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80話 その腕を見込んで

「お主……魔法騎士団に入らないか?」

「ごほっ」


 さすがにその発言は予想できず、俺は、咳き込んでしまう。

 慌てて水を飲む。


「師匠が……魔法騎士団に?」

「えっ、えっ……えぇえええええーーー!?」


 アルティナとノドカも、さすがにステーキに夢中というわけにはいかず、一緒になって驚いていた。


「くふふ、驚いておるな」

「そ、それは当たり前でしょう……そんな突拍子のないことを言われたら、誰でも驚きますよ」

「それほど意外かのう? さきほども言うたが、妾は実力主義者じゃ。そして、魔法騎士団も実力主義じゃ。エストランテの英雄と呼ばれるガイならば、十分に条件は満たしておるじゃろう? 妾が勧誘のためにやってくるのも、至極当然の話」

「いやいやいや、当然じゃありませんから。俺は剣士であり、魔法を使うことはできません」

「安心せい。特別待遇で迎え入れよう」

「特別、って……」

「それほどの価値があるということじゃ。なにせ、災禍の種により誕生した化け物を滅ぼしたからのう。そのような真似、魔法騎士団でも難しい。それほどの実力者を野放しにしておくなんて、なんともったいない話じゃろう。そう思わぬか?」

「そう言われてましても……」


 ひたすらに困惑してしまう。


 あの事件の後、騎士に勧誘されることはあった。

 しかし、魔法騎士団にまで勧誘されるなんて、誰が予想できるだろうか?


「無茶を言いますね」

「それほど無茶かのう?」

「無茶でしょう。俺は、剣の腕はそこそこあると思っていますが……」

「師匠は、そこそこ、ってレベルじゃないわよ」

「無茶苦茶、というレベルでありますね」

「……そこそこあると思っていますが」


 あえて訂正せず、強調して言う。


「魔法はまったく使えません。そのような者が魔法騎士団に入隊しても、役に立つことは難しいかと。魔法騎士団としても、魔法を使えない者を迎え入れても、扱いに困るでしょう?」

「それが、そうでもなくてな」


 プレシア曰く……


 魔法使いは強力な力を持つが、弱点もある。

 詠唱の時間だ。


 魔法は即座に発動できるものではない。

 詠唱を必要として、その間は、誰かが時間を稼がなければならない。


 今まで魔法騎士団は、他の騎士団と連携を取り。

 あるいは、部隊内で時間差で魔法を放つなどの工夫をして詠唱時間を稼いできた。


 しかし、プレシアはそれに限界を感じているらしい。

 他者に頼ることなく、自力で時間を稼げるようにしなければならない。

 そうでないと、いずれ来るかもしれない大きな災厄を前に倒れてしまうかもしれない。


「故に、ガイがおれば安心できるのじゃよ」

「ちょっと! それ、師匠を壁にするって言っているようなものじゃない!」

「あなたが魔法騎士団の団長だとしても、拙者、さすがに聴き逃がせないでござるよ」


 アルティナとノドカが目を鋭くした。


「まあ、壁役というのは否定はせぬが……本題は、そこではない。指南役になってもらいたいのじゃ」

「指南役?」

「妾の団員達は優れた魔法使いではあるが、困ったことに、魔法のことしか考えなくてのう……物理的な戦い方をまるで学ぼうとしないのじゃよ。そのようなことは魔法で補えばいい、とか言ってな」

「それは、まあ……」


 当然の話ではないだろうか?


 優れた魔法使いならば、大抵のことはできる。

 己の身体能力を強化して剣士と同じように戦うこともできる。


 魔法に頼れば解決だ。

 わざわざ物理的な力を得る必要はないのでは?


 そんな俺の疑問に、プレシアは困った感じで首を横に振る。


「妾達、魔法使いは確かに優れた存在じゃ。万能と言ってもよい。しかし、魔力が尽きたらなにもできぬ」

「ふむ」

「魔力が尽きた時、逃げ回ることしかできぬ。それでは騎士の意味がない。魔力が尽きたとしても、そこそこ、戦える手段が必要なのじゃよ。また、魔力が尽きぬように、物理的な手段を交える必要もある」


 納得の話だ。


 魔法だけに頼るのではなくて、物理的な力も得る。

 それが可能となれば、さらに大きく成長することが可能だろう。


「そういうわけで、魔法騎士団に勧誘したわけじゃ。色々と調査した結果、お主が最高の剣士という声を多くもらってな」

「最高なんて、そのようなことは……」

「なに、謙遜するでない。むしろ、誇れ」

「そうね。師匠は、もっとドヤ顔をしてもいいと思うわ」

「自己評価が低すぎるのであります」


 むぅ。

 二人の弟子にまで、そんなことを言われてしまうなんて。


「報酬は弾もう。待遇も最高のものを用意しよう。どうじゃ? ウチに来ないか?」

「……申しわけありませんが」


 俺にはすでに、アルティナとノドカという弟子がいる。

 二人に剣を教えるので精一杯だ。

 追加で魔法騎士団の面々に指南なんて、とてもじゃないが……


「報酬って、どれくらいなのかしら?」


 ふと気になった様子で、アルティナがそう問いかけた。


「契約金として、金貨5000枚じゃ」

「ごっ……!?」

「月給は600枚じゃな」

「ろっ……!?」


 アルティナとノドカが絶句した。

 そして……


「「わかりました、受けましょう!!」」


 なぜか二人が勝手に返事をしてしまう。


「こらこら」

「だって、師匠!? 5000枚よ、5000枚! こんなチャンス、滅多にないわよ!?」

「一気に稼ぐチャンスであります! 月給600なら、1年で8200枚であります!」


 7200枚な?

 ノドカには、剣だけではなくて算術も教えた方がいいのだろうか?


「理解していると思うが、これだけの額を出すことは、基本的にない。この額は、それだけガイのことを評価している証と思ってほしいのじゃ」

「むぅ……しかしですね」

「金額に不満はないようじゃな。待遇もあまり気にしてなさそうに見える。そうなると……魔法騎士団に所属することに対する問題を感じているのか。魔法騎士団に対する不信というわけではなくて、組織に所属することに対する疑念。束縛されることを嫌い、自由に動きたいのじゃろうな」


 正解だ。

 やはり、プレシアはすごい。

 まるで人の心を読んでいるかのように、俺の考えていることをピタリと当ててくる。


「ならば、期間限定の契約、ということでどうじゃ? 魔法騎士団に所属しなくてもよい。代わりに、こちらへ赴いて、定期的に団員に指導する。まあ、そうなる場合は、当然、報酬は引き下げるが……それでも、十分な額を用意すると約束しよう」

「それなら……そうですね。いい条件だと思います」

「そうじゃろう、そうじゃろう。ならば、一時的な指南役として契約しようではないか。そして、互いの合意があれば、契約期間を更新していく……という形でよいな?」


 もしかして……

 プレシアは、最初からこの展開を考えていたのだろうか?


 はじめは条件の高いものを突きつけて。

 無理とわかればランクを下げて、うまい妥協点を探る。


 頭の切れる人だ。

 見た目は子供だけど、魔法騎士団の団長を務めているだけのことはある。


「それならば、とは思いますが、一つ懸念が」

「なんじゃ?」

「俺のようなおっさんが指南役として赴いても、誰も耳を貸してくれないのでは?」

「もっともな話じゃな」


 もっとも、と言いつつも、プレシアはニヤリと笑う。

 この質問も想定内だったようだ。


「故に、妾は提案しよう……我が魔法騎士団のエースとの決闘をな」

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