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85話 意外な効果

 季節は夏。

 日差しは刺すように強烈なものになって、ただじっとしているだけでも汗が流れてしまうほどに暑い。


 そんな中……


「よし。そこまでにしましょう」

「「「はいっ!」」」


 俺は、四回目の指南を行っていた。


 初回は、やりすぎだと怒られてしまい。

 騎士達も疲労困憊になって。

 色々と問題が多いと指摘されたのだけど……


 ただ、騎士達は疲労を見せつつも、俺の指導にしっかりとついてきてくれた。


 疲労で足を止めることはあっても、引き返すことはない。

 休憩を挟みながらも前に進んで……

 一歩ずつ、着実に力を積み重ねていた。


「では、30分、休憩にしましょう。その後、模擬戦を行います。いつものように魔法は禁止。全力で戦い、しかし、すぐに勝負がついてしまうのではなくて、1分1秒でも長く打ち合えるように努力を」

「「「はいっ!」」」

「それじゃあ、休憩です」

「みなさん、冷えた特製ドリンクであります!」

「レモンとはちみつだけじゃなくて、生姜もちょっと入っているから、疲労回復効果は抜群よ」


 アルティナとノドカは、こうしてサポートをしてくれていた。

 俺は、こういう細かいところまで意識が行き届かないから、とても助かっている。


 そしてプレシアは……


「うむ、うむ。日々、我が騎士達が頼もしい顔つきになっていくな。やはり、お主に指南を頼んで正解じゃったな!」


 とてもごきげんだった。

 初回は、「これで終わりにした方がよいのでは……?」なんて言っていたのだけど、その時のことは忘れたらしい。


 実際、効果は現れていた。


 初回は疲労困憊の者が続出して、思うように訓練が進まなかったのだけど……

 二回目は、予定していた訓練、全てをこなすことができた。

 そして三回目は、全てこなした上で余裕ができて、さらに追加の訓練をしてほしいと頼まれた。


 騎士達は、「情けない、いかに魔法に頼っていたかが身に染みて理解した」と口にして、自主的に鍛錬に励んだらしい。

 そして、普通の騎士に劣らない……というか、それ以上の強靭な肉体を手に入れた。


「はっはっは! 妾は、最初からガイを信じていたぞ? お主ならば、皆をここまでしっかりと鍛えてくれる、とな!」

「ありがとうございます」

「調子がいいわねぇ……」

「とはいえ、拙者達は色々と疑っていたので、あまり強く言えないのでありますよ……」


 まあ……

 なんだかんだ、うまくいってよかった。

 指南役なんて初めてなので、少し心配だったんだよな。


「ガイよ。ひとまず、お主が指南役となり1ヶ月が経ったわけじゃが……どうじゃ? 契約を更新しないか?」

「ええ。それは願ってもないことです」

「うむ、うむ! では、新たに1ヶ月の更新じゃな。書類はすでに作成しておいたから、後でチェックとサインを頼むのじゃ。報酬も、前払いで払っておこう」


 用意がいいな。


「それと……指南役ではなくて、魔法騎士団に入隊せぬか?」

「え? しかし、こうして団員のみなさんが稽古に励んでいるのなら、俺は必要ないのでは?」

「お主のような規格外、いくらいても困ることは……いや、訂正じゃ。いくらもいたら困るな。持て余すだろうし、暴走せぬかハラハラしてしまう」


 俺は不良品の魔道具か?


「とはいええ、一人くらいならば欲しいところじゃ。改めて誘うが、どうじゃ? 今なら、特別待遇を用意するぞ?」

「それは……」

「ダメよ!」

「ダメであります!」


 アルティナとノドカが前に出て、俺を背中にかばう。

 その姿は、我が子を守る母のよう。

 がるるる、と威嚇の声すら放っていた。


「師匠は、あたし達の師匠なの。魔法騎士団の団長だろうがなんだろうが、後からふらっと来た人が師匠を自分のものにしようとしないでくれる?」

「アルティナ殿の言う通りであります! ガイ師匠は、拙者達の師匠であります。プレシア殿は、このまま魔法騎士団に、などと考えているようですが、そのようなことは許しませぬ」


 二人はそう言い放つと、俺を挟むかのように、それぞれこちらの腕を掴む。

 両手を使い、ひしっと抱きついてきた。


 子供が自分のおもちゃの所有権を主張するような、そんな感じ。

 絶対に手放さないぞ、という強い意思を受けた。


「ふむ、残念じゃのう」

「……あっさり引き下がるのでありますね」

「ノドカ、騙されたらダメよ。引き下がったフリをして、後で、あたし達がいないところで師匠に迫るに違いないわ」

「はっ、そういうことでありますか!?」

「師匠ならお金とかじゃ動かないだろうけど……」

「色仕掛けをするかもしれません!」

「大丈夫。この団長様に色仕掛けは無理よ」

「どういう意味じゃ……?」


 やめて差し上げろ。


「まったく、近頃の若者は失礼じゃな。そもそも、妾とて本気になれば色仕掛けの一つや二つくらい……」

「団長!」


 話が妙な流れになりかけたところで、鋭い声が響いた。


 振り返ると、魔法騎士団の団員らしき騎士が焦った様子で駆けてくる。

 それを見たプレシアは、スッと表情を真面目なものに切り替えた。


「どうしたのじゃ?」

「出撃命令が下りました!」

「ふむ?」

「ここエストランテから半日ほどの場所に、魔物の群れを発見したらしく……」

「別に出動は構わぬが、騎士団はどうしたのじゃ?」

「その……街の防衛に専念したい、と」

「やれやれ、嫉妬か」


 その一言で、なんとなく、騎士団と魔法騎士団の関係がうまくいっていないことを理解した。


 騎士団と魔法騎士団は、後者の方が上に見られることが多い。

 選ばれたエリート集団だから、それも仕方ない。


 ただ、騎士団としては同じ立場であるはずの魔法騎士団が上に見られ、自分達は軽く扱われてしまう。

 それが許せないのだろう。

 故に、今回のようなことが起きた場合は、魔法騎士団『様』の実力を見せてもらおうか、と任務を回してきたのだろう。


 そのようなことをしても、特に得られるものはないのだけど……

 人間、理屈では割り切れないものだ。

 良い人だとしても、魔が差す時がある。


「よい、わかった。出動しよう」


 プレシアがちらりとこちらを見る。


「この辺りで、魔法騎士団の本当の力をガイ達に見せつけておくのも悪くないからのう」


 ニヤリと笑う。


 うーん。

 これ、俺達もついていく流れだろうか?


 魔物の群れが確認されたのなら、他人事ではないのだけど……

 なんだか、厄介事に巻き込まれてしまったような気がした。


「師匠のせいだからね」

「ガイ師匠は、もっと自重するべきであります」


 巻き込まれたのは俺のせいだ、と二人が怒る。

 なぜだ……?

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