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1-1私、死んで、転生して、しかも性別まで変わっちゃった?!

 私、劉柳留りゅうりゅうりゅう、まさか死んでしまったの?

 これは別に驚かせたり怖がらせたりするつもりはなく、死体の物理的な口がしゃべるなんてあり得ないことだって分かっているし……いや、正直言って、絶対に無理だ。

 だから、こんなことが自分に起こるなんて全然想像できないし、しかも今はまだ12歳なんだよ!普通、12歳って小学校5年生か6年生で、中学に入る年齢にも達してないよね?人生で一番つらい時期なんてまだ来てないのに……どうしてこんなことになるんだろう。

 このまま死んじゃうなんて、あり得るのかな。

 ……

 まあ、「あの」一応平和な世界と平和な時代において、12歳で死ぬなんて、「何とも早すぎる」って印象が強いかもしれない。まるで脚本のミス……いや、まるで見えない手に操られて、強制的に端役を終わらされてしまったみたいな感じ!

 ――話はここまで。

 とにかく、「この私」は確かに死んでしまったし、その死に方もかなりおかしい。

 原因も軽率すぎて、まるで真剣に考えられていないようにすら思える。

 死んだその日は、「世界で一番難しい数学オリンピック」の試験会場から帰ってきたところだった。

 その試験は、本当に「世界」を感じさせるものだった。

 まず、出題に使われていた言語が「共通語」ではなく、西部の都市「アスレン」で使われている「雅語」――つまり、西暦時代の英語だった。

「アスレン」は、西暦時代のヨーロッパにあたる場所だ。

 試験内容は一応、小学校6年生向けとされていたが、難易度は高校生レベルの数学オリンピック並みだった。

 普通の12歳なら、その問題用紙を見ただけで目が回って、何から始めればいいのか全然わからなくなると思う。

 電卓や辞書の使用は許されていたけど、実質的には鉛筆1本と頭だけが頼りだった。

 その自信は、多分、生まれつきの能力のおかげだ。

 最初に覚えた言語は雅語で、共通語よりも先にそれを身につけた。幼いころから雅語を重点的に学んでいて、両親の影響で、3歳までは共通語をほとんど聞いたことがなかった。

 そのせいで、あの時の私は共通語での会話には少し苦労したけれど、もしかすると、その経験がシャンチーへの興味を育ててくれたのかもしれない。

 試験を終えて会場を出るとき、今回も1位を取れて、叱られずに済んだな……と、ホッとしながら思っていた。

 すると——

 その瞬間!

 大型トラックが真っ直ぐにこちらに突っ込んできた!

「?!」

 気がついたとき――まだ考えている最中だったのに、誰かに押された。

 それが単なる偶然だったのか、それとも誰かの企みだったのか……間もなく、トラックと正面衝突してしまった。

「……とうとう、死んでしまったのか。」

 これが命の終わり、というやつか。

 ――ハハ。

 たとえ誰かに謀殺されたのだと知っていても、もう、誰がやったのかはわからない。

 死体になってしまったから。

 この両親に与えられたボロボロになった肉塊も、そもそも復活するわけにはいかないだろう。

 むしろ、こんな死体が蘇る方がよっぽど恐ろしいでしょう?

 たとえ背中や側面にまだ肉片が残っていたとしても、そんな姿で立ち上がったら、間違いなく「恐怖の存在」になっちゃう!

 真昼間、晴れた昼下がりに、突然幽霊みたいに現れたとして――それをどう説明すればいいんだろう……!?

 一歩引いて冷静に考えてみると、この世に戻ってきても、何の意味があるの?

 後遺障害14級以上の体を抱えたまま、永続エンジンの「最高の研究材料」になるってこと?

 科学のために貢献できる? 確かに、後世に名前は残るかもしれないけど……

 でもこれって「機械」じゃないか!

 機械ではない、人間だ!無理無理、無理無理無理無理、絶・対無理だ!戻るなんてあり得ない!そんな可能性なんて絶対に存在しない!

 しかし、死亡というものは、ある意味ではそんなに未知のことじゃなかったんだよね。

 試験結果が返ってきた日。

 悪い成績が書かれた答案用紙を握りしめたまま、コンビニのイートインスペースに身を寄せていた。

「生活費は、しばらく止めます。」

 親からの通告が届いた直後、冬の冷たい風が服の裾を無遠慮にはためかせる。

「反省するまで帰ってくるな」なんて……。

 震える指先で、こっそりスマホを取り出す。画面に映っていたのは、クラウドソーシングサイトの依頼文。

 凍えた手で、ガタガタと震えるスマホを両手で包み込む。

「1文字1円! 納品後でも1回修正OK!」

 深夜アルバイトらしい(浪人生かもしれない)大学生スタッフの視線を背中に感じながら、

 500文字の恋愛小説リクエストに、頭を抱える。

 頭が重くて、ぼんやりして……熱が出そうな予感がする。

「でも……生きていくためには……まだ小さいから、モバイルの向こう側以外には……」

 どこへ行っても、雇ってくれる場所なんてない。

「できるだけ、実験室に行きたいなあ……」

 書いてきた物語の中には、人が死ぬ場面もよくあった。

 無数の人々に祝福されながら、静かに去っていく。

 あるいは、ほとんど誰にも気づかれず、ひっそりと終わっていく。

 時空を超えて、誰かと一緒に老いていく――あれは、高熱にうなされながら書いたものだった。そのあと、「一姉」に助けられたから、今でもよく覚えている。

 放射線による急性死。

 花の海に沈んでいく最期。

 浜辺の海に身を沈め、永遠の眠りにつく者。

 あるいは、宇宙の隙間でひとりきり、誰にも見送られずに消えていく者。

 食べられるとか、暗殺されるもよく書いてはいたけれど……

「現実には、小説みたいな死に方なんて、そうそうあるもんじゃないよね?」

 もちろん、目の前で人が死ぬ場面に出くわしたことは、実際にある。

 あれは、また家を追い出されて、あてもなく彷徨っていたときのことだった。

 ふと歩いていると、頭上から紙が舞い落ちてきた。――と思った瞬間、ドスン、と音を立てて人が落ちてきた。

 顔面から地面に叩きつけられたその人からは、赤い液体と白い液体が混ざり合って飛び散った。

 夕暮れの光を浴びてひらひらと舞う紙を拾って見てみると、それは大学受験の過去問題だった。

 ちょうど大学入試まで、残り半月という焦燥感の高まる時期。

 学校では、彼の両親がよく私のことを引き合いに出していた。

 ――「あの子を見なさい。あんなに頑張ってるのに」って。

 学業の失敗、家の期待、プレッシャー……

 そういうものが重なって、彼はあんな極端な手段を選んでしまったんだろう。




 し!

 か!

 し!

「トラックに轢かれて死ぬ」なんて展開、一度も書いたことない!そもそもひどい交通事故の現場を見たことだってない!

 トラックのタイヤに頭を潰されて死ぬなんて……

 そこには美しさなんて一片もない!

 こんな死に方じゃ、棺の中に入っても、誰も顔を見ようとすらしないだろう。

 ――仕方ない。

 こうなってしまった以上、

「劉柳留」という肉体の存在は、もう前世の両親に属するものだ。

 どれだけ後悔しても時間は戻らないし、今さら嘆いたところで、何の意味もない。

 唯一の心残りは、午後から開かれる雅語ディベート大会に、左一孑さいちひとさんが出場するかどうか、ということだった。

 カールした茶色の髪に、そばかすの浮かぶ顔――

 左一孑さんは、相手チームの常連であり、非常に優秀な弁士だ。

 私は密かに、彼女のことを「一姉いちねえ」と呼んでいた。

 もう半年近く会っていない。スマホや端末で連絡を取ろうとしても、何の反応もない。

 本当に心配だな、一姉のこと。

 最後に彼女と一緒に雅語ディベートの授業を受けたとき、彼女はいつものように嬉しそうに私に抱きついてきて――

 それから、どこか寂しげな表情を浮かべて、そっと去っていった。

 雅語ディベートの授業が好きだった理由は、実はとても簡単だ。授業中は一姉と遊べる時間だから。

 すごく心配だ。

 なぜなら、その後、一姉が北部の都市に住んでいるからという遠距離を理由に授業を辞めた……

 けれど、彼女がこの都市にも「仮住まい」を持っていることを考えると、そんな理由では到底納得できなかった。

 授業中はあまり集中していないように見えても、ディベートの試合になると、彼女はいつも鋭い論理と思考で私と真正面から論じ合った。

 左一孑さん――私は彼女を、敵として敬意を抱きつつ、友人としても深く尊敬していた。

 一姉の意見はいつも独特で、深く、挑戦的だった。

 彼女の発言を聞くたびに、自分の立場や論拠を根本から見直さざるを得なかった。

 まさに「競い合う友人」という言葉がぴったりの存在だった。

 放課後、一緒にゲームをして気分転換することも、たまにはあった。

 一姉は「成績を上げたいから、協力して!報酬も払うから!」なんて言って、わざわざ本屋の前まで呼び出し、そこから彼女の「仮住まい」に連れていかれて、ひたすらゲーム大会が始まる……そんな日もあった。

 本当は、今回の大会でまた彼女と対戦できるのを、心の底から楽しみにしていた。だってあのとき、高熱でうなされていた私を助けながら、一姉はこう言ってくれたのだ。

「絶対に、この試合だけは外せない!!」

 だからこそ、どうして突然、あんな説得力のない理由で授業を辞めたのか、私にはどうしても理解できなかった。

 ……でも……

 もしかして、一姉も私と同じ目に遭ったんじゃないか――

 そんな考えが、ふと頭をよぎることがある。

 ……まあ、こうして色々語っている自分を見ると、やっぱりまだ「自分が死んだ」ってことに納得できていないのが、にじみ出てるかもしれない。

 でも――

 本当にびっくりするのは、これからのだ……!


「おめでとうございます、男の子です!」

 その声が、はっきりと耳に飛び込んできた。

 ……半分寝てるみたいな意識だったけど、その言葉だけは妙にクリアに聞こえた。

 え。

 え?

 え???

 男……の子!?

 その言葉が頭の中をぐるぐる回り、ショックでしばらく固まってしまった。

 ていうか、そもそもおかしくない!?

 完全にあの世に行ったはずなのに、なんで耳が聞こえてるの!?

 ……っていうか、「男の子」って何!?

 待って。私、絶対に「女の子」だったよね!?

 しかもこの人たちの言葉、なんで理解できるの!?

 というか――

 この体、赤ちゃんっぽくない!?

 ……ウソでしょ!?

「男の赤ちゃんが生まれました!おめでとうございます、アルサレグリア奥様!」

 ……はあ!?

 え、え、えっと、私、まさか性別まで変わっちゃったの!?

 しかもその声、なんだか妙に幼く聞こえる気がする……ってことは、本当に赤ちゃんになっちゃった!?

 つまり――

 あれだけ努力して鍛えた体も、積み上げた思考力も、ぜんぶリセット!?

 えっ、まじで!?

 いやだ!また一からやり直しとか勘弁してよ!!

 赤ちゃんになったら本も読めないじゃん!!

 ていうか……なんでこの人たちの言葉が分かるの?聞いたこともないような発音で、共通語でも雅語でもないはずなのに、なぜか理解できる……?

 まるで、勝手に翻訳されてるみたいに。

 まあ、どうでもいい。今さら赤ちゃんの私が話し出したら絶対おかしいから、まずは状況を把握するのが最優先だ。

 どうやら、この「アルサレグリア奥様」が、この体……つまりこの世界での「母親」ってことになるのかな?

 ……なんというか、ちょっと受け入れがたいけど。ここで下手に何か話したりしたら、間違いなく怪しまれる。

 しばらくは「赤ちゃんモード」で、慎重に行動したほうがいい。

 ……頭がだるい。

 先に寝よう。

 おやすみなさい。

 それから何年かが経ち、ようやく自分の置かれた状況がはっきりしてきた。

 今の僕――そう、「僕」はどうやら「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」という名前の人物として、異世界に転生してしまったらしい。

 ところで、「異世界転生」と「異世界転移」は、似ているようでまったく別物だ。

 簡単に説明すると――

 転生とは、明確な自我(たとえば魂や霊体、性格、記憶など)を保ったまま、新しい肉体に生まれ変わること。

 一方で、転移は、現在の身体と精神状態をそのまま持って、別の世界へ移動することを指す。

 前世の記憶を引きずりながらも、新しい体で生きるということは、新たな人生に意味を見出すということだ。どうやら昔の自分の感覚や思考も、少しずつ変わっていくらしい。

 というのも、人間の性格や行動は、脳内の化学物質によって大きく左右されるからだ。

 新しい肉体――つまり、新しい脳――に転生した以上、その化学的な構造や反応も当然変化している。

 脳内の化学物質の組成や分布が変わることで、感情や情緒、認知のパターンにも影響が現れる。

 結果として、転生後の自分は、前世とは微妙に違う性格や思考を持つようになる。

 だからこそ、僕は「私」でありながら、少しずつ「新しい僕」に生まれ変わっていくのかもしれない。

 それに、この新しい世界では、「私」が知っていた物理法則やエネルギーのルールが通用しない。

 だから、前世の知識がどこまで役に立つのかは正直、怪しい。そう考えると、少し不安にもなる……。

 でも、ラッキーだったのは、この転生に「システム」と呼ばれるお助け機能がついていたこと!

 ……やれやれ、ありがちだけど、異世界転生モノの定番だ。頭の中の「システム」。異世界アニメでもおなじみの重要アイテム。

 このシステムのおかげで、異世界の言語を理解できる。

 なぜなら、同時通訳機能が備わっているからだ。

 とはいえ、将来的にシステムが突然故障して、パネルが開かなくなる可能性もある。

 そう考えて、私はこの二年間、あえてシステムをオフにして、今の母親や周囲の人たちが使っている言語を自力で学ぶことにした。

 さあ、いよいよシステムを再起動する時が来た。

 僕は、まだ記憶に残っていた音声を翻訳して入力し、自分の推測と照らし合わせてみた。

 結果、正確さは83%。悪くはないけど、決して高くはない。

 このレベルでは、他人に聞かれたら「異邦人」だと見抜かれてしまうかもしれない。

 だから今は、まだ言葉が話せないふりをして、周囲の様子を慎重に観察するのが賢明だろう。

 自己と環境への理解――それが、実はとても重要なファクターだ。

 僕が今生まれたこの家、「ワルツィナイズ・ミロスラックフ家」は、かつて大陸に燦然と名を刻んだ貴族の末裔らしい。

 ……とはいえ、今ではまるで、古びた絵画のキャンバスにかすかに残る金粉のような、色褪せた存在に過ぎないけれど。

 そう、この貴族家族はもう、没落した。

 貴族といえば、もともとは封建社会における上位階級──

 つまり、権力や財産を手にしていた人々を指していた。けれど、この世界では時代が進むにつれ、その意味が少しずつ広がっていったらしい。

 今では、特権を持っていたり、単に金持ちだったりする人々のことも、まとめて「貴族」と呼ぶようになった。

 でも――

 特権を失い、財産も尽きれば、あとは自然と衰退していくしかない。

 ……とはいえ、「貴族」の名がまだ残っている限り、少なくともこの世界が動乱の最中でなければ、ある程度の安定は保てるものらしい。

 前の世界では、そんな余裕すらなかった。

 核弾頭の脅威に怯えながら、日々を生き延びるしかなかったのだから。

「Weapon of Mass Destruction。」

 元の世界の時間軸に基づくなら、この異世界はまるで「清潔で整然とした中世」のようだ。

 伝統的な転生異世界モノによくある、あの「剣と魔法、そしてちょっとだけ衛生概念がある」世界。

 とはいえ、当然ながら生産力は未来世界には遠く及ばない。それでも、変なものが頭上から降ってくる心配はない。

 それよりも重要なのは、「システム」という工具の存在だ。

 これは翻訳機能だけじゃなく、僕が前世で学んだ知識や思考様式、記憶なんかも全部保管してくれているらしい。

 しかも、どうやらいくつか「隠し機能」もあるようだ。

 いわば、心と魂――この二つの核心を除けば、このシステムはほぼ「人」と言ってもいい。

 つまり、生きている人間と変わらない存在なのだ。

 それが「工具」である理由もそこにある。今の僕にとって、極めて重要な「生存ツール」だからだ。

 身長や体重といった身体の基本情報も、システムで直感的に把握できる。

 ……まあ、身長は少し気になるが、体重はどうでもいい。

 他の表示されるステータスは、物理攻撃力と物理防御力。魔法攻撃力と魔法防御力は、今のところ非表示のままだ。ちなみに、物理防御力はぎりぎり10ポイント。

 そう、魔法。聞き慣れた言葉だけど、ここの世界ではそれが「日常」だ。

「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」大陸と呼ばれるこの異世界と、元の世界との最大の違い、それは魔法の存在だ。

 理論上、この世界では誰もが魔法を使える。身体の変異も代償もいらない。正しい呪文さえ知っていれば、軽く唱えるだけで魔法は発動する。

 魔法にも、得意なジャンルや向いているスタイルがある。人と同じで、向き不向きってやつだ。

 でも、それを本当に使いこなして進化させていくには、時間と努力、それから――お金がいる。

 魔法を学ぶって、実は「生きるために必要なスキル」ではないけど、しっかり学ぼうと思ったら、とんでもなく費用がかかる。学費も教材も高い。教わるには専門の師匠や教育機関が必要だし、それらは大抵、教皇国みたいな大拠点に集まってる。

 だから、そういう負担を軽くこなせるのは、やっぱり貴族階級の人たち。

 要するにこれは、一種の「選別システム」なんだと思う。経済的な壁を設けておくことで、本当に魔法に情熱を注げる人間だけが、その先へ進める――そんな仕組み。

 たとえば、3歳の頃から魔法で生きていく覚悟を決めた子どもたちは、家族に支えられて教皇国へと渡る。そして、お金を払いながら、いろんな魔法分野に触れ、試行錯誤を繰り返し、少しずつ自分に合った魔法を見つけていく。

 だって、分野が合わなければ、いくら努力しても、その分野に向いてる人には追いつけない。これは厳しいけど現実だ。だから、自分に合った分野を選ぶことが、一番の近道なんだ。

 そして、そうじゃなきゃ……ただの「お金の無駄遣い」になってしまう。

 これが、僕の魔法攻撃力や魔法防御力の数値が今でも不明瞭な理由なのかもしれない。

 魔法攻撃力と魔法防御力の数値が低すぎて自衛ができない事態を避けるため、僕はまず物理攻撃と物理防御に重点を置くことに決めた。魔法が適合するまで、努力して物理魔法使いになることを目指し、シンプルで直接的なコンボを繰り出すつもりだ。

 結局、「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」っていう異世界は、僕が前に知っていたエネルギー保存の法則とか、万有引力の法則がそのまま適用されているわけではないんだ。

 ニュートンとか、そんな知識に頼れるわけでもないし、僕の頭は前世の記憶を理解するのがすごく難しい。

 もしかしたら、この記憶は、僕がもっと成長して学習能力が上がったときに役に立つのかもしれない。けれど今の僕には、あまり実感がなくて、むしろ理解できないことが多く、悩みの原因になっている。

 だからこそ、今はできるだけ前世の記憶が、現在の生活に影響を与えないよう気をつけている。

 事故でも起きない限り、システムの力を使って最適解を探るようなことはせず、この異世界「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」でどうやって生き延びるか、未来に備えて自分の力を高めることに集中している。

 子どもの成長は早く、経験を吸収するスピードも速い。

 試験対策教育の束縛がない分、子ども時代の時間はもっとあっという間に過ぎていく――

 その束縛を知っている人なら、この感覚がどれほど貴重か、きっとよく理解できるはずだ。

 信じられないなら、スマホをいじっているときと、1〜2時間勉強を続けているときの時間の流れを比べてみればいい。

 その違いは、誰でもはっきりと感じられるはずだ。

 僕は、試験対策教育が、大嫌いだ。

 いつも寝不足で、学ばなければならないことは山のようにあり、あのわずかな人数しか異能力を持っていない世界で、いったいどうやって生き延びてきたのか全然わからない。

 幸いにも、僕は「ワルツィナイズ・ミロスラックフ」という異世界に転生し、その世界の束縛から解放された。

 勉強や抑圧された生活からは解放されたけど、この世界にも不便なことは山ほどある。

 例えば……電気がない!コンピュータもない!スマホなんて当然ないし、「端末」なんてものも存在しない!

 VRゴーグル?そんなものがあったら逆にビックリするよ!

 ここはまだ中世の終わりくらいの技術レベルなんだ。中!世! だから!

 元の世界で考えると、電気が使われ始めたのは産業革命の時代だし、デジタル革命なんてもっともっと後の話だ。

 ……まあ、正直言うと、僕/私にとってはそんなに問題じゃない。

 でも、一姉がここにいたら、かなり不便だろうなと思う。

 こっちでは、少し年上の子たちは魔法を使って遊ぶのが好きらしい。魔法があるから、退屈しのぎもできるし、リアルファイトも楽しめるかも?

 あとはチェス。

 チェスを一局指したいんだけど、今のところこの世界でチェスを知ってる人にはまだ出会ってない。

 仕方がないから、今は諦めてる。

 ……でも、こういう小さなことでも、うっかり正体がバレるかもしれない。目立たないようにして、いざって時にビックリさせるつもりだ。

 つまり、ここで最初から大きなことを起こすつもりはないってことだ。

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