79話 会食
3日後。
魔法騎士団、団長との会食の日がやってきた。
場所は、エストランテにあるレストラン。
それなりに稼いだ俺達でも、足を運ぶのに躊躇してしまうほどの高級店だ。
団長は王都にいたらしいのだけど……
わざわざ、こちらに足を運んでくれたらしい。
俺達のために、そこまでしてくれるのは光栄なのだけど……
なぜ、そこまで? という疑問は消えない。
――――――――――
「こちらでお待ちください」
広い個室に案内された。
いや……個室?
宴会ができるほどに広く、そして、優雅な部屋だ。
中央に設置されているテーブルは大きく、細かな細工が施されている。
部屋の端に数名の店員が待機して、いつでもオーダーを承れるような体勢をとっていた。
「なんか、これは……」
「お、落ち着かないのでありますよ……」
そわそわとする俺とノドカ。
しかしアルティナは、余裕の笑みを浮かべていた。
「二人共、落ち着きなさいよ。田舎者みたいよ?」
「俺は、ずっと山にいたから、そのまんま田舎者だな……」
「拙者の国も、王国に比べると田舎と表現するしか……」
「……なんかごめん」
気を使われてしまった。
師匠として情けない姿は見せたくないのだけど……
剣ならともかく、こういう場はほとんど経験がないから、どうにもこうにも慣れないんだよな。
せめて恥をかかないように、この数日でアルティナから教えてもらったことを活かしていこう。
「おまたせしました」
騎士がやってきて、団長の到着を告げた。
扉が開かれて……
「はじめましてなのじゃ」
10歳くらいの女の子が姿を見せた。
「「「???」」」
アルティナとノドカ……そして俺は、首を傾げてしまう。
はて?
この小さな女の子は誰だろう?
愛らしい顔立ちで、将来は美人になることは間違いないだろう。
表情もどこか不敵なもので……
愛らしい子供なのだけど、しかし、子供らしくないという矛盾を感じさせた。
宝石のような輝きを放つ金色の髪は長く、足元まで伸びていた。
子供らしいというべきか、長い髪を大きなリボンで飾っている。
「どうした? なにを呆けておる?」
「え? あ、いや……」
「……あぁ、そういうことか。妾の外見に戸惑っているのじゃな? やれやれ、若作りも大変じゃのう……まあよい。先に自己紹介をしようか」
女の子は、ドレスのスカートを軽く摘み、丁寧に頭を下げる。
「妾の名前は、プレシア・ソークェイド。魔法騎士団の団長を務めておる」
「「「は?」」」
俺達は、再び首を傾げてしまう。
この女の子が魔法騎士団の団長?
冗談だろう?
慌てて随伴している騎士を見るけれど、苦笑されてしまう。
そうなりますよね、という反応だ。
冗談を言っているわけではなくて、ドッキリをしかけている様子もない。
ということは、本当に……
この小さな女の子が、魔法騎士団の団長?
女の子は苦笑しつつ、席に座る。
「ほれ。妾の自己紹介は済んだのじゃから、今度は、そちらの番ではないか?」
「……あっ。し、失礼しました」
信じがたいけれど、彼女は本物なのだろう。
そう感じた俺は、慌てて自己紹介をする。
「ガイ・グルヴェイグです。冒険者をしています。よろしくお願いします」
「えっと……アルティナ・ハウレーンよ……じゃなくて、です」
「拙者、ノドカ・イズミと申します」
「うむ。よろしく頼む」
あまりにも予想外な展開だけど……
なにはともあれ、会食が始まる。
前菜が運ばれてくると、プレシアは笑顔で言う。
「ここは、妾のお気に入りの店でな。味は保証するから、楽しんでほしい」
「ありがとうございます」
「……あ、本当にめっちゃ美味しい」
「アルティナ殿、言葉遣いが……」
「めっちゃ美味しいですわ」
「……もう、なんでもいいでござる」
「ははは。なに、マナーなどは気にする必要はない。公の場ではなくて、妾が個人的に開いた会食じゃからな。気楽に楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
この寛容さ……見た目は子供だけど、それに惑わされると、とんでもないことになりそうだ。
「ガイは……おっと、すまぬ。名前で呼んでもいいか?」
「ええ、問題ありません」
「礼を言う。妾のことも、気軽にプレシアと呼んでくれ」
「だ、団長、さすがにそれは……」
騎士が慌てるものの、
「なんじゃ? 妾の名前を呼ぶのに、妾以外の者の許可が必要なのか?」
「そ、そうではなくて……団長なのですから、もっと威厳というものを……」
「はっ。威厳なんてものは必要ないわ。皆を束ねる力があればよい。うちは実力主義じゃからのう」
「そうですが……」
「それに……」
プレシアがちらりとこちらを見た。
「ガイは、相当な実力者。なればこそ、上から見るというのは失礼。対等な目線で話をしなければならないじゃろう?」
「……わかりました」
「うむ」
部下が折れて、プレシアは満足そうに頷いた。
本当に団長なんだな。
上下関係を見せつけられると、改めてそう感じた。
「で……話を戻すが、ガイよ。今日は、突然の招待に応じてくれて礼を言う」
「いえ。こちらこそ、招待していただき感謝します」
「うむ。実は、エストランテの英雄と呼ばれているお主に頼みたいことがあってな」
続けて運ばれてきたステーキをぱくりと食べつつ、プレシアは気軽な様子で言う。
……来たか。
普通の会食ではない。
なにかしら目的があると思っていたが、なにかの依頼なのだろうか?
俺は警戒しつつ、それを表に出さないようにして、ステーキを食べる。
……ちなみに、アルティナとノドカは目をキラキラと輝かせて、夢中でステーキを食べていた。
「妾は、回りくどいことは好かぬ。故に、単刀直入に言わせてもらおう。お主……魔法騎士団に入らないか?」




