78話 魔法騎士団
魔法騎士団というのは、その名前の通り、魔法を武器として戦う騎士団のことだ。
基本、魔法を使える者は少ない。
剣を扱うのに比べると、魔力のコントロールする方が10倍も難しいと言われている。
故に、魔法使いは少ない。。
魔法使いのみで構成された魔法騎士団は、他の騎士団よりも強力な力を持つけれど、一部隊しか存在していない。
小規模ではあるものの、少数精鋭のエリート部隊という認識が正しい。
そんな魔法騎士団が……しかも団長が、俺を食事に……?
意味がわからない。
突然の展開に頭がついていけず、呆然としてしまう。
騎士が不思議そうに首を傾げた。
「ガイ殿?」
「あ、いや……失礼しました。突然のことに驚いて……」
「こちらこそ、突然の話、失礼しました。自分も驚いていまして……グルヴェイグ殿は、団長のお知り合いなのですか?」
「いえ、そのようなことは……団長のお名前は?」
「プレシア・ソークェイドです」
……知らない名前だな。
少なくとも、知り合いにそんな名前の人はいない。
名前を知らない、簡単な知り合いなら他にもいるのだけど……
そんな相手が、わざわざ食事に招待するだろうか?
さほど親しくないのに?
謎だ。
「いかがでしょうか? 応じていただけませんか?」
「……二つ、確認したいのですが」
「はい、どうぞ」
「それは、今すぐなんですか?」
「いえ。自分がグルヴェイグ殿の都合のいい日時を聞いて、そこから調整する形になります」
「ここにいるアルティナとノドカは俺の弟子なのだけど、二人を同席させても?」
「ええ、問題ありません。団長からは、グルヴェイグ殿のご友人がいるのなら、一緒に……と言われていますので」
「ふむ」
招待の理由は謎だけど、理不尽な内容ではない。
こちらのことをきちんと考えてくれている。
特に拒む理由はないし……
「わかりました、受けましょう」
「おぉ、そうですか。ありがたい」
騎士は笑顔になる。
うまくいくかどうか不安だったのだろう。
「では、都合のいい日をお聞かせいただければ」
「えっと……」
アルティナとノドカを見る。
二人は、俺に任せる、という感じでそれぞれ頷いた。
「明日以降であれば、基本、いつでも問題ありません。事前に連絡をいただけるのなら、調整しますから」
「ありがとうございます! では、そのように団長にお伝えさせていただきます。失礼いたします」
騎士は何度も頭を下げて去っていった。
そのタイミングで、アルティナとノドカが口を開く。
「師匠、すごいじゃない!」
「ガイ師匠、すごいであります!」
「ど、どうしたんだ、二人共? そんなに興奮して……」
「だって、あの魔法騎士団の団長と会食よ? こんなに名誉なことはないわ!」
「王国の切り札と呼ばれている存在でありますからね。挨拶をしてもらっただけでも幸せが訪れると言われているのに、会食とは……」
ふむ?
困った。
世情に疎いせいで、どれほどすごいことなのか、いまいちわからない。
魔法騎士団が少数精鋭のエリート部隊、というのは知っているのだけど……
それだけではなくて、人々から称賛と憧れを受けているみたいだ。
そのトップである団長と会食となると……ふむ。
少し緊張してきたな。
ドレスコードは必要なのだろうか?
食事のマナーは厳しいのだろうか?
あいにく、その辺りはさっぱりだ。
どうするべきか……
「ふっふっふ……師匠、あたし達のことを忘れた?」
懸念を口にすると、アルティナがドヤ顔をした。
「あたし、剣聖だから、そういう場に出たことがあるわ。完璧、っていうわけじゃないけど、服の選び方を教えてあげる」
「自分は、食事のマナーについては厳しく教え込まれたのであります! なので、その辺りでお力になれるかと」
「助かるよ」
「それじゃあ、ごはんを食べたら、さっそく服屋に行きましょう!」
「え、今からかい?」
「会食は明日です、ってなったら困るでしょう? 膳は急げ、よ」
「拙者達も服を選ばないといけませんね」
「そうね。ふふ、どんなドレスにしようかしら?」
「拙者は、ドレスを着たことがないのですが、とても強い興味があるのであります!」
「オッケー。なら、ノドカのもあたしが見繕ってあげる」
「感謝いたします!」
二人は楽しそうに話をする。
服の話で盛り上がるところを見ると、アルティナもノドカも、やっぱり女の子なんだなぁ、と思った。
「服やマナーのことはわからないから、頼むよ」
「任せてちょうだい!」
「はい!」
「で、予算はこれくらいで」
「えっ、こんなに!?」
「大丈夫なのでありますか?」
「問題ないさ」
ここしばらく、色々な依頼をこなしていたからな。
わりと貯蓄はある。
全部、使い切るわけにはいかないが……
後生大事に取っておくよりは、こういう機会に使った方がいいだろう。
なんだかんだ、アルティナとノドカはおしゃれをしたいだろうし……
そのために、師匠としてできる限りのことはしてあげたい。
「よーし、燃えてきたわ! 最高のコーデを見せてあげる!」
「自分も、最強のマナーを教えてさしあげるのです!」
「はは、お手柔らかに頼むよ」




