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72話 懲りない男

 ノドカとシュロウガの決闘から1週間。

 アルティナが危惧していたような事態は起きず、平穏な日々が過ぎていた。


「そろそろエストランテに戻るか」


 朝食の席で、俺はそう言う。


「そうね。街を空けて、けっこう経つし……冒険者稼業も再開しないとね」

「ガイ師匠とアルティナ殿は、冒険者なのですか?」

「言ってなかったっけ? そうよ。あたしはAランクで……」

「俺はEランクだな」

「E!? ガイ師匠がEランクだなんて……そ、その冒険者ギルドは、化け物揃いなのでありますか……?」


 どんな想像をしたのか、ノドカは顔を青くしてぶるぶると震えていた。


 それを見て、アルティナが笑う。


「あはは、違う違う。師匠みたいなのがたくさんいたら、魔王も裸足で逃げ出すわ。そんな恐ろしいこと、ありえないわよ」


 言いたい放題な弟子だった。


「師匠は、少し前に冒険者登録をしたばかりなのよ。だから、まだEランク、っていうわけ」

「なるほど……てっきり、ガイ師匠みたいな化け物がたくさんいるのかと」

「師匠みたいな化け物は師匠だけで十分よ。ツッコミが追いつかないわ」

「そうでありますね、一人で十分でありますね」


 ノドカも、わりといいたい放題だった。


 いや、まあ……

 良い師匠をやれているかどうか、そこは自信がないのだけど。

 ただ、それでも、もう少し敬ってほしいというかなんというか……がくり。


「……」


 とあるものを感じて、俺は席を立つ。


「師匠?」

「……大勢の人の気配がするな」

「「えっ」」


 アルティナとノドカが驚いた。


「それ、本当に……?」

「野生動物や魔物と勘違いした……ということは?」

「それはそれで問題だろう」

「言われてみれば!?」


 ノドカは、わりとうっかりさんなのかもしれない。


「二人共、武器を」

「「はい!!」」


 言われた通り、アルティナとノドカは、それぞれ武器を取る。

 俺もアイスコフィンを腰に下げて、外に出た。


「よぉ、ノドカ」


 こうなる可能性はあると考えていたものの……

 できれば外れてほしかった。


 ニヤニヤと笑うシュロウガの姿が。


 彼だけじゃない。

 他に、数十人の男がいた。

 いずれも敵意をまとい、武器を携えている。


「あんたっ、また懲りずに……師匠?」


 今にも掴みかかるような勢いのアルティナを手で制した。


 この後の展開は簡単に予想できるのだけど……

 それでも、わずかな可能性に賭けて、争いを回避する方向に持っていきたい。


 俺の剣は守るためのもの。

 無意味に戦うためにあるのではない。


「こんなに大勢でなんの用だろうか?」

「決まってるだろ、おっさん。ノドカだよ、ノドカを渡せ」

「ノドカの問題なら、この前の決闘で決着したと思うが?」

「んなわけねぇだろ!? あんな詐欺、認めるわけあるか!」

「詐欺?」

「この俺様が、ノドカに負けるわけがねぇ! てめぇらは、なにかしら罠を仕掛けていたんだろう? ったく、卑怯なおっさんだぜ」

「む? 罠なんて仕掛けていないし、仕掛ける必要もないが……」

「あぁ? なに言ってやがる?」

「ノドカは、キミよりも強い。これは、誰が見ても明らかだ。なぜ、格下の相手に罠を仕掛ける必要がある?」

「なぁっ……!?」


 シュロウガは、あんぐりと口を開けた。


 後ろで、アルティナとノドカが肩を震わせる。


「ちょ、師匠……それ、ストレートすぎ」

「シュロウガが相手とはいえ、同情してしまうであります」


 二人は笑うけれど、なにかおかしなことを言っただろうか?

 至極当然の指摘をしたまでなのだけど……


「てめぇ……」


 シュロウガは剣を抜いた。

 獣のような殺気を放つ。


「気が変わった。ノドカに自分の立場ってもんをしっかり教育してやろうと思っていたが、おっさん……てめぇが先だ。ぶっ潰してやるよ!」


 シュロウガが吠えて、それを合図にしたかのように、周囲の男達も一斉に剣を抜いた。


 皆、ノドカと同じ刀を使う。

 ということは、同じ門下生なのだろうか?


 シュロウガはリベンジマッチを考えた。

 しかし、一人では敵わないと思い、仲間を連れてきた……こんなところか。


 ふむ?


 わかりやすい展開ではあるものの、わかりやすすぎるな。

 まだ一つか二つ、切り札を持っていると考えた方がいいだろう。


「数にものを言わせて、相手に言うことを聞かせようとは……同じ門下生として、拙者は恥ずかしいでござるよ」

「ふん。雑魚をいくら揃えたところで雑魚よ。一気に蹴散らしてあげるわ」


 アルティナ、それは悪役のセリフっぽいぞ。


「ノドカとアルティナは下がっていてくれないか?」

「えっ? し、しかし……」

「そうよ! 師匠一人なんて無茶よ!」

「大丈夫だ、俺は問題ない」


 多少の自信はある。

 おっさんでも、がんばる時はがんばるということを見せてやらないとな。


「……なにか、他に罠があるかもしれない。二人はそれに備えてほしい」

「……オッケー」

「……わかりました」

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