98話 救世主
「ぐっ……!? このっ、ストーム・カッター! ロード……がっ!?」
無数のゴーレムが羽虫のようにたかってくる。
羽虫といえば可愛いかもしれないが、しかし、実際は圧倒的なパワーとスピードを持つ化け物だ。
それらが四方八方から押し寄せてきて、次々と攻撃を繰り出してくる。
プレシアは無詠唱で魔法を使えるため、隙を見て反撃することは可能だ。
しかし、今度はうまくゴーレムを撃破することができない。
数が増えたことで、敵の攻撃量も増して、簡単に対処できなくなったこと。
それと、連携を取られてしまい、思うように動くことができない。
その二つの理由で、次第に追いつめられていた。
ゴーレムの攻撃をまともに受けてしまう。
シールドの詠唱は間に合わなかった。
プレシアは、人形が吹き飛ばされるかのように飛んで……
壁に激突。
そのまま地面に崩れ落ちる。
「う……ぐぅ……」
これはまずいと、プレシアは思考をフル回転させた。
この場を乗り切る方法を考えた。
今のダメージで、もうまともに動けそうにない。
魔法で治療することは可能だが、それだけの時間、敵が待ってくれるわけがない。
あえて、防御ではなくて攻撃に転じる必要がある。
極大魔法を使うか?
しかし、ゴゴールが言ったように、ここは洞窟の中。
下手に使えば、自分が生き埋めになってしまう。
それに、ガイ達もまだ中にいるはずだ。
彼らを巻き込むわけにはいかない。
どうする?
どうすればいい?
「こ、のっ……ロード……がはっ!?」
必死に考えつつ、時間を稼ぐために魔法を唱えようとするが、死角からの一撃を受けて、再び吹き飛ばされてしまう。
体中がバラバラになってしまいそうな衝撃。
それでも意識を失わないのは、幸運というべきか。それとも不幸なのか。
プレシアは抵抗する力を失い……
ゴーレムに片足を掴まれて、宙に持ち上げられてしまう。
そんなプレシアをゴゴールが覗き込み、ニヤニヤと笑う。
「くっ、ははは! どうだ? あれほどの大口を叩いていたのに、この結果……どうだ!? 悔しいか!? はははっ!」
「ぐっ、貴様……」
「これが儂の本当の力なのだ! 至高の知識と技術を持っているのだ! そのような儂を追放したこと、貴様には、たっぷりと後悔させてやろう。なに、安心するといい。すぐには殺さない。たっぷりと、たっぷりと楽しませてもらおう……ひっ、けっひひひ」
「……くっ……」
プレシアは、不気味に笑うゴゴールを睨みつけた。
まだ、彼女は諦めていない。
屈していない。
体中ボロボロで。
たとえ拘束を解いたとしても、再び十を超えるゴーレムと戦っても、勝利の目はない。
それでも、負けるわけにはいかない。
魔法騎士団、団長として。
そして、平和を愛する一人の人間として。
このような邪悪を見逃せるわけがない。
どうにかして倒さなければいけないのだけど……
「では……まずは、この場で味見させてもらおうか」
「……ひっ……」
ゴゴールの醜悪な笑顔を向けられて。
欲望たっぷりの手に触れられて、プレシアの中の『女』が悲鳴をあげた。
耐えきれず、顔を歪めてしまう。
「わ、妾は……」
泣いてしまいそうになる。
恐ろしいと叫んでしまいそうになる。
「……そのようなことになるくらいならば」
プレシアの心はギリギリのところで踏みとどまり……
そして、覚悟を決めた。
このような男に汚されるくらいならば、死を選ぼう。
体は好きにされたとしても、心と魂は決して渡さない。
覚悟を決めたプレシアは、舌に歯を当てて……
キィンッ!
その時、甲高い音が響いた。
ゴーレムの腕が切断されて、プレシアが解放された。
ふわりと舞う彼女をしっかりと受け止めたのは……ガイだ。
――――――――――
「大丈夫ですか?」
「……」
腕の中のプレシアは、きょとんとしていた。
日頃の言動からは想像できないくらい、あどけない感じがして……
今は、見た目相応に思う。
「お主、どうして……」
「嫌な感じがしたので、援軍に来ました」
勘は正しかったみたいだ。
まさか、プレシアがここまで追いつめられているなんて。
「……」
ぼろぼろの姿を見ていると、怒りが湧いてきた。
プレシアを左手でしっかり抱いて。
そして、右手でアイスコフィンを抜く。
「なんだ、貴様は? 儂の楽しみを奪うつもりか? ちっ、愚鈍な凡人ごときが……やれ!」
たぶん、あれがゴゴールなのだろう。
彼の命令に応じて、一体のゴーレムが突撃してくるのだけど……
「遅い」
回避と同時にカウンターを叩き込み、胴を両断する。




