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75話 シュロウガの無意味な切り札

「ふっ!」


 短い吐息を吐きつつ、木剣を横に薙ぐ。

 側面から襲いかかろうとしていた男達を迎撃。


 男達は苦悶の表情を浮かべて倒れて……

 そして、シュロウガの仲間達を全て打ち倒すことに成功した。


「これで、残りはキミだけだ」

「なっ、あぁ……ば、バカな……!? 数十人もいたのに、たった一人に負けたっていうのか!? ありえねぇぞっ!!! おまえら、とっと起きろ! そのおっさんをぶち倒せ!!!」


 シュロウガの理不尽な命令に応えるものはいない。

 というか、応えられない。


 全員、漏れなく各部の骨を折っておいた。

 致命傷ではないが、まともに動くことはできないだろう。


 力を合わせれば、どうにかこうにか街に移動はできるだろうが……

 それだけ。

 戦闘なんて無理だ。


「人にばかり戦わせていないで、キミも戦ったらどうだ?」

「う、ぐぅ……!?」


 シュロウガに木剣を向けると、彼は、一歩、後ずさる。


「どうした? 門下生達を戦わせておいて、自分は戦わないつもりか? それは、あまりにも情けないぞ」

「てめぇ……この俺様が誰なのか、まったく理解していないようだな」


 あえて挑発してみると、シュロウガは下がるのを止めた。

 しかし、積極的に前に出てくるわけでもない。


 戦闘を避けているのだろうか?

 なぜ?


「くっ……こんなおっさん如きに、この俺様が……わけねえ、こんなおっさん、一撃で終わるはずだ! はずなのに……なんで、体が動かねぇ……Aランクの魔物に睨まれたかのようで……いや、それ以上の化け物じゃねえのか。くっ……!」


 なにを戸惑い、迷っているのかわからないが……

 彼は、ここで止めなければいけないだろう。

 二度とバカなことを考えないように、しっかりと説得する必要がある。


 でないと、またノドカに害が及ぶかもしれない。


 ……それだけはダメだ。

 断じて許容できない。


「まあいい。キミが戦おうと戦うまいと、俺の取る行動は一つ。そこの門下生達と同じように、キミも戦闘不能にして、そのまま捕まえさせてもらう。そして、冒険者ギルドに……いや。この場合は騎士団だな。騎士団に突き出させてもらう」

「この俺様を犯罪者扱いするつもりか!?」

「事実、犯罪者だろう? 不当に女性を襲い、さらおうとして……それが叶わないとなれば、数十人で襲ってくる。これのどこが犯罪でないと?」

「くっ……!」


 一歩、シュロウガに近づいた。

 彼はびくりと震える。


「そ、それ以上、近づくんじゃねえ! 必ず後悔するぞっ!!!」

「それは、俺と戦うつもりになった、ということか?」

「はっ、てめぇみたいなおっさん、戦うまでもねぇ……いいか? 俺は、シュロウガ家の長男で、いずれ、シュロウガ家の全てを継ぐ者なんだぞ!」

「それが?」

「……は?」

「それがどうしたのだろうか?」


 話を聞く限り、シュロウガもまた、位の高い人物なのだろう。

 シグルーンと同じように、貴族なのだろう。


 ただ……


 彼は、この国の人間ではない。

 他国の人間だ。


 他国の権威を持ち出されても、正直、困る。

 俺にはまったく関係ないことだ。


「てめぇ、バカか!? シュロウガ家を知らないとか、もぐりにもほどがあるだろう。俺の国では、シュロウガ家は大きな力を持っていて……」

「しかし、ここはキミの国ではない。それでも、シュロウガ家の力は及ぶのだろうか?」

「そ、それは……」

「権力は、時に剣を上回る力を持つ。しかし、万能ではない。いつでもどこでも通用すると思っていたら、それは大間違いだ」


 だからこそ、ハイネとシグルーンは終わりを迎えた。


「もしかして、家の権力が切り札だというのか? だとしたら、失望せざるをえないな」

「う、うるせぇっ! たかが平民ごときが、俺様をそんな目で見るな! ぶち殺されてぇのか!!!?」

「そうだな、今の俺は平民だ」


 グルヴェイグ家は、この前の事件で取り潰しになった。


 俺は、家を離れて数十年経っていたため、関係者とみなされることなくて、まったく被害を受けていないが……

 とにかく、一応の貴族という肩書も消えた。


「ただ、それがどうした? 平民が貴族に逆らわないと、誰が決めた? 絶対的に従順ではないからこそ、時に、革命が起きるんだ」


 一歩、前に出る。

 シュロウガが震えた。


「て、てめぇっ……この俺様に手を出すつもりか!?」

「そうでもしないと、キミは諦めてくれそうにないからな」

「そ、そんなこと、ぜってぇーに許されねぇぞ!!! 違う国とはいえ、貴族に手をあげるなんて、極刑ものだぞ!?」

「そうかもしれないが、しかし、ノドカを害そうとしたことは許せそうにない」

「なっ……!? あんな女一人のために、てめぇ……しょ、正気か!?」


 さらに近づいていくと、シュロウガから余裕が一気に消えていく。


「やめろっ、来るな! 俺様の力で潰されてぇのか!?」

「それはキミの力ではなくて、キミの家の力だ」

「てめぇのようなおっさんなんて、シュロウガ家なら簡単に捻り潰すことが……!」

「俺のことはどうでもいいが、大事な弟子に危害を加えようとしたキミを許すことはできそうにない。キミの家がなんであれ、ここで、相応の報いを受けてもらう」

「や、やめろっ……この俺を誰だと思っている!? シュロウガ家の跡取りで、ノドカをもらい、街の全てを手に入れるキバ・シュロウガ様だぞぉ!?」

「俺は、キミの家のことは知らない。どうでもいい。大事なのは……キミが俺の敵ということだけだ」

「くそがっ……! なら、俺様の本気を見せてやるよぉ!!!」


 シュロウガは獣のように吠えて、とある剣を抜いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ、家元の方からよくやってくれた、て言われそうだなぁ。 言わなかったら家元の格が知れるけども。
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