86話 魔法騎士団の力
プレシアを含めた、十人ほどの魔法騎士がエストランテを発つ。
もちろん、これが魔法騎士団の全てではない。
一部の戦力だ。
プレシアは、今回はこれで問題ない、と判断したらしい。
敵の規模は、百体近い魔物。
低ランクの魔物が多いけれど、数の暴力は決して侮ることはできない。
また、もしかしたら高ランクの魔物もいるかもしれない。
そういう詳細な情報はまだ確認されていないらしい。
「この人数で、本当に大丈夫なのか?」
行軍するプレシアに尋ねた。
結局、俺達もついていくことに。
元より聞かなかったことにするつもりはないから、それはいいのだけど……
プレシアの判断には、少し違和感があった。
「なに、問題ないのじゃ。お主の懸念は理解しているが、予想外のことが起きたとしても、妾がいればなんの問題もない」
己の力に絶対的な自信があるらしく、プレシアは得意そうに胸を張る。
そんな彼女にジト目を向ける、アルティナとノドカ。
「今のセリフ、フラグじゃないかしら……?」
「フラグでありますね」
――――――――――
「はっはっは! どうじゃ、見たか!? これが魔法騎士団の実力じゃ。フラグが立っていたとしても、そんなものはへし折ってしまえばよい!」
魔物の群れを発見した後、プレシア達、魔法騎士団の動きはとても早かった。
まずは魔法を使い、敵勢力の詳細な調査。
これにより、低ランクの魔物に交ざり、高ランクの魔物が複数体潜んでいることが判明した。
そいつがリーダーとなり、他の魔物を率いる。
そして暴君となってこの地を荒らしていたようだ。
詳細が判明した後、プレシア達は陣を構築。
そして、反撃の敵わない遠距離から魔法の連射。
炎、氷、雷……多種多様な魔法が雨のように降り注ぎ、低ランクの魔物が一掃された。
残された高ランクの魔物は、ハインリヒ……以前、俺と決闘をした魔法騎士団のエースが討伐した。
彼の魔法の腕は確かで、高ランクの魔物を複数同時に相手にしても、まったく危うげなところはない。
さすが、というべきだ。
そうして、魔法騎士団による魔物の掃討は完了した。
とても鮮やかな手際だ。
「すごいですね。これが魔法騎士団の力か」
「そうじゃろう、そうじゃろう。すごいであろう! ふふん♪」
「エースと団長がいるとはいえ、ここまで見事な戦いは、なかなか見ることはできないだろうな」
「よいぞ、お主。わかっておるではないか。くふっ。ますます、我が魔法騎士団に欲しくなってきたのう」
「フシャー!」
「がるるる……!」
アルティナとノドカが猫と犬っぽくなって、吠えた。
落ち着いて。
からかわれているだけだと気づいてくれ。
「ガイ殿!」
ふと、ハインリヒがこちらに駆けてきた。
その目は、なぜかキラキラと輝いている。
「あなたの指南のおかげで、今回は、今までの倍以上に効率的に戦うことができました。ありがとうございます!」
「あ、いや。俺は、そんな大したことはしていないさ。うまく戦うことができたのは、君達の実力だよ」
「いいえ。ガイ殿に指南を受けていなければ……それ以前に、あの決闘がなければ、私は、増長したままだったでしょう。とても愚かなことです……しかし、ガイ殿のおかげで目を覚ますことができました。重ね重ね、感謝いたします!」
「あー……うん。少しでも役に立てたのなら、なによりだ」
「これからも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」
ハインリヒは深く頭を下げて……
他の団員達も、合わせるようにして頭を下げる。
ものすごく気まずい。
俺、そこまで言われるほど大したことはしていないんだけどな……
指南役は務めたものの、基本を教えただけだ。
「師匠の基本って、ベテラン剣士の集大成のようなものだから、わりと無茶苦茶な訓練よ?」
「あれをものにできたのならば、一回りも二回りもレベルアップできるのでありますよ。なので、彼らの感謝は当然のものかと」
「そういうものかい?」
「「そういうもの」」
弟子二人にこう言われたら、反論しても仕方ないだろう。
過分な評価は気がするのだけど……
あまり否定するのもなんだし、今は、素直に受け取っておこう。
「さて……お主ら。いつものように魔物の処理をせよ。それと、半数はこれだけの群れが発生した原因の調査じゃ。妾は周囲の警戒を行うため、安心して任務に励むがよい」
「「「はっ!」」」
プレシアの指示で、団員達が四方に散る。
一方でプレシアは、小さな呪を紡いだ。
「サーチ」
彼女を中心に、淡い光が球状に広がる。
それはどこまでも遠く、彼方まで伸びていく。
「……うむ。どうやら、近くに魔物はいないようじゃな」
「そんなこと、わかるんですか?」
「魔物は、特有の魔力を帯びているからのう。そこに焦点を合わせて探知魔法を使えば、調査は可能じゃ」
「ちなみに、近くっていうのはどれくらいの範囲なんですか?」
「半径300メートルといったところじゃな。ま、妾が本気を出せば、1キロは軽いのじゃけどな!」
自慢するような感じで、プレシアはドヤ顔を披露した。
アルティナとノドカは、いつものこと、と慣れた感じでスルーするのだけど……
俺は、そういうわけにはいかない。
「それは本当に? 間違いはありませんか?」
「なんじゃ。妾の力を疑う気か?」
「そんなつもりはないんですが……しかし、魔物の気配がします」
「なに?」
「近い……来るっ!」
俺は剣を抜いた。
ほぼ同時に、近くで業風が巻き上がる。
一瞬で竜巻が形成されて、調査を進めていた団員の一人が巻き込まれそうになる。
「うぁっ、あああああ!?」
「させるか!」
前に出て、剣を振る。
城ほどの巨大な竜巻を半ばで切断して、空気の流れを乱してやる。
一気に全体のバランスが崩れて、竜巻はふっと消滅した。
「師匠!?」
「ガイ師匠!?」
「二人共、油断するな。敵だ!」




