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90話 レミア

 セリスと話をした後、魔法騎士団の支部へ赴いた。

 助けた子供が俺達を話をしたがっている、と聞いたからだ。


 魔法騎士団、支部の医務室へ。


「……ぁ……」


 ベッドに寝ていた子供が、俺達に気づいて体を起こした。


 ふわりとした桃色の髪。

 愛らしい瞳が特徴的で、将来は美人になりそうだ。


 ただ、体は細く背も低い。

 栄養が足りていない様子で痩せていた。


 魔物に取り込まれていた影響か。

 それとも、それ以前に酷い環境に置かれていたのか。


「あ、あのっ……!」


 女の子は慌てた様子で頭を下げる。


「あ、ありがとうございました!」

「ふむ?」

「みなさんが、私を助けてくれたんですよね……?」

「そうじゃが、お主は、その時のことを覚えておるのか?」

「あ、いえ……うっすらとしか。みなさんのことは、ここの騎士さんから話を聞いて……」

「ふむ、そういうことか」

「それで、どうしてもお礼を言いたくて……ごめんなさい」

「なに、謝る必要などないぞ。お主の気持ち、嬉しく思うのじゃ」


 プレシアはにっこりと笑い、女の子の頭を撫でた。

 意外と子供に慣れているようだ。

 見た目はプレシアも子供だから、気持ちがわかるのだろうか?


 ……なんて、こんな感想は怒られるかもしれないな。


「……いいですか?」

「……うむ」


 プレシアに目配せすると、頷いてくれた。

 このまま話をしてもいい、と判断してくれたようだ。


「はじめまして」

「おじさん……誰ですか?」

「俺は、ガイ・グルヴェイグ。この街で冒険者を……」

「あっ!? もしかして、英雄様ですか!?」

「え、英雄……?」

「お母さんから聞いています。英雄様が街を救ってくれた、って」

「えっと……」


 間違ってはいないのかもしれないが、しかし、あれは俺一人の力ではなくて……

 それと、素直にそんな称賛を受け入れるというのは、なかなか恥ずかしいものが……


「どうしたの、英雄様? あの子が困っているわよ」

「ほら、英雄殿。応えてあげないといけません」


 アルティナとノドカがにやにやと笑う。

 くっ、からかっているな?


「まあ……そうだな。そう呼ばれていることも……あるよ」


 内心、羞恥心に悶えつつ、女の子の言葉を受け入れた。

 そうすることで俺に対する警戒心が解けたらしく、女の子は笑顔になる。


「やっぱり! すごい、英雄様です!」

「あはは……」


 ものすごく、こそばゆい。


「えっと……キミの名前を教えてもらえるかい?」

「あ、すみません。私、レミアっていいます。レミア・カルカードです」


 皆を見る。

 心当たりはないと、小さく首を横に振る。


「レミアは魔物に捕まっていたんだけど、その時のことを覚えているかな?」

「えっと……ごめんなさい。よく覚えていません。寝ていたような感じで……夢なのかな、って」

「そっか。すまないね、怖いことを思い出させて」

「いえ、大丈夫です」


 本来なら、泣いてパニックに陥ってもおかしくないのに……

 強い子だ。


「なら、最後に覚えていることを話してもらえないかな?」

「えっと……」


 レミアは、元々、違う街で暮らしていたらしい。

 ある日、見知らぬ大人にさらわれて……

 それから、窓もない暗い部屋に閉じ込められていたという。


 その後、しばらくして外に出されて……

 再び見知らぬ大人の元へ。


 そこで妙な実験に付き合わされて。

 最後に、薬を飲まされて意識を失い……

 目が覚めたらこの状況になっていた、とのこと。


「覚えていることはそれくらいで、私は……うぅ、私……ひっく」


 話しているうちに、改めて現状を認識して、一気に不安が襲ってきたのだろう。

 レミアはしゃくりあげて、目に涙を溜めてしまう。


 俺は、そっとレミアを抱きしめた。


「大丈夫」

「……英雄様……」


 ぽんぽんと、背中を撫でてやる。


 俺も小さい頃、おじいちゃんによくこうしてもらったものだ。


「約束しよう。俺が、レミアを家族のところに返す。必ず、だ」

「……うぇ……」

「だから、安心してほしい。大丈夫、きっと大丈夫だ」

「うえぇえええ……」


 緊張の糸が途切れてしまったのだろう。

 レミアは大粒の涙をこぼしながら、しばらくの間、泣いた。




――――――――――




「今日はここまでだな」


 泣き疲れて眠ってしまったレミアをベッドに寝かせて、医務室を後にして……

 会議室に移動した。


「ええ。あの様子だと、目が覚めても、レミアからまた話を聞くようなことは避けた方がいいわ」

「親から引き離されて、見知らぬ男の元に……なんという非道! 拙者、許せないのでありますよ!」

「俺もだ」


 レミアの泣き顔を思い出すと、胸が締め付けられるように苦しくなる。

 それと同時に、激しい怒りを覚えた。


 あんな小さな子を泣かせるなんて……

 とても許せるようなことではない。


「レミアを買った者は、おそらく、なにかしら魔法の研究をしていたのじゃろうな。それも、外法の類の」


 人の道を外れた理。

 故に、外法。


「魔法に関することなら、妾に任せるのじゃ。明日までには、なにかしらの手がかりを掴んでみせよう」

「あなたしか動けないのに、そのようなことが可能なんですか?」

「ふふん。妾を誰だと思うている? 魔法騎士団の団長じゃぞ? 単純な魔力だけではなくて、独自の情報網は構築しておるわい」

「頼りにしています」

「お主らは、レミアのことを頼んでよいか? レミアは、特にガイに心を許している様子じゃからのう……一緒にいて、安心させてやってほしい。そして、できればさらに深い話を聞いてほしい」

「話を? しかし……」

「当事者の情報はとても貴重なのじゃ。もちろん、無理をするつもりはない。できるなら、でよい。ダメと判断したのなら、なしでよい」

「わかりました。確約はできませんが……」

「うむ、それでよい」


 こうして、俺達は、しばらくの間、レミアと一緒にいることになった。




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