53 過去編 能力否定の執行者12 ディフュージョンスーツ
「さて、レーンベッツ鋼が大分余っちまったな……」
「ふむ……イールミよ、少し提案があるんだが、お前、新しい鎧が欲しくはねえか?」
「鎧……ですか?」
「ああ、転生者と戦うんだ、その皮の鎧じゃあ、いくら聖剣があったって意味がねえだろう」
「今まで、数多くの鎧を装備してきたんですが、中々しっくりくる物がなくて……」
「なるほど……わかったぞ! ……お前さん、鎧でスピードが落ちるのが嫌なんだろう?」
「はい、ぼくら剣士にとってスピードは命ですからね。重装甲で固めてる剣士を見た時は怒りがこみ上げてきますよ」
「なるほど……スピードを落とさずに戦場を駆けれる鎧……か」
「リーシャさん……まさか」
「作れる……と言ったら?」
「?!」
「本当ですか?!」
「ああ、スピードをまったく落とさず……は無理だが、ほとんど落とさずにかなり硬い鎧を作ることはできるぜ……しかも軽いやつだ」
リーシャは後ろの棚の奥からゴソゴソと書類を探し出し、机にその書類を広げだした。
「これは、俺が大昔から考えてた鎧の構想設計図なんだが……」
その広げられた大きな紙には、黒い色をした、まるでヒーロースーツのような鎧を着た人物像が描かれていた。
「こ、これは……!! ディフュージョンスーツ!!!」
「ディフュ……? この鎧を知ってんのか?」
「もちろんです!! 僕の故郷であるエスカ王国では、この鎧は大昔から研究されていたんです! でも、あまりにも研究費がかかりすぎて……結局、実用化には至らなかったんですよ」
「ほう、そうなのか」
「このディフュージョンスーツのすごいところはですねぇ……」
イールミは目をキラキラとさせながらその構想設計図を食い入るように見つめている。
「……と、このような効果が期待できるんです!」
「ほう……こりゃすごいな……」
構想設計図に描かれていたディフュージョンスーツの性能は、確かにすごかった。
スピードを落とさずに硬質化し、なおかつ軽量化まで出来るという恐ろしい機能だった。
しかも防御力も鎧としては最高クラスときたものだ。
「なるほど……これならお前さんの望みどおりの鎧が作れそうだぜ」
「ほ、本当ですか?!」
「ああ、だが、ただ単に硬く速くじゃあ何か物足りねぇな……」
「リーシャさん、それなら……」
3日後。
リーシャはようやくディフュージョンスーツを完成させた。
その鎧は黒い光沢を放っており、まるで地球の特撮に出てくるヒーローのような姿をしている。
「できたぞー!!」
「おお!! これが……ディフュージョンスーツ!!」
その鎧をイールミは、まるで赤子を抱くように、優しく抱き抱えた。
「どうだ? 着てみて何か違和感はないか?」
「はい……むしろ今までより軽くて動きやすいです!」
「そうか! よし、なら早速だが、この鎧を着て戦ってみてくれねえか? 今から」
「わかりました!」
リーシャは鎧の着脱方法をイールミに教え、早速、実戦で試すことになった。
「よし、じゃあ、その鎧を着ながら戦ってみてくれ。もちろん、そのディフュージョンスーツの防御力なら大抵の攻撃は防げるはずだ」
「はい!」
イールミは鎧を着ながら、剣を抜き、構えた。
「よし! じゃあ、この岩を斬ってみてくれ」
リーシャが指差す先には、大きな岩があった。
「わかりました!」
イールミは剣を上段に構えると……。
「はぁあああ!!」
気合いと共に剣を振り下ろした!! すると……。
“ズバァアアアン!!” イールミが振り下ろした剣は、まるで紙のように岩を 斬り裂いた。
「うおっ?!」
思わず、リーシャは驚きの声を上げてしまう。
岩には、まるで豆腐を切ったかのようにスッパリと切断面ができていたのだ。
「す、すごい……!!」
“バシュッ!” すると突然、鎧から蒸気のようなものが噴き出した。
「?!」
“シュウウウ……” その蒸気のようなものはスーツ全体から発せられ、まるで鎧を冷却しているようだった。
「お、おい……イールミ?」
鎧が冷却し終わったのか、蒸気は収まった。
そして今度は、何やら不思議な音が鎧から響きだした。
“ブォオオオン……”
「な、なんだ? この音……」
「これは……ぼくの魔力がディフュージョンスーツに流れている音です」
「まりょっ?! お、お前……魔法が使えるのか?!」
「はい! ぼくは風と水の魔法が使えます。この鎧は、ぼくの魔力をディフュージョンスーツに供給することで、防御力を上げつつ軽量化もしているんです」
「な……なるほど」
「さて……次はこの岩を斬ってみるかな……」
“ブンッ” そう言うとイールミは岩に剣を向けた。
“ズバンッ!!” そして、今度は岩が真っ二つに斬れた。
「うぉおおっ?!」
その切れ味に思わず声を上げるリーシャ。
「すごい……この鎧は、剣の達人が使用すれば、岩すら斬れるのか……!」
「そ、そりゃ大したもんだな……」
「……よし」
イールミは剣を鞘にしまうと、リーシャの近くへと歩いてきた。
そして……。
「リーシャさん、聖剣だけでなくこんな上等な鎧まで、ありがとうございます」
イールミは深々とお辞儀をした。
「な、なに、気にすんなって……余ったレーンベッツで作ったもんだからよ……へへっ……ああそうだ、お前さんに頼まれていた、魔法を鎧に編み込むシステムなんだが」
「はい」
「鎧の内側に魔法陣を彫っておいたぜ。試しに使ってみな」
「わかりました!」
“バシュッ!” すると、鎧から今度は白い蒸気が噴き出した。
“シュウウ……” その蒸気のようなものは、まるで鎧に吸い込まれるかのように消えていった。
「……ん?」
先程までの不思議な音は聞こえない。
それどころか……何やら不思議な感覚が伝わってくる気がしたのだ。
まるで……このディフュージョンスーツ自体が生きているような……。
「なぁ、イールミよ。この鎧って……一体どんな仕組みになってるんだ?」
「えっと……魔法でディフュージョンスーツにまずは様々な防御効果と身体能力を向上させる魔法を編み込んだんですが」
「ほう! お前さんの魔法は、鎧にも効果があるのか……」
「はい。魔力を編み込む際に、その魔法も同時に編み込んでおきました」
「……なるほどな」
“ブォオン……” “シュウウ……” その時、突然、鎧から不思議な音が鳴り止んだ。
「ん?」
「あれ? もう終わったのかな?」
“バシュッ” そして、鎧から蒸気のようなものは出なくなった。
「……お? もう終わりか」
「はい。このディフュージョンスーツの仕組みが分かったので……もう大丈夫です!」
「そうか! よし、これで相手が転生者でも引けを取らねぇな!!」
「はい!! では、ぼくは早速、ウィディアに時空間魔法をこの鎧に編み込んでもらいにいきますね!」
「ああ! そうしろそうしろ」
イールミは部屋から出ていき、すぐにその場から姿を消した。
「……さて……俺もそろそろ行くかな……」
リーシャは服を脱ぎ、いつもの黒いドレス姿へと戻った。
そして、棚から黒いローブを取り出し羽織る。
「……さてと……」
リーシャは部屋を出ていった。
そしてその部屋には静寂だけが残り、誰もいなくなった。
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