83話 指南役、就任
決闘を終えた後、プレシアが前に出て、その場で俺の指南役についての発表がされた。
「……と、いうわけで」
にこにこ笑顔のプレシアに、ぽんと肩を叩かれた。
「今日から、こやつが我が魔法騎士団の指南役として就任することとなった。こやつは剣士ではあるが、しかし、その実力は先の決闘の通りじゃ。異論はあるまいな?」
「「「はっ」」」
プレシアの問いかけに、魔法騎士団のメンバーはピシリと背を伸ばして答えた。
団長に問われたから仕方なく……という感じはしない。
中には、こちらを見る目が輝いている人もいた。
……やや、こそばゆい。
「週の終わりに一回、こやつに指導してもらう。その時は、魔法ではなくて物理メインとなるであろうから、そのつもりでいるように。お主らも、魔法だけではこの先、厳しいと理解しているじゃろう? この男なら、足りない部分を補ってくれるであろう。期待してよいぞ」
「「「はっ」」」
あまり期待値を上げないでほしい。
俺は、剣にはそれなりに自信はあるのだけど……
教えるとなると、ちょっと自信はない。
最近、二人の弟子を抱えることになったものの、きちんと指導ができているかどうか。
なかなか難しい。
とはいえ、投げ出すわけにはいかない。
自分で決めたことだ。
引き受けた以上は、全力を尽くしていきたい。
「ほれ。お主からも、なにか一言頼む」
「はい。では……」
緊張しつつ、思っていることをそのまま口にする。
「えー……みなさん、はじめまして。この度、指南役を務めることになった、ガイ・グルヴェイグといいます。よろしくお願いします」
第一印象は大事だ。
できるだけ丁寧な言葉を選び、ぺこりと頭を下げた。
「みなさんのために、なにができるか? それは、俺もまだよくわかっていません。また、みなさんも俺のことをよくわかっていないと思います。なので、最初は理解するところから始めましょう。そして、一緒に学んでいきましょう。そのように支え合うことができれば、きっと、今よりも高みに登ることができるはずです。一緒にがんばりましょう」
「「「はっ」」」
ビシリ! と背を伸ばした。
ひとまず、受け入れてくれた……のかな?
「ガイの指南は、来週からじゃ。各々、しっかりと励むように。では、解散!」
プレシアの合図で、団員達は騎士団の宿舎に戻っていった。
「ふぅ……」
緊張した。
指南役もそうだけど、あれだけ大勢の前で話をするなんて初めてだからな。
変なことを言わないか、内心ではヒヤヒヤしていた。
「「師匠!」」
アルティナとノドカがやってきた。
決闘の感想をもらえるのだろうか?
褒めてくれると嬉しいな、なんて思っていたのだけど……
「「おかしな戦いを見せないで」」
おっと。
なぜか、辛辣な一言が飛び出してきたぞ。
「師匠なら魔法も斬れるし、実際に斬っていたけどさ……だからって、あの規模の魔法まで斬っちゃうの? しかも、木剣で。そういうおかしいことばかりされると、あたしの中の常識がおかしくなっちゃうでしょ。少しは自重してくれない?」
「拙者はあの時、ガイ師匠が死んでしまうかと思ってしまったのであります……くぅっ! 弟子として師を信じられないとは、なんで愚かな! かくなる上は、拙者、腹を切ってお詫びをいたします!」
「自重というけれど、あの場は魔法を斬るしかないだろう? というか、ノドカは一人で自己完結して暴走しないでもらえるかな!?」
ツッコミが追いつかない。
「くふふ、楽しそうな関係じゃのう」
プレシアはニヤニヤと笑っていた。
「ちょっと、あんた!」
アルティナがプレシアを睨む。
「さっきのアレ、どういうこと!?」
「アレ、とは?」
「決闘で相手が使った魔法のことよ! あんなものが直撃したら、死んでいたかもしれないじゃない!」
「そうじゃな。普通、上級魔法に素で耐えられる人間はおらん」
「でしょう? それなのに、師匠にあんな危険なことをさせて……」
「しかし妾は、ガイならば問題ないと考えていた。魔法騎士団のエースの魔法も、問題なく対処できるとな。お主の考えは違うのか?」
「それは……まあ、師匠なら、なんとかするって考えていたわ」
「拙者は、ちょっと半信半疑で……くぅ! 情けないであります! やはり、腹を切って……」
「やめなさい」
「あぅ!?」
こつん、とデコピンをしておいた。
「こやつの力を信じていたからこそ、ああしたのじゃ。万が一、ダメだとしても、その時は妾が割って入る予定じゃった」
「……あんな瞬間的な戦いに、割って入れるものなの?」
「妾を誰だと思っている? 魔法騎士団を束ねる団長じゃ」
プレシアは不敵な笑みと共にそう言う。
それから、視線をこちらに移動させた。
とても不思議そうな顔だ。
「まあ……妾としても、あの魔法を『斬る』というのは、さすがに予想外じゃったが」
「あたしも」
「拙者もでござる」
三人の視線がこちらに向く。
珍獣を見るような目だ。
「ふむ……この男ならばもしかして、普通に直撃しても耐えられるのではないか?」
「師匠ならありえるわね」
「拙者、今ならガイ師匠を信じられるのであります!」
「よし、試してみるか。妾の魔法を受けてみるのじゃ」
「師匠、がんばってね」
「拙者、ちょっと見てみたいのであります」
「こらこらこらこらこら」
三人して無茶を言わないでほしい。
「俺は、剣がちょっと上手なだけで、体がとんでもなく頑丈ってわけじゃないからな?」
「師匠のちょっとは、ちょっとじゃないから困るのよ」
「案外、ガイ師匠ならケロッとしてそうなのです」
君達は、人のことをどんな風に思っているのかな?
「妾の魔法も『斬れる』のか、試してみないか? 研究心がくすぐられるのじゃ」
「嫌ですよ。プレシアさんの魔法を『斬る』のは、さすがに大変そうです」
「まだ、妾の魔法は見たことないじゃろう?」
「そうですけど、なんとなくわかりますから」
彼女の小さな体に秘められている魔力は、ハインリヒを大きく上回る。
素人目だけど、10倍以上あるのではないか?
もしかしたら、もっと……
そんな相手の魔法を『斬る』なんて、気軽に試せるようなことではない。
失敗したら黒コゲだ。
「ま……いつか試してみたいものじゃな?」
プレシアはそう言うと、ニヤリと笑うのだった。




