64 四天王激闘編4 ソードダンス・ウィンダム
「マスター、あれが星の機体である可能性は捨てきれません」
「いや、違う! 星の石が反応していない! あれはただの機甲だ!!」
『風衝機甲 ソードダンス・ウィンダム』
「うちの風を、心ゆくまで堪能するがいいさ!!」
四天王、風のドーウィンが呼び出した巨大なロボットが、崩れ去った遺跡の跡地に出現した。ドーウィンが嬉々としながらコックピットに乗り込んでいく。
しかし、大きさが違う。鋼鉄やメイリャンの操る機甲と比べると少々小さかったのだ。
翠玉の機体に水色と赤のラインが入った巨大ロボだ。
その手にはそれぞれ長さの違う両刃の風の剣が握られている。
ロボットでありながら複数の手を持ち、大きな剣を持つというアンバランスな存在であったが、それが逆にこの機体の異常さを表しているかのようだ。
そして、この機体は風を操る力を持っていた。
その剣を振るった瞬間、凄まじい突風が遺跡の残骸を巻き込み吹き飛ばす。
それはまるでミキサーで材料を粉砕するかのようだった。
「くっ……まさか四天王ドーウィンが機甲を持っているとは……!!」
凄まじい風を耐え凌ぎながら、自分の予想を超えていたことを思い知る鋼鉄。そしてメイリャンも同じく風を耐えながら、なぜか機甲を見てテンションが上がっている様子。
「にょわ~!! アイヤー!!! 巨大ロボアルよ!! 目に焼き付けて後でフルスクラッチで作るネ!」
などと、意味の分からないことを言い出していた。
そんな彼女たちに容赦なく突風が襲い掛かるが、アリシアとミリィの二重魔法障壁でなんとかこれを防ぐ。
だが、ドーウィンは攻撃の手を緩めない。今度は腕を高々と掲げると、その手のひらに竜巻を作り出した。まるで台風をそのまま圧縮したかのような凄まじい威力の竜巻だ。
鋼鉄とメイリャンはそれを避けることができずに直撃してしまう。
その衝撃で二人は吹き飛ばされてしまったが、鋼鉄はレインが、メイリャンはトロンが受け止めた。
「ご無事ですか? マスター」
「大丈夫? メイリャン姉ちゃん」
心配する二人の問いにそれぞれ返事する鋼鉄とメイリャン。返事の最中、お互い心の中で確信していた……『機甲戦が始まる』と……
「問題ない、それよりも……」
「大丈夫アル! ……鋼鉄、わかってるネ?」
鋼鉄、レイン、メイリャンの三人は顔を見合わせながら無言でうなづく。状況を飲み込めないトロンは何が何だかわかっていない様子だった。
「え? どういうことみんな? オイラだけ仲間外れ?」
「トロンはいつでも聖剣とドラゴニック・セイグラムを使えるようにしておくんだ……これから私も機甲を呼ぶ……」
「レイン、私の機甲……イグニッション・スターを地球の研究所から空間転移させてくれ、システムはボスバトル、装備は『フルパッケージ』だ!!」
鋼鉄の命令を受けたレインは、目の前に大きな電子画面を出し、モニターを触りながら準備時間を計算していく。
「かしこまりました、マスター。イグニッション・スター空間転移、承認。システムはボスバトル、装備はフルパッケージ……発進完了時間算出まで……あと5秒」
「3……2……1……発進完了時間算出。フルパッケージ装備だと480秒かかります」
「8分だと?! 時間がかかりすぎる……!!」
8分もかかることに驚きを隠せない鋼鉄。以前、メイリャンのクレイジー・ムーンと戦った時のバランスパックでは武装は2個、今回要請したフルパッケージは武装が6個搭載されている。時間がかかるのも当然だった。そして矢継ぎ早にメイリャンがレインに話しかける。
「レインちゃん! わたしの『クレイジー・ムーン』なら何秒で出られるネ?!」
「メイリャン様の『クレイジー・ムーン』ならば、パッケージングの処理が必要ないため、準備に45秒、転送完了60秒でお出しできます」
「なら話はハヤイね! 鋼鉄の機体が来るまでわたしが時間を稼ぐヨ!」
「しかし! 『クレイジー・ムーン』はまだ調整段階……しかも眠っていない今の君の状態では……!」
「わかってるネー!! 爆睡拳が使えない状態でも、わたしが超絶っ! 格ゲーがうまいってこと、あのドーウィンに見せつけてやるネ!」
ドヤ顔をし親指を立てグッドポーズをしたメイリャンの決意を固めた表情に、やむなく了承する鋼鉄。
「うむ……了解した。ではイグニッション・スターが来るまで持ちこたえてくれ!!」
「クレイジー・ムーン空間転移、準備完了。発進シーケンスまで、あと5秒です」
転移の準備が終わったところでドーウィンが攻撃をしかけてくる。ドーウィンが風の剣を再び大きく振り上げた。その刀身には風を圧縮した刃が生まれており、食らったらひとたまりもなさそうだ。
そしてその巨大な剣は鋼鉄たちに振り下ろされた。
その瞬間、鋼鉄の目の前に空間転移してきたモノがあった。それは鎌とナギナタを構えたメタリックシルバーの機体だった。その機体は光の粒子のような物を噴射しながらこちらを振り返る。
そしてその機体が構えたナギナタには、星の形をしたマークが入っていた。キラリと光る輝きにそれはまるで月のチカラを現しているようだった。
『衛星機甲 クレイジー・ムーン』月のチカラを有したリー・メイリャンが操る太陽系3機甲の内の一つ、近接軽量型。
しかし、その機体はわずかに形状が異なっており、いくつもの武装が増設されているようだ。
まるで新たな姿となった機体を見て、メイリャンは歓喜の声を上げる。
「ひゃー! なんか武装が追加されてるね! ツッキーのでっかいバージョンある!」
※ツッキー
メイリャンがレティア神からもらった剛神武装、電磁ナギナタ『冥月』のこと。
その武装を見て、鋼鉄も感想を漏らす。
「ふむ……しっかり装備できているようだ」
どうやらこの機体は鋼鉄のイグニッション・スターをベースに改良されたもののようだ。
以前戦ったクレイジー・ムーンとはまた違った雰囲気を感じる。しかし、その瞳は真剣そのもの……いやむしろ闘志に燃えているといった方が正しいかもしれない。そしてメイリャンも同じ感情を抱いていたようだ。
メイリャンはいつもの冗談口調ではなく、本気モードで告げるのだった。
それはまるで自分自身にも言い聞かせるようでもあった。
今まで彼女が見たことのない真剣な眼差しを向けながら……
その機体はナギナタをドーウィンに向けたまま、メイリャンに問いかける。
「あなたがこの機体のパイロット、リー・メイリャンかネ?」
突然聞こえた声にメイリャンは驚く。以前鋼鉄と戦った時はいきなりコックピットに転送させられたのだが、その時の記憶は彼女には無い。ぐっすり寝ていて爆睡拳モードに入っていたからだ。
どうやらこの機体もAIを搭載しているようだ。それも彼女と似た口調のAIが……
「な、なにアルか? わたしの機体、AI積んでるアル?! 鋼鉄! 説明するヨロシ!」
メイリャンの問いに鋼鉄が答える。どうやら、クレイジー・ムーンを研究所に搬入した時に、何か細工を施していたようだ。
「こういう時のために、私が戦闘補助AIを搭載させた。名前は超猫、(チャオマオ)だ」
メイリャンと超猫、二人の会話は続き、これからの展開が予想されるのだった。
「わたしは超猫! よろしくねご主人サマ」
「わたしはリー・メイリャン! よろしくアル……って! 挨拶はいいから早くコックピットを開けるネー!」
ドーウィン操るソードダンス・ウィンダムは飛行機能が無いため、空を飛べる機体は有利だ。恐らくメイリャンの機体なら空を飛んでも問題なく戦闘できるだろう。鋼鉄が彼女にこの機体を託す理由はそれだった。そして彼女とともに闘うために……
彼女はすぐさまクレイジー・ムーンに搭乗しコックピットを閉じようとしたその時だった。
まるでタイミングを見計らったかのように通信が入る。それはレインからだった。
どうやら準備が整ったようだ。その声はいつもの冷静な声であり、淡々とした機械音声がコックピット内に響いた。
「メイリャン様、補足説明がございます。その機体、クレイジー・ムーンは追加パッケージングの処理が必要ないとはいえ、まだ調整段階です。そのため、予想外の動きをする場合があります。戦闘補助AIを搭載していますので、ご不明な点がございましたら、適宜、質問してください。装備は基本、音声選択式ですが、手動で切り替えることもできます。現時点で搭載されている装備は以下の通りです。対星機体用特大ビームサイス 牡丹鎌 (ミューダンリエン)、対星電磁ナギナタ 大冥月 (ダイミンユエ)、視覚誘因幻惑電磁装甲 ルナミラージュ、ライトネスリアクター搭載……コアドライブに直結。サブリアクターに『ルナ・クォーツ』を装着。搭乗者の感情により能力が変化する「感情ドライヴ」をメインシステムに採用。説明は以上です」
それだけ言うと、レインは通信を切った。途中聞きなれない単語が出てきたが……とにかくそれを使って戦うしかなさそうだ。メイリャンは音声選択式ということなので早速使ってみることにした。そして気になったことを質問してみることにする。
それは武器として搭載されている武装だ。
先ほど説明を受けた牡丹鎌、大冥月、ルナミラージュの3つを順番に言ってみることにしてみた。するとその3つの武装がモニターに表示される。
彼女は試しに牡丹鎌を音声で選択してみた。
するとモニターには大冥月とルナミラージュが表示されたままになる。どうやら3つとも音声で切り替えが可能のようだ。
そしてメイリャンは大冥月とルナミラージュを選択することにしたようだ。
「大冥月とルナミラージュを装備するアル! 超猫!」
「了解ヨご主人サマ! 大冥月、ルナミラージュ装備ネ!」
超猫がそう言うと、クレイジー・ムーンは背中のアジャスターに牡丹鎌をカチリとはめ込み、大冥月に持ち替えてそれを両手で強く握り込むと、大冥月からビームの刃が両刃から出てきた。全身の至るところから光りの粒子があふれ出し、装甲が微弱に振動しはじめる。機体のモニターには赤文字で視覚誘因作動中と点滅していた。
「これで準備完了ネ! 覚悟するアル、ドーウィン! ……?!」
準備が完了しドーウィンを補足しようとしたメイリャン。だが対象はすでに目の前から消えている。
「……上ネ!」
「遅いっ!!」
ドーウィンの風の剣とメイリャンの大冥月がバチバチと大きく火花を散らす。すかさずドーウィンはウィンダムの第二の腕で風の剣を振り下ろした。するとメイリャンは大冥月を器用にクルリと回しそれをビーム刃で受け止める。だがウィンダムの第三の腕は躱せない。機体の横から風の剣が襲い掛かる。
「まずいアル!」
「もらったぁ!」
風の剣がクレイジー・ムーンの機体面を掠めた瞬間、ヴン!と音がしたかとおもうと、突如機体が分身し、本体と影に分かれる。影の方はバッサリ切られているが本体の方は無傷だった。視覚誘因幻惑電磁装甲、ルナミラージュの効果が発動したようだ。
「何故だ! 確かに剣は当たったはず……!」
ウィンダムのパイロット、ドーウィンは驚きを隠せない。その隙にメイリャンが大冥月で風の剣を弾き飛ばすと、そのまま機体ごと大きく吹き飛ばした。
しかし、ドーウィンもやられてばかりではない。すぐさま体勢を立て直すと、今度は風を圧縮した刃を飛ばしてきた。だがそれもルナミラージュの効果で視覚誘導されてしまい命中しない。
ドーウィンの額には焦りと苛立ちで冷や汗が流れる。その様子がウィンダムのスピーカーから聞こえてきた。
「くっ……このままではうちが不利だ!」
それを聞いてニヤリと笑うメイリャン。
「イグニッション・スターが来るまで待つ必要はないネ! わたしがやれば無問題アルヨ!」
勝利宣言したメイリャンだったが、クレイジー・ムーンのモニターに赤で表示された文字を見て言葉を失う。
ルナミラージュ使用回数、残りあと1回。
「……へ?!」
一転して窮地に落とされたメイリャン。ルナミラージュには回数制限があったのだ。そしてレインから音声通信が入る。
「イグニッション・スター発進準備完了。システムはボスバトル、装備はフルパッケージ。転移開始」
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