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94話 憎い相手と、どうでもいい相手

「さて、この辺りかのう」


 ある程度、奥まで進んだところで、プレシアは足を止めた。


 視線の先に罠が仕掛けられている。

 一つではなくて、二重でもなくて、数え切れないほど。


 突破することは可能だ。

 しかし、敵に悟られないことは難しい。


「ここまで罠を設置すれば、中にいる者達も大変じゃろうに。病的なまでに外敵を恐れているな。ゴゴールらしいな」


 プレシアは鼻で笑う。

 そして、おもむろに手を横に振る。


 その軌跡に従うかのように炎が出現して、罠ごとまとめて通路を薙ぎ払う。


 無詠唱で魔法を使うという、離れ業をやってみせたものの……

 それよりも無茶苦茶なのは、敵地のど真ん中で、これだけ派手な騒ぎを起こしたことだ。


 陽動のため。

 また、ゴゴールを誘い出すため、暴れるという打ち合わせはしていた。


 しかし、ガイ達は知らない。


 プレシアは、周囲が思っている以上に無茶をするのだ……ということを。


「今の音はなんだ!?」

「いたっ、侵入者だ!」

「すぐゴゴール様に連絡をしろ!」

「いや、待て。これくらいは俺達で……」

「おーおー、わらわらと手下が出てきたのう。ゴゴールに、これほどの数が従っているとは予想外じゃな。あやつ、意外と人望があったのか? いや、ないな。金で釣っているのじゃな」


 十人を越える敵が現れたというのに、プレシアは余裕たっぷりだ。

 むしろ楽しそうにしている。


 プレシアは手を差し出して……

 くいくいと、指先を曲げて挑発してみせる。


「さあ、妾を楽しませるがいい」




――――――――――




 ……10分後。


「ふむ、もう終わりか? なんじゃ、情けないのう」


 プレシアの周りに、十数人の魔法使いが倒れていた。

 ゴゴールに雇われた者、ゴゴールを信望する者……様々だ。


 侵入者を迎え撃つためにプレシアに挑んだものの、逆に返り討ちに遭ってしまう。

 十倍以上の戦力差があったはずなのに、負けてしまう。


 対するプレシアは、退屈そうにあくびをこぼしていた。

 怪我は一つもない。

 埃で汚れているということもない。


 全くの無傷で、完璧な姿を残していた。


「やれやれ。もう少し楽しみたかったが……まあ、準備運動にはちょうどいいじゃろう。ちょうど、本命も釣れたようじゃからな」


 プレシアはニヤリと笑い、洞窟の奥を見る。

 そこに、一人の男がいた。


 顔に刻まれたしわを見ると、歳は六十に近いだろう。

 杖をついているものの、それは体を支えるためのものではない。

 杖の先端に魔力を帯びた宝石がセットされている。

 魔法使いのために用意された、魔力を増幅するための特注品だ。


「ひさしいのう、ゴゴールよ」

「貴様はっ……貴様は、プレシア・ソークェイド! プレシアかっ!!!」


 初老の男……ゴゴールは、プレシアは親の仇のように睨みつけた。


「うむ。いかにも、妾が魔法騎士団、団長プレシア・ソークェイドじゃ!」

「おのれっ……なんて忌々しい女なのだ! この儂の才能を妬み、疎んで追放するだけではなくて、儂の研究成果を奪うために、このようなところまで追いかけてくるとは!!」

「む?」


 プレシアは、はて? という感じで小首を傾げた。


「まるで心当たりのないことばかりなのじゃが……」

「なにを言うか! 儂が何度も何度も手柄を立てているのを妬ましくおもっていたのだろう!? だから、儂を魔法騎士団から追放した!」

「……おおっ」


 プレシアは、手の平をぽんと叩いた。


「そう言うということは、お主がゴゴールなのじゃな?」

「なっ……」

「いやー、自ら正体を明かすようなことをしてくれて、助かったわい。実のところ、お主の顔は覚えていなくてのう……あ、もちろん声も忘れておったぞ? そのことに途中で気づいて、どのようにしてゴゴールを捕まえれば? と悩んでいたところなのじゃ」

「なっ、なっ……」


 カラカラと笑うプレシア。

 対するゴゴールは、わなわなと手を震わせた。


「き、ききき……貴様はっ! この儂にあれほどのことをしておいて、なにも覚えていないというのか!? なにも感じていないというのか!?」

「うむ」


 プレシアは、すぐに頷いてみせた。

 そのまま鼻で笑う。


「なぜ、妾がお主のような小物のことを、いちいち覚えておらんといけない? 無理を言うな。お主程度の弱者を覚えておくほど、妾は、記憶容量を無駄遣いしておらぬ」


 挑発してゴゴールの意識を自分に向けておく、という目的はあるのだけど……

 半分は、プレシアの本心だった。


 魔法の研究に情熱を注ぐわけでもない。

 かといって、人々を守る騎士らしくあるわけでもない。


 ただただ、家の力に頼り、意味のないプライドを掲げるだけ。

 そのような小物に、プレシアはいちいち興味を抱くことはない。


 事件を起こしたから、こうして出向いたものの、そうでなければ思い出すことはなくて、ずっと忘れていただろう。


「ぐっ、くぅううう……! こ、この女は……許せぬ! 絶対に許せぬ!!!」

「ほう? ならば、どうするつもりじゃ?」

「儂の研究成果の糧となるがいい!!」


 ゴゴールは強く拳を握る。

 その中で、光がぱぁんと弾けた。


 光が地面に落ちると、それを合図にしたかのように、勝手に魔法陣が描かれていく。


 離れた場所にいる人、物を呼び出すことができる、召喚陣だ。

 そこから現れたものは……


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