99話 なにがあろうと守る
「なっ……!?」
ゴゴールの驚きの声。
ゴーレムを潰したことを驚いているのだろうが……
「ふむ……柔らかいな?」
ゴーレムと戦うのは初めてだ。
もっと重く、力も強く、とんでもない脅威だろうと思っていたのだが……
そんなことはない。
攻撃は軽く、足は遅い。
簡単に対処することができた。
「いや、待て。お主、どうなっているのじゃ……?」
腕の中のプレシアは、えぇ……という表情をして、問いかけてきた。
「なんのことですか?」
「妾が、あれほど苦戦させられたゴーレムを、たったの一撃で……」
「あれくらいなら問題ありません」
「……は、ははは。なんとまあ……妾は、少し慢心していたのかもしれぬな」
呆れるような、感心するような笑い。
なぜ、そのような反応になるのだろう?
「貴様……! よくも、儂のゴーレムを!」
ゴゴールは強い怒りで、こちらを睨みつけてきた。
片手を上げると、その動きに反応して、周囲のゴーレムが一斉に構える。
なるほど。
彼が命令を出しているのか。
「……聞け」
プレシアが、俺にだけ聞こえる声で言う。
「ヤツがゴゴールじゃ。今、この場にいるゴーレムは、ヤツの命令を受けて動いている。お主なら、ゴゴールを即座に叩くことができるじゃろう? そうすれば……」
「いえ、まずはゴーレムを叩きます」
「なっ……お主、なにを言っているのかわかっておるのか?」
「その方が確実です」
プレシアが言うように、ゴゴールがゴーレムを操っているのだろう。
しかし、彼を叩いたからといって止まる保証はない。
自律稼働するかもしれない。
最悪、自爆するかもしれない。
戦場では、常に最悪のパターンを10通りは考えた方がいい。
……そんなことをおじいちゃんから教わった。
故に、プレシアの案は受け入れられない。
「その可能性はあるかもしれぬが……し、しかし、これだけの数のゴーレムを一度に相手にするなんて……ええいっ、妾を下ろせ。妾も戦う」
「戦えるような体ではないでしょう?」
「そ、それは……」
「大丈夫。あなたのことは、絶対に俺が守ります」
「……お主……」
しっかりとプレシアを抱えた。
すると、彼女も俺に体を預ける。
信頼してくれたのだろうか?
ならば、絶対にそれに応えないといけない。
「まとめて殺してしまえ!」
ゴゴールの命令に反応して、ゴーレムが一斉に襲いかかってきた。
通常なら、まとめて突撃なんて真似はしない。
そんなことをすれば同士討ちになるだけだ。
しかし、ゴゴールはそれで構わないと考えているみたいだ。
ゴーレムならば、同士討ちを恐れることはない。
その身を武器にして突撃して、同士討ちをしながらも、そのまま敵を押しつぶしてしまえばいい……と、そう考えたのだろう。
良い戦術だ。
数で押して逃げ場をなくして。
圧倒的な質量で押し潰す。
津波を相手にするようなもの。
普通ならば、どうすることもできず飲み込まれてしまうだろう。
だから、あえて前に出ることにした。
「なぁ!? お主、いったいなにを……」
「舌を噛みますよ」
左手でプレシアをしっかりと抱えて。
そして、右手に持つアイスコフィンをゴーレムに叩きつける。
ゴーレムはとても強靭な体を持つ。
全身を覆う鋼鉄の鎧をまとっているようなものだ。
しかし、人の形をしている以上、弱点はある。
関節の付け根は各部の負荷がかかるため、脆い。
ゴーレムの動きを見極めて。
一番、負荷がかかるタイミングを狙い、刃を這わせる。
そうすることで強靭な体を切断することができた。
それと、敵の包囲網が完成する前に、あえて前に出る。
そうすることで攻撃のタイミングをズラして、こちらがペースを握ることができた。
一気に駆け抜けて、ゴーレム達の背後を取る。
一閃。
近くにいたゴーレムの足を両断して、行動不能にする。
返す刃で、もう一体のゴーレムの首を落とした。
「な、なんなのじゃ、これは……!?」
プレシアがなぜか驚いているが、その理由を聞いているヒマはない。
砂糖に群がるアリのように、ゴーレムが次々と突撃してきた。
その攻撃を捌いて、防いで、避けて……
同時に、各々の動きを乱して、最適な動きができないように誘導する。
軽い反撃を叩き込む。
足場の悪いところへ誘い込む。
同士討ちを狙う。
そうして、一体一体、確実に仕留めていく。
焦る必要はない。
無理をする必要はない。
相手が大量のゴーレムだとしても、うまく立ち回れば戦場を支配することが可能だ。
力が強いだけ。
知恵は足りていない。
ならば……
「敵となることはない」




