42 過去編 能力否定の執行者1 剣匠魔女リーシャ
「単純な力押しでは魔王を倒すことはできぬかのう」
「やはり、トロンの力が必要不可欠でしょう。しかも彼の竜紋は純正の蒼と翠……」
「うむ……じゃが弱点もある。レティアのようにいつでも簡単に出せるわけではない上に、トロンは半分がニンゲン。持続時間の問題も出てくる。おぬしも全力で竜紋を使えばスーツの稼働限界をすぐに迎えるじゃろう」
「そうじゃ、鋼鉄は見たかの? トロンがオーク戦で放った直撃魔法とドラゴニック・セイグラムの混合技……」
「あれを見た時、天才だと感じた……わたしはトロンに直撃魔法を教えてはいない、ということは見て盗んだのか……3年かけて編み出した直撃魔法を……」
「ニンゲンの可能性じゃな、それにおぬしの一番近くで直撃魔法を何回も見ておったんじゃ、天才ならばそれくらい軽々とやってみせるじゃろうて」
「そういえば……」
「むぅ?」
「以前もトロンは、不思議な力を使ったことがありました。その時はビッグボアが相手でしたが……」
「どういう様子じゃった?」
「体全体が金色に輝きだし、とてつもないスピードを出していました。まるでハイブーストのように……」
「?!」
「な、なんじゃと?!」
「レティアよ……まさか」
「それはないわお姉さま……神龍紋はわたしにしか使えない。半神でいくら純正だからといって500年の壁を一瞬で超えることはできないわ」
「トロンはその時、聖剣ブライトホープを装備していました…もしも聖剣の力なのだとしたら、作成者であるイール・ミーヤという方に直接話を聞ければよいのですが……」
「イールミ……」
「鋼鉄よ、おぬしその名をどこで聞いたのじゃ」
「剣に彫ってありました。『信じる心を忘れるな、イール・ミーヤ』と」
「なにぃ?? あやつはまったく……いくら最初の所有者だからといって聖剣に名前を彫るとは……中学生みたいな奴じゃの! トロンに渡す時にもっとよく見ておくんじゃった……」
「ごほんっ……よいか? 聖剣ブライトホープはイールミが作ったのではない。フォールという惑星にある古代の森に住む魔女、リーシャが打った剣なのじゃ。彼女は魔女であり剣匠でもあった……」
「懐かしいのう……もう1000年も前になるか……これだけ時間がたった今でも、あの頃の情景が目に浮かんできそうじゃわい……」
「そう……ちょうどあれは至高神から特殊金属レーンベッツ鋼を授かり、わしら三女神がイールミと共にリーシャの元を訪れた時じゃった……」
ー1000年前 惑星フォール 古代の森 魔女の家ー
「聖剣を打ってほしいだとぉ?!」
金髪で碧眼、じっとりとした目、耳にピアスを付け、さらさらストレートの髪をしたエルフが低い声としかめっ面で力強く叫びだす。
後ろを向き床にドカリと座り自分の仕事に戻る。力任せに振るう鎚のガン! ガン! という音が、まるで来訪者を歓迎していないかのように辺りに鳴り響いていた。
「帰ってくれ! 俺はもう武器は打たねぇんだ!!」
加えていたタバコがおちそうなほどの叫び声、だが、来訪者はそんな大声にビクリともせずに交渉を続ける。
「頼みます。金ならある」
おもむろに袋から大金を出しドサドサと床に落とす。年は20くらい、天然パーマ。背中に剣を一本背負い皮の鎧を着た青年が淡々とした声で喋っている。
少し振り返りチラリと床の金に目をやるエルフだったが、鎚がぐらつき動揺しつつも自らの意志を示す。
「ほ、ほほぉ~? 金で釣ろうってのか! 剣匠と謳われたこの俺を! いい根性してるじゃねえか……」
クルリと振り返りタバコを加えなおす仕草を見せると、一気にタバコを吸い勢いよく煙をプハァと上に噴き出す。
「考えてやってもいい……だが、肝心の金属を切らしててな! しかも聖剣ともなれば特殊な金属が必要だ。最低でもヒヒイロカネ以上の物……それが無ければ俺は打たないね」
これでわかったかと言わんばかりの顔で灰皿にタバコの灰をトントンと落としていく。しかし青年はその勝ち誇ったような顔を見つめつつ一人の少女をそこに呼びつける。
「ウィディア。いるか?」
青年が名前を呼んだ瞬間、真横の空間が歪み、次元の裂け目のような物が出現する。シャリンシャリンと服の飾り付けの優雅な音を立てながら出てくる小さな人影が見えた。
「ほ~い、呼んだかの? イールミよ」
ピコピコとした猫耳に、ふわふわの尻尾。顔の下半分を布で隠している10代の少女が元気な様子で呼びつけた青年の元に駆け付ける。
「もしや……あれの出番じゃな?」
「ああ……あれを出してくれ、全部だ」
「あいわかった! むむむむ」
両手を前に出し力を込めると、次元がねじ曲がりズモモモモと大きな何かが上から姿を現してくる。ズドン! と地面が少し揺れるほどの勢いでひり出されたそれは、これまで見たこともないような綺麗な金属の塊だった。
「?!! おいおいおいおいおい」
ズズイと勢いよく近づき、金属の塊を歓喜な目でまじまじと見つめる金髪エルフ。すると、まるで少年のようにキラキラした眼に変わり、フルフルと体を震わせたかと思うとついに我慢できなくなったのか言葉があふれ出す。
「この紫の輝き……間違いない……! れれれ、レーンベッツ鋼じゃねえか~!! し、しかもこんな大量にぃ~!!!」
目の前の金属に抱き着いて頬ずりするエルフ。顔がとろけてしまうほどに高揚しうっとりしている。腰をクネクネとさせながら尻を振り体全体で嬉しさを表現しているのが、薄い衣服からチラリと見える強調されたパンツラインに出ていた。動揺している金髪碧眼エルフがいきなりクルリと後ろを向き青年と少女に次々と問いただしていく。
「おおおまえら! いったいどこでこれを?! これだけ大量のレーンベッツ、数百年、いや数千年経たないと生成されないはずの代物……! 生きているうちにお目にかかれるとは思わなかったぜ……!!」
「いやあ~そ、それはですね……」
青年の額に汗が伝う。それを見たウィディアと呼ばれる少女が焦りながら横から制止してきた。
「こ、これイールミ! それ以上は……!」
イールミと呼ばれる青年は至高神に特殊金属を託された時のことを思い出しながら、言い訳を必死に考える。
「(お金出してみてダメだったらこれを見せてみてね~きっと、すごい驚いて作ってくれるよ? あ、多分あれこれ聞いてくると思うから、僕の事は伏せておいてね! 頼んだよ~?)」
「じょ、上司のコレクションなんです……! その一品でして……」
青年の汗が徐々に冷や汗に変わっていく。咄嗟に出た言い訳の希薄さに、ウィディアはじんわりした目でツッコミを入れてくる。
「おぬし……嘘が下手じゃの」
なんとも言えない空気が流れていく中で、薄っぺらい言い訳に納得できないエルフは、怪訝な顔をしながら青年と少女を見つめていた。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!
していただけたら作者のモチベーションが上がります!




