54 過去編 能力否定の執行者13 時空間制御 ハイブースト
「なにぃ?! わしの時空間魔法をその鎧に編み込んで欲しいじゃと~?! にょわぁ?!」
驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになる。
「ああ! ほら! なんとかクロック~ってやつあったろ?」
嬉しそうに話しかけるイールミに対して、転がった椅子をガタガタと直しながら時空間魔法の種類を叫ぶ。
「わわっと……な、なんなのじゃ突然……身体加速ハイクロック、空間鈍化ロウクロック、二重加速ダブルクロックじゃ!」
「おぬし……その鎧、もしかしてリーシャ殿に作ってもらったというやつかの?」
ジトっとした目つきで質問するが、イールミは嬉々とした様子で鎧の説明を始めだす。
「そうなんだよ! これがあのディフュージョンスーツなんだ! レーンベッツ鋼の硬度に加え、何よりこの軽さ! まるで体に何も着けていない羽のような着心地! そして極めつけは、鎧の内側に魔法陣を彫ったことで、魔法を鎧に編み込むことができるようになったんだ!」
あまりの早口に少し引いているウィディアだったが、鎧のある問題点を見つける。
「う、うむ……それよりイールミよ、その鎧、身体強化魔法の編み込みが雑じゃぞ……もっとこう……丁寧にじゃな……」
「もう! いいから、早くしてよ!」
ブツブツと言いながらも、鎧に手をかざし、時空間魔法と新たな身体強化魔法をディフュージョンスーツに編み込んだ。
「ん~……ほいっとな!」
そして、手をかざしていた手をどける。
「……ほれ! これで完成じゃわい」
「ありがとう! じゃあ早速……レティアに相手してもらうかな!」
“シュンッ!” “バシュッ!!” イールミはその場から姿を消した。
「あ! こら! もうちょい丁寧に扱わんか!! しかもまだ説明が終わっとらんわい!!」
“ドゴォオオン!!” ウィディアは、イールミが消えていった場所に向かって叫んだ。
しかし……その声は虚しく部屋に響くだけだった。
「……まったく……あやつは新しいオモチャが手に入るとすぐこれじゃ……」
「……ま、あの鎧があれば、あやつはかなりの魔力の持ち主じゃ……大丈夫かの……」
そう言っていると、部屋の外から何やら足音が聞こえてきた。
「ん? なんじゃ……誰か来たようじゃな……」
そう言うと壁をすり抜けて姿を消した。
その足音の正体が姿を現すのに時間はかからなかった。
「いる~? お姉サマ……」
「いない……わね」
「なんじゃ、おぬしらか……てっきり刺客かと思ったぞい」
壁に異空間が現れフワフワと宙に浮きながらと出てくる。
「おろ? なぜレティアがおるのじゃ。イールミと一緒ではないのか?」
「今日は朝から会ってない……どうして?」
「あやつなら新しく手に入れた鎧を試すためにレティアに相手してもらうんだ~と言いながらどこかに吹っ飛んでいったのじゃ…」
「鎧……?!」
「まぁ、相手はおぬしじゃから問題ないと思うがの」
「……イールミは……どこに行ったの?」
「さぁての。今頃は、時空間魔法と身体強化魔法をディフュージョンスーツに編み込んだため試している頃じゃろうて」
「あ~……あれか……」
メイティアが宿屋の窓から指さした方向に居たのは、小さな路地でゴロツキたちと戦っているイールミだった。
時間が飛んだように2、3人を一瞬で倒してしまったイールミは、こちらに気付いたのかブンブンと手を振っている。
「あれって……?」
「ほら、あの鎧……身体強化魔法だけじゃなくて時空間魔法と空間鈍化魔法も編み込んでたんじゃない? あれって……」
「……?」
「時空間魔法で自分の周りの時間の流れを遅くしてるのよ。だから、あの鎧を着たイールミが早く動けるのは、自分の周りだけ時間の流れを早くしてるからなのよ」
「……?!」
「ほう……さすがはわしの妹じゃ……よく見ておるわい……」
「まぁね~ん……」
「へぇ……すごい……」
「ちなみに、あの鎧は身体を強化させる魔法も編み込んでるけど、それ以外の魔法も編み込んでるみたいよん」
「……ほう?」
「例えば、あの鎧を着ると視界に入る全てのものがゆっくりに見えるようになるの。だから、イールミが時空間魔法で周りの時間の流れを遅くしているのに気付かないで襲ってくるゴロツキなんて、イールミにとってはただの的よ。あとは、その鎧の防御力と身体能力向上魔法が組み合わされば……あの鎧を着たイールミに敵う相手なんていないわ……」
メイティアはそう言うと、窓からイールミの戦いを観戦した。
「……すごい……」
「でも……あれって、身体強化魔法と時空間魔法を編み込んだから出来たことなのよね」
「そうじゃな」
「じゃあ、他の魔法を編み込んだらどうなるの?」
「ふむ……試してみるかの」
そう言うと、異空間から一冊の本を取り出した。
「それは……?」
「これはの……わしが編み出した魔法や属性などが書かれている書物じゃよ」
「……見てもいいの?」
「うむ……よいぞい」
レティアとメイティアはその書物を覗き込んだ。
そこには、様々な魔法がびっしりと書き込まれていた。
「……すっご……」
ウィディアはページをめくり、とある魔法が書かれているページを開いた。
「これは……?」
「この魔法は、わしの編み出した中でも最高傑作じゃ」
「……どんな魔法なの?」
「うむ……これはの……時空間と空間を操る魔法でな。時の流れを遅くする空間魔法と空間を歪ませる空間魔法を編み込んであるのじゃ」
「……すごい……」
「まぁ……この魔法を編み込んだところで、時空間魔法や空間鈍化魔法を使える者などそうそう居ないじゃろうから……意味がないのじゃがな……」
「確かに……難しいわね」
「しかし、この魔法は面白いぞ。時の流れを操る魔法じゃから、これを上手く使えば自分の身体だけを早くしたり遅くしたりできるのじゃよ」
「へぇ……面白そうね……」
「……おぬしもやってみるか?」
「……え?!」
「?!」
「と言っている余裕はないようじゃぞ」
そういうとイールミが突然、窓に飛び込んできた!
「きゃっ?!」
「あぶない…!!」
“ガシャーン!!”
「いたたた……」
“バシュンッ!” “シュウウ……” 鎧から噴き出ている蒸気が収まっていく。
「まだ微調整が必要だな…この鎧は……」
「イールミ……?」
「あ! メイティア!! お~い!!」
“タッタッタ……” 鎧を着たまま、メイティアに駆け寄ろうとするイールミだったが……。
“ズデーン!!” 勢いが強すぎたのか、そのまま床に転がってしまった。
「だ……大丈夫?」
「いててて……」
レティアが手を貸すと、イールミは照れながら立ち上がった。
「えへへ……鎧に慣れるのは時間がかかりそうだな」
「すごいわ……イールミ」
「かっこよかったよ……」
“ナデナデ……” メイティアはかがんで、笑顔でイールミの頭を撫でた。
「そうかなぁ……えへへ」
レティアは鎧をコンコンと叩く。
「イールミ……わたしを探してた……?」
「そうだった! レティア! 鎧を着た僕と戦ってくれ! データを取りたいんだ」
「へえ……おもしろそうね……レーンベッツ鋼でできたディフュージョンスーツのチカラ……試させてもらうわ」
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