92話 作戦会議
3日後。
レミアのことはアルティナとノドカに任せて、俺は、プレシアの執務室に赴いていた。
調査の結果が出たらしい。
「すまぬな。翌日には、と言っていたが、3日もかかってしもうた」
「いえ。そのおかげで、レミアから色々と話を聞くことができましたから」
レミアは元気そうにしていたものの、心の傷は深く……
初日、二日目は、とてもじゃないが話を聞くことはできなかった。
三日目に、ようやく色々な話を聞くことができた。
すぐにプレシアの調査結果が出ていたら、話を聞くことはできなかっただろう。
なので、結果オーライというやつだ。
「さて、まずは妾が掴んだ情報を共有しておこう」
プレシアの情報をまとめると、こうだ。
事件の主犯格と思われる人物は、やはり、外法に手を出していた。
その実験のためにレミアを誘拐したという。
目的は不明。
ただ、レミア以外の被害者もいると予想されており、長く放置することはできないとのことだ。
「……許せない話ですね」
「うむ。外法に手を出すだけではなくて、幼き子を己の欲望に巻き込むとは……同じ魔法使いとして、断じて許すことはできぬ」
「主犯格というのは、誰なんですか?」
「裏付けは終わっていないが……ゴゴールという、はぐれ魔法使いでほぼ間違いないじゃろう」
ゴゴール・グラフェイド。
元、魔法騎士団の魔法騎士らしい。
魔法騎士ではあるものの、貴族ということもあり、プライドが高い。
故に普段の素行が悪く、仲間からの評判も悪い。
まともに連携をとれず、独断専行が目立つ。
どうしたものかとプレシアが頭を悩ませていると、ある日、ゴゴールが何度目になるかわからない独断専行。
結果、多数の仲間が危険に晒されてしまう。
さすがに堪忍袋の緒が切れたプレシアは、ゴゴールをクビに。
グラフェイド家から色々と言われたらしいが、聞き入れず、エストランテからの追放も実行したらしい。
「……と、いうわけなのじゃが、最近、街で見かけたという報告があってのう。詳しく調べてみると、ゴゴールがいつの間にか戻ってきた、というわけなのじゃ」
「なるほど……彼の目的は、あなたへの復讐……ですかね?」
「じゃろうな。なにせ、プライドは人一倍高いヤツじゃったからのう……追放される際、妾にコテンパンに言われたことが許せないのじゃろう」
「……許せないのは、こちらですね」
たったそれだけの理由で。
そんなくだらない理由で、レミアを傷つけたなんて。
とてもじゃないけれど許せることではない。
「お主の方はどうじゃ? レミアから、なにか話を聞くことはできたか?」
「ええ。おそらく、隠れ家についての情報を」
「ふむ。興味深いのう」
レミアは、魔物に取り込まれる前、『暗くて冷たい場所』にいたと言っていた。
暗いところならたくさんあり、特定することは難しい。
でも、そこに冷たい場所という条件が重なるのならば?
エストランテは穏やかな気候で、たまに雪が降ったりするものの、基本、晴天が続いて過ごしやすい。
冷たい、寒いと感じることは、ほぼほぼない。
ならば、レミアはどこに囚われていたのか?
「……洞窟じゃな」
「ええ、俺も同じ意見です」
街の外にある洞窟なら、暗くて寒いという条件はピタリと当てはまる。
その仮定が正しいとして、地図を調べてみると……
「街の外に一つ、条件に当てはまる洞窟があることを確認しました」
「ほう、すでにそこまで調べておったか」
「さすがに、内部の調査はしていませんが……ここ最近、洞窟の近くで人影を見たという話をよく聞きます。たぶん、間違いないかと」
「うむ。妾もお主の意見に賛成じゃ。そこが、ゴゴールの隠れ家なのじゃろう」
犯人を特定した。
居場所も判明した。
ならば後は……
「捕えるだけですね?」
「うむ……と、言いたいところなのじゃが」
やれやれ、という感じで、プレシアはため息をこぼす。
「妾の方で、ちと問題があってのう」
「それは?」
「裏付けが終わっていない、と言うたじゃろう? まだ、ゴゴールは黒に近い灰色なのじゃよ。完全な黒にならない限り、魔法騎士団は動けぬ」
「そんな……!」
「国に属している以上、勝手はできぬ。面倒なことじゃ」
「確かに、そうですが……」
放っておけば、レミアのような被害者が増えるかもしれない。
すぐに叩き潰すべきだ。
とはいえ、プレシアに無理をさせた場合、後でどのような処罰が下るか。
それを押し付けてしまうのは、いかがなものか。
「……なら、俺が行きましょう」
「お主……」
「冒険者である前に、このような事件、一人の人間として許しておくことはできない」
「……くくく。気が合うのう」
「え?」
「早とちりするでない。妾は、魔法騎士団は動かせぬとは言ったが、妾が動けぬとは言っておらん」
「それじゃあ……」
「一緒に悪党を叩き潰そうではないか」
「ええ!」
互いに笑みを浮かべて、しっかりと握手を交わした。
「ところで……」
「はい? どうかしましたか?」
「その喋り方、なんとかならぬか? 確かに、妾の方が立場は上じゃが、歳は下じゃ。それに、お主は英雄じゃ。そのような相手に丁寧に接しられると、どうにもこうにもむずがゆい。公の場では困るが、プライベートでは気軽にしてくれぬか」
「……わかった。じゃあ、これからはこんな感じで」
「うむ、それでよい」
プレシアは、にっこりと嬉しそうに笑うのだった。




