41 幼き勇者 トロン編16 魔結錠 練孔
ー宿屋二階 ミリィの部屋ー
「ふむ……間違いないのう、潜在能力が解放されておる」
ベッドで横になっているミリィの額に手をかざしながら語りかける。
「おぬし、家族や親せきに高名な魔法使いがいたりせぬか? もしくは賢者の血筋だったり…」
「わ、わたしは田舎の平民の子です! いたって普通の家庭に生まれました」
「(そうか……メイティアめ……この子が成長するようにわざと弄りおったな……)」
「やはり原因はメイティア神が大魔法を撃ったからでしょうか」
「それもあるのう…魔力量が人間のソレを遥かに超えておる。おそらくメイティアが大魔法を撃った時に魔力を生み出す天穴が刺激されたのじゃろう。言うなれば、今のおぬしは常に蛇口の栓を全開まで捻った水道のようなものじゃ」
「神さま……ミリィちゃん、大丈夫だよね?」
「トロンよ、これは推測でしかないが……このままではミリィはいずれ溢れ出る魔力が暴走し、身体に深刻なダメージを受けるかもしれぬ」
「?!」
「そんな……」
「よいか、ミリィ。よく聞くのじゃ。今からおぬしに魔法をかける。これは魔力を制御するための栓でもありセーフティでもある。じゃが、おぬし自身が裁量を誤れば、たちまち溢れて『自壊』してしまう。心に留めておくのじゃぞ」
「両腕をめくり、前に出しておくれ」
「よし、眼を閉じるのじゃ……ゆくぞ」
「呪文解放!」『魔結錠、練孔』
ミリィの両腕、指先から肘までに蛇のような赤い紋様が浮かんでくる。
「うむ。少しでよい、魔力を込めてみるのじゃ」
赤い紋様がミリィの手首まで光りだす。
「すごい……」
「この赤い紋様はおぬしがどこまで魔力を込めていいか光で記してくれておる。指先から始まり肘の終わりまで、一度に込められる魔力はそこまでじゃ」
「決して肘のラインを越えて魔力を込めてはいかんぞい。わかったかの?」
「はい、わかりました」
「では最後におまじないじゃ」
「目を閉じ、右手を天に、意識を星に……おぬしに、女神の加護があらんことを」
「うっし! これで完璧じゃ!」
右腕を上げグッとガッツポーズする。
「一度ならず二度までも……なぜわたしをこんなに助けてくれるのでしょうか?」
「言ったじゃろう? 妹の尻ぬぐいは姉であるワシがすると」
「それにの……」
頭で考えた言葉を言いかけるが途中で止める。その顔はどこか寂しそうで、懐かしむ様子だった。
「(ワシの血を引いておるかもしれぬ娘を放っておけるわけがないじゃろう……あの時おぬしを治した瞬間、ワシの魔力の流れを感じたのじゃ)」
「な、なんでもないわいっ」
「?」
「終わった? お姉さま」
ギィという音と共にレティアが扉を開けて入ってくる。朝食を食べ終わり様子を見に来たようだ。
「メイリャンから伝言、チビたちもメシを下に食べにくるネー! だって」
「今ちょうど終わったところじゃ……立てるかの? ミリィよ」
「はい……よい、しょっ……あっ」
一人で起き上がろうとするが、途中で力なくベッドにストンと腰を下ろす。
「トロン、ミリィを下の食堂に連れて行ってやってくれるか?」
「まかせといてよ! 兄ちゃん! つかまって? ミリィちゃん」
「うん……ありがとう、トロンくん」
トロンにつかまりヨロヨロと歩くミリィ。バタンと扉が閉まり食堂へと向かっていく。二人を見送るとレティアがウィディアに喋り出した。
「お姉さまは食べなくていいの……?」
「ワシはよい……レティアは神になった今も、ニンゲンの食事が好きじゃのう」
「うん……神だから食べなくてもいいんだけど……ニンゲンの食事はおいしい……この星の料理もおいしいけど、特に『地球の料理』は、格別……」
右手の人差し指をほっぺにつけペロリと舌なめずりするレティア、よだれが今にも出そうだ。
「ニンゲンか……ほんに不思議な種族じゃ……この宇宙でも特に優しい心を持ち、静かな怒りによって覚醒し、時に信じられぬ力を発揮する、特別な存在……」
「その可能性、ポテンシャルは神たちの間で今もっとも注目されておる……わしもその一人じゃ……のう? 鋼鉄よ」
「恐縮です。ウィディア神」
「特におぬしは地球人じゃ、期待しておるぞい」
「さて、鋼鉄よ……魔王の情報じゃが、一つだけ判明したことは、極めて強大な魔力を持ち質の高い闇属性の魔法を扱うということだけ……」
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!
していただけたら作者のモチベーションが上がります!




