97話 教えてやろう
「ぐっ……!?」
プレシアの小さな体が吹き飛ばされる。
咄嗟にシールドを展開したため、ダメージは最小限に抑えられた。
しかし、さきほどと同じように衝撃を殺すことはできない。
今度は壁に激突した。
背中から当たり、痺れるような痛みが全身に広がる。
その姿を見て、ゴゴールは笑う。
とても嬉しそうに、楽しそうに。
高々と笑う。
「あぁ、素晴らしい、素晴らしいぞ、儂の技術は! どうだ、これが儂の力だ!? その気になれば、お前など、簡単に殺すことができる……それだけの技術と知識を持っているのだよ、この儂は!」
「……くくく」
プレシアはゆっくりと立ち上がり、小さく笑う。
「確かに、そのゴーレムを開発した技術と知識は認めてやるのじゃ。しかし……大したことはないな」
「……なんだと?」
「おもちゃとしては、なかなかのものじゃ」
「儂の研究成果をおもちゃと愚弄するか!?」
「事実じゃろう? その程度のもので妾をどうにかできると考えているなど、笑ってしまうわ」
「殺せぇっ!」
わかりやすい挑発に乗ったゴゴールは、ゴーレムに命令を下した。
ゴーレムは忠実に命令に従い、三度、プレシアに突貫した。
地面を勢いよく蹴り、加速。
大木のような腕をプレシアに叩きつけて……
瞬間、プレシアの体が水になって弾けた。
魔法だ。
自分そっくりの水の体を作り、囮とする。
初歩的な魔法ではあるものの、それを相手に気づかれることなく、しかも無詠唱で行うとなると、途端に難易度が跳ね上がる。
敵を見失ったゴーレムは、周囲を見回して……
「ここじゃよ」
頭上から聞こえてくる声に、勢いよく顔を上げた。
しかし、その先にプレシアはいない。
声だけを飛ばす魔法を、またしても無詠唱で行使してみせたのだ。
「ブラスト・ボム」
ゴーレムの背後に回り込んでいたプレシアは、地面に手をついて、魔法を唱えた。
ガァッ! と地面が爆ぜて、土と石が弾け飛ぶ。
それらは矢のようになって、ゴーレムの体を傷つけた。
「なっ……!?」
「魔法耐性を持つといっても、それで無敵になるわけではない。魔法が通用しないのならば、魔法により発生した二次的な衝撃をぶつけてやればよいだけのこと」
プレシアは不敵に微笑む。
「お主に、魔法使いの戦いを教育してやろうではないか」
敵を見つけて、ゴーレムは攻撃を繰り返してくる。
ただ、プレシアは身体強化魔法を使い、その全ての攻撃を避けていた。
「あやつに感謝じゃな」
プレシアでも測ることのできない、底しれない力を持つ男。
ガイの戦いを間近で見たおかげで、プレシアは、なるほどこのように戦えばいいのか、と戦術を吸収していた。
ゴーレムのパワーとスピードは脅威ではあるが、それだけ。
技術のない攻撃は、まったく当たる気がしない。
プレシアは攻撃を避けつつ、合間に魔法を唱える。
岩を砕いて、その破片を矢として使う。
音を越える速度で魔法を放ち、その衝撃波を叩きつける。
本体に魔法が通じないとしても、やりようは色々とある。
「さて、そろそろ終わりにさせてもらうぞ……ロード・オブ・ストーム」
風属性の魔法を放つ。
洞窟内ではあるものの、局所的に竜巻が発生した。
それはゴーレムを飲み込み、その巨体を持ち上げた。
そのまま風の刃がゴーレムに襲いかかるのだけど……
「は……はははっ! なにが終わりにさせてもらう、だ。なにも学習していない愚か者め! 儂のゴーレムに魔法は通じぬ」
「そうか?」
「その程度の上位魔法が届くと思うなよ!? さらにその上の位階ならば、あるいは……しかし、このようなところで、それほど大規模な魔法は使えないからな! はははっ、儂はそこまで計算していたのだよ!」
「ふん……この程度のおもちゃには、これで十分なのじゃよ」
プレシアは、指先をくいっと上げた。
それに合わせて、風の魔法に包まれたゴーレムが持ち上がり、天井近くまで浮遊する。
そして……
「さらばじゃ」
反転。
風の力を利用して、地面に向けて勢いよく射出した。
「なっ!?」
ゴォッ! という轟音が響いて、ゴーレムが地面に叩き落された。
ただ落ちるのではなくて、魔法で加速させられている。
いかに頑丈な体を持っていたとしても、これを耐えるのは難しい。
特に関節部。
過負荷が一気に集中して、ゴーレムの手足が折れた。
本体は無事で、まだ機能停止していない。
しかし、手足が完全にダメになっているため、自力で動くことは不可能となっていた。
立ち上がろうとして、失敗して。
立ち上がろうとして、失敗して。
その繰り返し。
こうなれば、もう終わりだ。
どうすることもできず、いずれ、エネルギーが尽きて動けなくなるだろう。
「さて……勝負ありじゃな?」
「ぐっ……!」
ゴゴールは苦い顔をして……
しかし、すぐに笑みに変わる。
「まさか、そのような方法で倒されるとは思ってもいなかった……認めよう。儂のゴーレムは、まだまだ改良の余地があると」
「ほう。なかなか殊勝じゃな。そのまま、おとなしく投降してくれるのならば、命だけは助けてやらんでもないぞ? まあ、その他色々と諦めてもらうがな」
「誰が貴様などに!」
ゴゴールは怒りに吠えて、拳を握る。
先と同じように、その手から光がこぼれるのだけど……
結果は、まったく別のものに。
ゴゴールの周囲に、十を超える魔法陣が展開された。
それらは黄金のような輝きを放ち、まったく同じタイプのゴーレムを召喚する。
「なっ……!?」
十を超えるゴーレムに、さすがのプレシアも顔色を変えた。
「質で届かないのならば、量で届かせてみせようではないか……!」




