93話 いざ突入!
俺、アルティナ、ノドカ。
そして、プレシアを含めた俺達四人は、エストランテから半日ほどのところにある洞窟の前にやってきた。
「ここが、悪党の隠れ家なのね?」
「許せないのでありますよ。拙者の刀のサビにしてくれるのです」
「それよりも、入り口から奥の方に向かって、爆薬を連射すればよくない? 生き埋めにしてやりましょう」
「その前に、魔物を放っておくのもアリかもしれませぬな」
「アリなわけないだろう」
「「あいたっ」」
物騒な考えを口にする弟子二人の頭を小突いておいた。
「レミアの他に捕まっている子供がいるかもしれない。それを確認しないで、いきなり生き埋めになんてできるわけないだろう」
「じょ、冗談よ……」
「ちょっと怒りが先行しただけでござるよ……」
この二人、たぶん、本気だったな。
やれやれ、とため息をこぼす。
「さて……策は、ここに来るまでに話した通りじゃ。問題ないな?」
「しかし……」
「問題ないな?」
「……わかった、プレシアの言う通りにしよう」
彼女が提案した策は、こうだ。
まず、プレシアが一人で突入する。
そして派手に暴れる。
陽動だ。
わかりやすいものだけど……
しかし、ゴゴールは知略に優れているわけではないらしく、見抜くことはできないとのこと。
また、憎い相手が一人でやってきたとなれば、必ず姿を見せるだろうとのこと。
プレシアがゴゴールの相手をする。
元魔法騎士の不始末なのだから、団長である自分が決着をつけたい、つけさせてほしい……と。
俺達は、遅れて洞窟に潜入。
内部を探索して、他に囚われている人がいないか調査する。
二手に分かれての行動となる。
「くれぐれも気をつけてほしい」
「うむ。お主らこそ、な」
「ああ」
互いに不敵な笑みを浮かべると、拳をこつんとぶつけ合う。
「……なんか、師匠とあの人、いつの間にかいい感じになっていない?」
「……うぅ、拙者達がいるのに」
――――――――――
「ふむ」
一人になったプレシアは、洞窟の奥に向かってゆっくりと歩いていく。
見た感じ、なんてことのない洞窟だ。
獣や魔物が住処としていてもおかしくない。
ただ、それは一般の感想。
プレシアのように、魔法を極めた者が見ると、また違う視点となる。
「あちらこちらに魔法回路を巡らせておるな」
魔法回路というのは、特定の魔法を効率よく使うために、あるいは強化するために設置する補助装置のようなものだ。
魔力を水脈のように流して、その軌道を制御することで、力を収束させていく。
魔力という見えないもので作られているため、一般人は気づかないことが多い。
熟練の剣士とて、見落としてしまうことはあるが……
それ以上の者となれば、違和感を得ることもあるだろう。
「そうじゃな。ガイならば、瞬時に看破するであろうな。さすがに、魔力回路であることはわからないじゃろうが、魔力があちらこちらに流れていることは……いや。あの男ならば、魔力回路であることも突き止めてしまうか……?」
ありえないこと。
ありえないことなのだけど……
ガイならば、ありえるかも、と思わせてしまうところが恐ろしい。
「くく、本当に面白い男じゃ」
最初は、単純な興味。
それから、ガイがいれば魔法騎士団はさらに強くなる、という打算的な考え。
そうして彼に近づいたのだけど……
今は、ガイ本人のことが気になっていた。
彼の人となりを知りたい。
戦う理由を知りたい。
好みを知りたい。
興味は尽きない。
「そんな妾の気持ちを満たすためにも……さて、今回の件、しっかりと解決せねばならぬな」
少し進んだところで罠を見つけた。
目を凝らさないとわからないような、極細のワイヤーがかけられていた。
その先を見ると、クロスボウがセットされていた。
丁寧に毒も塗られている。
ただ……
「本命はあっちじゃな」
さらに奥を見ると、小さな魔法陣が描かれていた。
魔力で隠蔽されているため、魔法使いでなければわからない。
ワイヤートラップで油断させて、本命の魔法陣のトラップで敵を仕留める。
二段構えの凝った罠だ。
並の冒険者、魔法使いならば見抜くことはできなかっただろう。
二段構えの罠に喰われていただろう。
「しかし、妾は超一流なのじゃ」
プレシアは不敵に笑う。
「レビテーション。及び、シャドウステルス」
プレシアの小さな体がふわりと浮いた。
その上で、影に溶けるかのように周囲の景色と一体化する。
その状態で罠をすり抜けていくのだけど……
もしもここに魔法に詳しい者がいたら、腰を抜かしていただろう。
異なる魔法の同時詠唱。
そのようなことを可能としたものは、まだいない。
世界中で研究されているものの、まだまだ実用化には程遠いという段階だ。
それなのに、プレシアは散歩をするような気軽さで同時詠唱を行ってみせた。
魔法騎士団、団長の肩書は伊達ではない。
「さて、この奥になにが待っておるかのう?」
せいぜい妾を楽しませてみせろ。
そう、プレシアは不敵な笑みを浮かべるのだった。




