と子を再び引き合わせてやろう〜〜!」
そう言うと、エフィラトスは斧を首めがけて振り下ろした。
瞬間、赤い液体が飛び散り、紅葉のように舞い落ちた。
「はは、ははははは!!」
しばらく高らかな笑い声を響かせていたが、ふと気づくと、そこにはもう誰もいなかった。
斧は空振りだった。
「……」
「……」
「……ありがとう。」
白髪の「人」は、前日十遊秤が残した赤い文字の上に立っていた。音を立てて崩れる麻縄とともに、鉄鎖もほどけて地に落ちた。
「お? 君?」
エフィラトスは飛びかかってきた斧を振り回すが、白髪の「人」は目を閉じたまま、体を軽くひねってその一撃をかわした。
「ほんとに強くなったな。量は調整したはずなのに……ああ~、まさか!」
エフィラトスは拍手しながら次々と斬りかかる。しかし白髪の「人」は一瞬で背後に回り、彼を蹴り飛ばした。
しかし、エフィラトスもただ者ではなかった。
反撃は一瞬――空気が裂ける。
「はは! 余もこんな魔法を使えるとは思わなかっただろう!」
狂ったような笑い声とともに、風の刃が白髪の「人」に殺到した。
肉を断つ鈍い感触。深く、鋭く、傷が刻まれる。
「うん。」
血を滴らせながらも、白髪の「人」の指先に淡い光が灯る。
次の瞬間、氷の槍が空中に生成され、音もなくエフィラトスの喉元へ突き出された。
「おや」
冷ややかな声。
エフィラトスは両手を広げ、魔力を解き放つ。
その身体は煙のように揺らぎ、輪郭を失い――氷の槍は虚空を裂いて消えた。
だが、消えたのは姿だけではない。
気配すらも霧散し、背後から迫る気息が、次の殺意を告げていた。
白髪の「人」は、依然として目を閉じたまま、冷ややかな表情でベンチのそばへと歩み寄る。
足取りは驚くほど静かで、感情を持たぬ殺戮者そのものだった。
エフィラトスが現れた瞬間、風を切る音とともに斧が振り下ろされ、烈風が白髪の「人」を包み込む。
だが、白髪の「人」はわずかに顎を引き、唐大刀を抜き放つと、刃を指先でなぞり――左手首を返して、空を裂くように一閃。
火花が散る。
唐大刀と斧が衝突した一瞬後、刃は流れる水のように力を受け流し、エフィラトスの重い一撃を無効化していた。
人骨の硬度はおよそ5~6程度。骨が割れる音が聞こえたが、全然気にしない。一瞬のことだけだ。
「はは?どうした?これしか力がないのか?今骨の折れる音が聞こえたぞーー」
「君の骨だ。」
声とともに、白髪の「人」はゆっくりと目を開いた。真紅の瞳に映るのは冷徹な静寂だけだ。
あの真っ黒な四芒星の瞳は、間違いなく一つの事実を語りかけていた――人間としてのセリホ/劉柳留は、すでに亡くなっている。
唐大刀は正確にエフィラトスの手のひらを貫き、血が勢いよく噴き出した。痛みと驚きがエフィラトスの表情に浮かぶ暇もなく、白髪の「人」はそのまま唐大刀を引き下ろし、深い切り傷を与える。
しばしの静寂ののち、ただエフィラトスの痛みに満ちた叫びだけが響き渡った。しかし白髪の「人」はその声を無視し、軽やかに一歩後ろへ下がると、振り向きざまに唐大刀を一振りして血を払い落とした。
「このクソ野郎が!!!痛くてたまらん!!!」
紫の目に黒い四芒星が浮かび、残虐な十字の光を放ちながら震えるほどの怒りを含んで叫んだ。
「今こそ、お前の死に時だ!!!!」
「……」
紅の目の黒い四芒星は静かに彼を見つめ、まるで底の見えない静かな止水のように。そして、わずかにうなずいた次の瞬間、姿がスッと消えると同時に、唐大刀と斧の攻撃が激しくぶつかり合った!
「ギィン!」と火花が飛び散り、鋭い軌跡が空間を切り裂く。互いに距離を取ったものの、その間合いは一瞬の静寂しか許されなかった。
類唐大刀が描く弧線は、まるで残像を引きずるかのように美しく輝く。その光の中、エフィラトスがわずかな隙を見逃さず、前へ飛び出した。
「これで終わりだ!」
叫びと共に、斧が頭上から振り下ろされる。だが、その瞬間――
「ガシャーン!」
天文台のガラスを無数のツタが突き破り、勢いよくエフィラトスに襲いかかる。
一本のツタが心臓を貫かんと迫ったが、エフィラトスは素早く魔法でそれを掴み、身をひねって回避したが、額には汗がにじみ、焦りの色が浮かんでいた。
「ふう、危ねぇ危ねぇ!」
そう言いながらも、エフィラトスはすぐに不敵な笑みを浮かべ、斧を後ろへ投げ捨てると、新たに鋸状の鋼刀を引き抜いた。
「仕方ねぇな……これを使うしかねぇか!」
鋼刀を構え、月系魔法の幻覚の中へ再び身を沈めようとする。