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89話 人身売買

「……なるほど。それで、わたくしのところに来たのですね」


 テーブルを挟んで対面に座るのは、領主であるセリスだ。


 エルダートレントの事件の後……

 俺達はエストランテに戻り、プレシアの推測を信じて行動することに。


 しかし、情報が圧倒的に足りていない。

 そこで、セリスに協力を求めに来た、というわけだ。


「妾の勘によるところが多く、確たる証拠はない。じゃが、なにか事件が動いていることは確実じゃ。より大きな被害が出る前に食い止めたい」

「……それは、魔法騎士団、団長としての意見ですか?」

「うむ」

「ガイ様達は?」

「俺は、プレシアの言うことに賛成しているよ。それに……子供を利用するなんて、絶対に許せることじゃない。大人として、この事件、絶対に解決しないと」


 子供は守られるべき存在だ。

 それなのに、逆に大人に利用されてしまうなんて……


「……」


 過去を思い出した。


 俺は、グルヴェイグ家では守られることはなかった。

 虐げられるばかりで、いないものとして扱われていた。


 だからこそ、今回の事件を放置することはできない。

 子供を利用する汚い大人がいるとしたら、絶対に許すことはできない。


「わかりました。領主として、そのような話を放置するわけにはいきません。全面的に協力いたしましょう」

「助かるのじゃ。ただ、全面的にでなくてよい」

「と、いいますと?」

「全面的に協力してもらうに越したことはないが、それだと目立ってしまうからのう。下手に感づかれてしまうと、黒幕は逃げてしまうかもしれん。それを避けるために……」

「密かに協力する、というわけですね?」

「その通りじゃ」

「了解いたしましたわ。愚かな真似をする犯人に、きついお仕置きをしてさしあげましょう」

「うむ、その時が実に楽しみじゃ♪」


 二人はとても悪い笑顔を浮かべていた。

 この二人、上に立つ者という共通点があるため、意外と気が合うのかもしれない。


「もちろん、あたし達も協力するわ」

「拙者の力、存分に使ってほしいのであります!」


 アルティナとノドカもやる気だった。

 二人は正義感が強いから、やはり、このような話は見過ごせないのだろう。


「被害者の子供に話を聞くことはできますか?」

「すまぬな。今は、魔法騎士団の方で預かっていて、休ませている。意識はしっかりしているが、もう少し休ませてやりたいのじゃ」

「わかりました。そこまで急ぎではないので、先に、こちらの情報をすり合わせておきましょう。少しお待ちを」


 そう言って、セリスは席を立つ。


 5分ほど経ったところで、書類を手に戻ってきた。


「こちらは口外無用でお願いいたします」

「これは……」


 書類には、人身売買に関する情報が記されていた。


 被害者のリスト。

 それと、容疑者候補だ。


「……酷いな」


 被害者の数の多さに、思わず眉をひそめてしまう。


 被害者は二桁に届いている。

 これほどの数になっていたなんて……


 そして、エルダートレントに取り込まれていた子供も被害者リストに載っていた。


「あの子は、人身売買の被害者だったのか」

「ふむ。やはり、人為的な事件じゃったか。奴隷として得た子供を、あえて魔物に捧げたのは……なにかしらの実験じゃろうか?」

「そのようなことが……」


 こちらも、俺達が持つ情報をセリスに提供した。

 互いに難しい顔を作る。


「これは、思っていたよりも根深い問題かもしれないな」


 あの子がなにかしらの事件に巻き込まれている可能性は考えていたが……

 まさか、人身売買とは。


「ちょっと! これだけの証拠がありながら、犯人を捕まえられないの!?」

「容疑者候補がリスト化できているのなら、捕まえられるのでは?」


 アルティナとノドカが憤る。

 その怒りをセリスにぶつけてしまっているものの……

 セリスは、責務を果たせない己のせいと感じているらしく、申しわけなさそうに頭を下げる。


「以前と同じように、確実な証拠がありません……」

「それじゃあ、またあたしと師匠が潜入調査を……」

「容疑者候補もまた、十に届くというのにですか? その全てを一つずつ?」

「うっ」


 痛いところを突かれてしまい、アルティナが困り顔に。


 そう。

 容疑者候補も十に近い。

 しかも、個人から商会などの団体まで幅広い。


 全てを調査しようと思ったら、相当な労力と時間がかかるだろう。

 だからこそ、セリスも深く踏み込めないでいる。


「ここまで調査を進めているのですが、ここからが難しく……敵も狡猾で、なかなか尻尾を出してくれません」

「ふむ」


 プレシアは書類を見つつ、一つ頷いた。


「いや。ここまで絞り込めているとは、妾も思わなんだ。さすが、領主殿じゃ」

「いえ、しかしこれだけでは……」

「問題ない。妾達、魔法騎士団も調査に加われば、さらに調査が進むじゃろう」

「魔法騎士団が? しかし、魔法騎士団がこのような事件に関わるなど、聞いたことがないのですが……」


 街の秩序や治安を維持するための仕事は、通常の騎士団が行う。


 魔法騎士団が活動をしないということはないが……

 魔法騎士団の主な任務は、その圧倒的な火力による敵の制圧だ。

 強力な魔物の討伐や、あるいは戦争時に敵対勢力の撃退、及び掃討など。


 人身売買は大問題ではあるものの……

 魔法騎士団が動くというのは、確かに少し意外だ。


「今回の事件、魔法が関わっておるかもしれぬ」

「魔法が?」

「ま、妾の勘じゃけどな。故に、妾しか動くことはできぬが」


 団長であるプレシアが動くことができるのなら、それで十分だろう。

 頼もしい。


「人身売買なんて絶対に許せない。必ず、事件を解決しよう」

「ええ、もちろんよ」

「はいであります!」


 アルティナとノドカが力強く頷いて……

 プレシアとセリスも、しっかりと頷いてみせるのだった。

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