77話 末永く
短時間でシュロウガ達が再び襲撃してきたことに疑問を覚えていたのだけど……
どうやら彼らは、転移の魔道具を使用したらしい。
俺達もそれを使わせてもらうことにした。
シュロウガとその門下生達を拘束して、魔道具でエストランテに跳ぶ。
そして、騎士団にシュロウガ達を引き渡した。
容疑は……数え切れないほど。
同時に、セリスを頼ることにした。
他国の貴族と揉めた。
俺は気にしないのだけど、アルティナとノドカは気にしているらしく……
いざという時に備えて、セリスに相談することに。
セリスは、二つ返事で俺達の力になることを約束。
そして、俺達も驚くほどの迅速な対応を見せて、問題が起きることはないと言ってくれた。
なにをしたか、正直、さっぱりわからないのだけど……
セリスが持つ『力』を使ったのだろう。
彼女のような権力者が味方というのは、非常に頼もしいことだ。
そして……
今回の事件を受けて、ノドカとシュロウガの婚約は正式に解消された。
シュロウガの家もダメージを負い、しばらくは表舞台に出てこれないとのこと。
というか……
今回の件、キバの独断専行がほとんどだったらしく、シュロウガ家としては、キバの横暴な振る舞いに日頃から頭を悩ませていたらしい。
そして、今回の件。
キバは家の中の立場も失い、徹底的に再教育されることになったとのこと。
たぶん、二度と会うことはないだろう。
こうして、無事、全ての問題を解決することができた。
――――――――――
エストランテに戻り、宿を取る。
それから一階の食堂で、三人で遅い昼食を食べた。
「ふぅ……事情聴取とか、めんどくさいだけじゃなくて、めっちゃ時間かかったわね……シグルーンの時は、こんなにかからなかったのに」
「今回は、他国が絡んでいるからな。少し問題が複雑化しているんだろう」
「拙者のせいで、すみませぬ……」
「なに、気にすることはないさ。無事、問題を解決することができた。それを喜ぼう」
「じゃあ、お祝いにお酒を……」
「「自重して」」
「うぐっ」
俺とノドカに同時に言われて、アルティナは怯んだ。
やれやれだ。
アルティナのお酒好きは、なんとかならないだろうか?
ほどよくなら気にしないのだけど、アルティナのそれは、ほどよくで済むような量ではなくて……
見てて心配になるほどだ。
「ガイ師匠、アルティナ殿」
食事を終えたところで、ノドカが深く頭を下げた。
「この度は、拙者の事情に巻き込んでしまい、申しわけありませんでした……!」
「やめてくれ。俺は、師匠としての務めを果たしただけだ」
「そうよ。あたしも、同じ門下生として、できることを……というか、あたし、思い返せばなにもしていないわね……ふふ、それなのに剣聖とか滑稽だわ」
「あ、いえ!? アルティナ殿には、色々と相談に乗っていただき……そちらもまた、深く感謝しております!」
ぺこぺことノドカが頭を下げる。
そこまでしなくてもいいのだけど……
でも、そうでもしないと気が済まないのだろう。
「その……一つ、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんだい?」
「拙者は……まだ、ガイ師匠のことを師匠と呼んでもいいでありますか? これだけの迷惑をかけておいて、なんて図々しいことかと思いますが……」
「もちろん」
「ですが自分は、どうしてもガイ師匠に……え?」
即答したら、ノドカはきょとんと、不思議そうな顔をした。
アルティナは苦笑している。
「ノドカがもういい、と思っていないのなら、まだ、キミは俺の弟子だ。まあ、師匠としてなにができるか、なかなか難しいところではあるが……できる限りのことをしていきたいと思っているよ」
「……ガイ師匠……」
「まったく。ノドカは、まだまだ師匠のことがわかっていないわね。こういう人なのよ。迷惑なんて思っていないし、引け目を感じることもない。だから……これからも、あたしと一緒に剣を学びましょう?」
「……アルティナ殿……」
ノドカは涙ぐみ……
でも、手の甲でぐいっと拭う。
そして、晴れやかな笑みを見せた。
「はいっ! これからも末永く、よろしくお願いいたします!」
その笑顔はとても綺麗だった。
「……ちょっと。それだと、師匠のところに嫁ぐみたいじゃない」
「えっ!? あ、いえ、その……決してそのようなつもりは。し、しかし、拙者としては、そういう選択もやぶさかではないと申しますか……」
「よーし。ノドカ、ちょっと表に出なさい」
「なぜでありますか!?」
「あたしを差し置いて、そんなことを言うなんて……100年早いわ!」
「もしや、アルティナ殿も……」
「な、なんでもないわよ!? とにかく、剣の道にそういう感情は不要! 捨てておきなさい!」
「し、しかし拙者は……うぅ、嫌です! いくらアルティナ殿といえ、これは譲れませぬっ」
「いいわ。ならば、決闘よ!」
「了解であります!」
「こらこら」
なんの話かわからないが、どうして決闘という流れになる?
剣を学ぶためというならいいのだけど、そういうわけではなさそうだし……
うーん。
ノドカが加わり、アルティナに良い刺激も悪い刺激も与えているみたいだ。
……まあ、いいか。
二人は、なんだかんだ相性が良いように見える。
きっと将来、欠かせないパートナーになれるだろう。
アルティナとノドカの将来が楽しみだ。
ただ……
その時、俺はどうしているのだろう?
俺は、今年で四十。
いい歳をしたおっさんだ。
幸い、今のところ思った通りに体は動いてくれるものの、それもいつまで続くか。
必ず老いによる問題と直面する時がやってくるだろう。
その時……
あるいは、そうなる前に俺は……
「失礼」
振り返ると、一人の騎士がいた。
アルティナやノドカは警戒するものの、しかし、彼から敵意は感じない。
「はい、なんでしょう?」
「ガイ・グルヴェイグ殿でしょうか?」
「ええ、そうですが……」
「突然、申しわけありません。自分は、魔法騎士団に所属する者なのですが……実は、団長がグルヴェイグ殿を食事に招待したいと」
「……え?」




